YAKUGAKU ZASSHI
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Stereo-divergent Synthesis of Nonproteinogenic Amino Acids and Synthetic Study for Biologically Active Cyclopeptides
Kosuke Ohsawa
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2023 Volume 143 Issue 7 Pages 551-557

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Summary

Naturally occurring cyclopeptides are potential middle-molecule drug candidates beyond Lipinski’s rule of five. This paper focuses on the structural determination and structure–activity relationship (SAR) study of two cyclopeptides: asperterrestide A and decatransin. The proposed asperterrestide A was synthesized by solution-phase peptide elongation, followed by macrolactamization. NMR analysis and molecular modeling studies revealed the stereochemistry at the two α-positions of amino acid residues as opposite to each other. This was further confirmed by the total synthesis of the revised asperterrestide A. SAR study of synthetic products revealed that the β-hydroxy group in the nonproteinogenic amino acid residue was not essential for its cytotoxicity. In addition, N-alkyl-enriched peptide fragments of decatransin were synthesized in solution-phase without diketopiperadine formation. The putative candidates of decatransin was synthesized by convergent peptide coupling, followed by macrocyclization under modified Mitsunobu conditions. The structure of the natural decatransin, including its absolute configuration, was determined through a comparison of spectral data and the cytotoxicity exhibited by the synthetic products.

1. はじめに

近年,低分子医薬品と抗体やタンパク質などの高分子医薬品の長所を併せ持った創薬モダリティとして,ペプチドや核酸といった分子量500–2000程度の中分子医薬品が注目を集めている.1,2その中でも環構造を有するペプチドは,側鎖の配座自由度が減少し,標的タンパクとの特異的結合やペプチダーゼ耐性が期待できる.3さらに,N-アルキルアミドや疎水性の特殊アミノ酸を多数有することで膜透過性が向上し,細胞内タンパクの標的を可能とすることから,Lipinsikiによって提唱されているrule of five4から逸脱しているにもかかわらず創薬研究における魅力的なシード化合物群である.5,6実際,免疫抑制剤であるシクロスポリンA(17,8や抗生物質であるバンコマイシン(29といった中分子ペプチド天然物が治療薬として使用されている(Fig. 1).培養・単離技術の発達により,バンコマイシン耐性菌に対しても抗菌活性を有するスタロバシンI(310など,興味深い構造及び生物活性を持つペプチド天然物が現在でも多数発見されている.一方,煩雑な精製を経て単離されたごく微量の化合物では,十分な構造決定や構造活性相関研究への展開がしばしば難しい.本稿では,奇抜な構造を持つ生物活性環状ペプチド天然物に焦点を当て,アスペルテレスチドA(411及びデカトランシン(512の全合成に基づく構造決定と構造活性相関研究について紹介する.

Fig. 1. Chemical Structures of Natural Products That are Biologically Active Peptides

2. アスペルテレスチドAの全合成と構造訂正

アスペルテレスチドA(4)は2013年に海洋由来の真菌Aspergillus terreus SCSAF0162の培養液から単離・構造決定された環状テトラペプチドである.13アントラニル酸(anthranilic acid: Ant),D-アラニン,D-あるいはD-allo-イソロイシン及び(2R,3S)-3-ヒドロキシ-N-メチルフェニルアラニン[3-hydroxy-N-methylphenylalanine: MePhe(3-OH)]と構成アミノ酸がすべて特殊アミノ酸であり,ヒトがん細胞(U937, MCF-7)に対する細胞毒性や抗インフルエンザウイルス活性(H1N1, H3N2)を示す.剛直なAntにより分子全体の立体配座が固定化されたファーマコフォアとして興味深いが,原著論文ではIleのβ位の立体化学の決定に至っていない.そこで,4の構造決定及び構造活性相関研究への展開を目的に,その合成を行った.

まず,MePhe(3-OH)の立体発散的合成を行った(Scheme 1).β位への水酸基の導入について,類似化合物の合成で報告されているGarner’s aldehydeに対する有機金属試薬の1,2-付加反応ではジアステレオ選択性に難があったため,1416 フェニルケトン6に対するFelkin–Anhモデルでのヒドリド還元を計画した.検討の結果,還元剤としてL-Selectride®を用いることで7aを収率86%,ジアステレオ比89 : 11で得ることができた.アルコール8aとしたところでジアステレオマーをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離し,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl: TEMPO)を用いた直接的なカルボン酸への酸化により(2R,3S)-9aへ導いた[Scheme 1(a)].17一方,ent-6に対する水素化ジイソブチルアルミニウム(diisobutylaluminium hydride: DIBAL-H)を用いたキレーションモデルでの反応を行うと,7bを収率79%,ジアステレオ比87 : 13で与え,同様の変換を経て(2S,3S)-9bを得た[Scheme 1(b)].

Scheme 1. Stereoselective Synthesis of MePhe(3-OH)

続いて,天然物はイソロイシンのα位エピマーであるD-allo-イソロイシンを構成アミノ酸に含むと想定し,4aの合成を行った(Scheme 2).ジペプチド10aに対して,ジエチルアミンによる9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(9-fluorenylmethyloxycarbonyl: Fmoc)基の除去及び立体障害の大きいアミノ酸とのカップリングを繰り返し行い,ペプチド鎖を伸長した.求核性の低い芳香族アミンと(2R,3S)-9aの縮合はトリホスゲン/2,4,6-コリジンにより,18,19 N-メチルアミンとD-allo-イソロイシンの縮合は(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウムヘキサフルオロホスファート(1-cyano-2-ethoxy-2-oxoethylidenaminooxy)dimethylaminomorpholinocarbenium hexafluorophosphate: COMU)/N,N-ジイソプロピルエチルアミン(N,N-diisopropylethylamine: DIEA)により良好に進行し,テトラペプチド11を得た.酸性条件下,tert-ブトキシカルボニル(tert-butoxycarbonyl: Boc)基,tert-ブチル(tert-butyl: tBu)基及びtert-ブチルジメチルシリル(tert-butyldimethylsilyl: TBS)基を一挙に除去した後,1 mMの高希釈条件下1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート1-[bis(dimethylamino)methylene]-1H-1,2,3-triazolo[4,5-b]pyridinium 3-oxide hexafluorophosphate: HATU)/DIEAを用いたマクロラクタム化を行い,4aの全合成を達成した.しかし,合成した4aのNMRスペクトル及び比旋光度の符号は天然物のものと一致せず,天然物の構造決定に誤りがあることが示唆された.

Scheme 2. Synthesis of the Proposed Asperterrestide A

合成した4aのNMR解析及び天然物の構造決定の再解析を行い,C9及びC25位の2ヵ所の立体配置が逆の4bあるいはC9位の立体配置のみが逆の4cが天然物の正しい構造であると推測された[Fig. 2(a)].そこで,MacroModel(Maestro Version 10.1.018)20,21を用いた立体配座解析による候補化合物の絞り込みを行った.計算を簡略化するためD-allo-イソロイシンをD-バリンとした12b及び12cをモデル化合物に設定して配座探索を行い,得られた最安定配座におけるプロトン間の距離情報を取得した[Fig. 2(b)].天然物で核オーバーハウザー効果(nuclear Overhauser effect: NOE)相関が観測された5つのプロトン間の距離に注目すると,12bはいずれも3 Å以内にあり,NOE相関が観測されるほど十分に近いと考えられた.一方,12cはD-バリンのNHプロトンとD-アラニンのα位プロトンH25の間,並びにD-アラニンのNHプロトンとβ位プロトンH26の間でいずれも3 Å以上の距離をとり,天然物のNOE情報を満たさないと予想された.したがって,12bに対応する4bが天然物の正しい構造であると推定した.

Fig. 2. 3D Structures of Model Compounds and Predicted Distance between Their Protons

構造訂正の妥当性を確認するため,先に合成した(2S,3S)-9bを用いて,確立した経路に基づく4bの合成を行った(Scheme 3).しかしながら,ジペプチドent-10と(2S,3S)-9bの縮合により得たトリペプチド13bにおいて,脱Fmoc後のD-allo-イソロイシンとの縮合は進行せず原料であるN-メチルアミンの回収に留まった.そこで,N-メチルアミン近傍の立体障害の低減を目的に,TBS基を除去した14に対する脱保護及びCOMU/DIEAを用いた縮合を行い,所望のテトラペプチド15を収率45%で得ることができた.この際,O-アシル化体も副生したが,分取TLCにより分離し,酸性条件下での脱保護とHATUを用いたマクロラクタム化を経て4bの合成を達成した.合成品のNMRスペクトル及び比旋光度は天然物のものとよく一致し,天然物の正しい構造を4bと結論づけた.

Scheme 3. Synthesis of the Revised Asperterrestide A

合成した環状ペプチドのU937及びMOLT-4に対する細胞毒性を評価した(Table 1).提唱構造4aが細胞毒性を示さなかったのに対して,4bは天然物と同程度の細胞毒性を示したことからも,4bが天然物の正しい構造であることが支持された.また,確立した経路に則り合成した10-デオキシ体16b及び16cについても細胞毒性を評価した.すると,16b4bと同程度の細胞毒性を示したことから,10位水酸基は生物活性に重要でなく,構造簡略化やプローブ導入の足掛かりにできることがわかった.一方,16bの25位の立体配置を逆にした16cは細胞毒性を示さず,主鎖上の立体化学に基づく環状ペプチド三次元構造が生物活性に重要であることが示唆された.

Table 1. IC50 Values of Cytotoxicity of Synthetic Asperterrestide A and Its Analogues against Cancer Cell Lines

a The IC50 values were determined by deriving the best-fit dose response line among triplicate experiments. b Reported in Ref. 13. c Evaluated as a control.

3. デカトランシンの全合成と構造決定

デカトランシン(5)は2015年に腐生菌Chaetosphaeria tulasneorumから単離・構造決定された環状デカデプシペプチドである.22 α-ヒドロキシカルボン酸(α-hydroxy acid: HA)に加えて,ピペコリン酸(pipecolinic acid: Pip)やホモロイシン(homeleucine: Hle)などの特殊アミノ酸を含む30員環構造を有しており,Sec61におけるタンパク質のトランスロケーション阻害により強力な細胞毒性(HCT-116: IC50 0.14 µM, COS-1: IC50 0.03 µM)を示すことから,新規抗がん剤のシードとして期待されている.主鎖にN-アルキルアミド構造を多く持つため水素結合ドナーが極めて少なく,経口投与を志向した中分子創薬の点でも興味深いが,天然からごく微量しか単離されておらず平面構造しか報告されていない.そこで,5の構造決定を目的に,その合成を行った.

天然物の推定生合成経路から,すべての構成アミノ酸はL体であると考えた.一方,HAの立体化学に関する情報は生合成経路に含まれていなかったため,天然物の構造を(HA-αR)-5aあるいは(HA-αS)-5bと推定した.それらの逆合成解析をScheme 4に示す.鍵となる30員環構築は,セコ酸(HA-αR)-17a及び(HA-αS)-17bに対するマクロラクトン化を計画した.混み入った位置でのエステル化による環形成は挑戦的であるが,環状アミノ酸であるPipによりターン構造が誘起されれば,環化点同士が接近しやすくなると期待した.一般に,ペプチドの伸長に伴い立体障害の大きいN-メチルアミンの縮合は進行しにくくなる.そこで,環化前駆体をN-アルキルアミド結合が連続するトリペプチド18,ペンタペプチド19並びにHAを含むジペプチド(HA-αR)-20a及び(HA-αS)-20bに分割し,比較的立体障害の小さい第二級アミドの位置で収束的に連結することとした.

Scheme 4. Retrosynthetic Analysis of Putative Structures of Decatransin

まず,2つのN-アルキルアミドが連続する18の合成に着手した[Scheme 5(a)].N-アルキルアミドが連続するペプチドを伸長する際,脱保護あるいは縮合時におけるジケトピペラジン(diketopiperadine: DKP)の形成がしばしば問題となる.23,24実際,C末端を2-トリメチルシリルエチル[2-(trimethylsilyl)ethyl: TMSE]基で保護したジペプチド21に対して,加水素分解によるベンジルオキシカルボニル(benzyloxycarbonyl: Cbz)基の除去並びに1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド[1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide: EDCI]·HCl/1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-hydroxybenzotriazole: HOAt)を用いたアラニンとの縮合を行うと,いずれの工程でも対応するDKPである23の生成が確認された.そこで,加水素分解の際は化学両論量の塩化水素(hydrochlonic acid: HCl)を加えて22とすることで,縮合の際は活性化エステルを系中で調製してからDIEAを添加して22の塩を解除することで,遊離したアミンを即座にブレンステッド酸あるいはアシル化剤で捕捉し,トリペプチド18を二工程収率93%で得た.続いて,確立したペプチド伸長条件を4つのN-アルキルアミドが連続する19に適用した[Scheme 5(b)].ジペプチド24からトリペプチド25の合成においては,縮合剤として立体障害に強いブロモトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(bromo-tris-pyrrolidinophosphonium hexafluorophosphate: PyBrop)が有効であった.ペプチド鎖を伸長しペンタペプチド26とした後,フッ化テトラブチルアンモニウム(tetrabutylammonium fluoride: TBAF)を用いてN-アルキルアミドを損なうことなくシリル系保護基を除去し19に導いた.

Scheme 5. Synthesis of N-Alkylamide-bearing Peptide Fragments

合成した3つのぺプチドフラグメントを用いて,(HA-αR)-5a及び(HA-αS)-5bの合成を行った(Scheme 6).トリペプチド18のCbz基を加水素分解により除去した後,EDCI·HCl/HOAtを用いたペンタペプチド19との縮合により,オクタペプチド27を得た.脱Cbz化の後,Evans不斉アルキル化反応25,26により立体選択的に合成した(HA-αR)-20aあるいは(HA-αS)-20bを縮合させることで,デカトランシンの構成アミノ酸をすべて有するデカペプチド(HA-αR)-28a及び(HA-αS)-28bに導いた.縮合の際に生じたエピ体はTBAFによりシリル系保護を除去した後,逆相HPLCにより分離可能であり,セコ酸(HA-αR)-17a及び(HA-αS)-17bを単離した.次に,(HA-αR)-17aを用いた大員環構築を検討したが,活性化エステルを経由するマクロラクトン化ではN-メチルイソロイシンのカルボニル近傍の立体障害のため,原料のエピ化あるいは望む環化体を痕跡量与えるのみであった.そこで,アルコールを脱離基として活性化する光延反応を検討した.環化前駆体(HA-αR)-17aに対して,高希釈条件下アゾジカルボン酸ジイソプロピル(diisopropyl azodicarboxylate: DIAD)/トリフェニルホスフィンを作用させると,アルコールの立体反転を伴い環化が進行し,(HA-αS)-5bの合成を達成した.同様にして,(HA-αS)-17bから(HA-αR)-5aを合成した.このとき,ベンゼン上に電子求引性基を持つトリス-4-フルオロフェニルホスフィンを用いることで,反応中間体であるホスフィンオキシドの脱離能が増大し,27,28 収率が65%に向上することを見い出した.合成品のNMRスペクトル並びにLC/MSの保持時間を天然物と比較したところ,(HA-αR)-5aとよく一致し,天然物の構造を(HA-αR)-5aと結論づけた.また,HCT-116に対する細胞毒性を評価したところ,(HA-αR)-5a(IC50 0.019 µM)が(HA-αS)-5b(IC50 0.19 µM)より10倍ほど活性が強く,HAの立体化学に関する構造活性相関情報を取得できた.

Scheme 6. Total Synthesis of Putative Structures of Decatransin

4. おわりに

以上,環状ペプチド天然物であるアスペルテレスチドA並びにデカトランシンの全合成に基づく構造決定と構造活性相関研究について詳述した.また,本稿では割愛したが,スタロバシンIの構成アミノ酸の一つであるカルノサジン類の合成については,適切な共通中間体を設定することでジアステレオマーを発散的に合成し,総工程数を削減することに成功した.29本研究を通じて,多くの不斉点を有する微量単離ペプチド天然物の構造決定における,立体化学を厳密に制御できる化学合成の重要性を示すことができたと考えている.得られた知見を基に独自の中分子ペプチド創薬研究を進めていきたい.

謝辞

本稿で紹介した研究は,東北大学大学院薬学研究科反応制御化学分野において行われました.終始,御指導御鞭撻頂きました土井隆行教授に深謝申し上げます.また,アスペルテレスチドAの研究の遂行を支えて頂いた増田裕一博士(現三重大学大学院生物資源学研究科准教授)並びに吉田将人博士(現筑波大学大学院理工情報生命学術院数理物質科学研究群准教授)に感謝申し上げます.本研究成果は共同研究者である学生諸子の日々の努力の結果であり,菅井柾人修士,張 林楠修士(以上アスペルテレスチドA),深谷早紀子修士(デカトランシン)に感謝致します.本研究の一部は,科学研究費補助金若手研究(JP19K16310, JP21K15216),新学術領域研究「反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製」(15H05837)の支援により行われたものであり,感謝申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2022年度日本薬学会東北支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES AND NOTES
 
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