YAKUGAKU ZASSHI
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Case Report
Colitis Suggested to be Related to Nivolumab in a Gastric Cancer Patient with a History of Ulcerative Colitis: A Case Report
Tatsunori Ogawa Yuka AimonoYoshiko SaitoTakahiro YagisawaTatsuhiro IwayamaAkihiro TamuraShinji Hirai
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2024 Volume 144 Issue 2 Pages 239-242

Details
Summary

We experienced a case in which long-term use of nivolumab in a patient with a history of ulcerative colitis led to disease control of gastric cancer. The case is a 77-year-old man. The patient had a history of ulcerative colitis and remained in remission on mesalazine 1500 mg/d. With continuous monitoring, nivolumab could be continued up to 16 courses, but was withdrawn due to the appearance of diarrhea (grade 1) and bloody stools, which was relieved with prednisolone (PSL) 40 mg/d. After two more courses, diarrhea (grade 3) appeared again, which improved with PSL 60 mg/d and increased dose of mesalazine. It is difficult to distinguish whether colitis that occurs after nivolumab administration is due to relapse exacerbation or irAE. The onset of irAE colitis is often reported within 3 months, and the fact that this patient developed irAE colitis after 8 months, despite having ulcerative colitis, is considered novel. In the future, we hope to accumulate cases so that immune checkpoint inhibitors can be used safely in patients with ulcerative colitis, and to establish appropriate methods for their use.

緒言

免疫チェックポイント阻害薬によって増強した免疫が正常細胞を攻撃することで発症する免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)に注意が必要となるが,まだ十分に理解されていないのが現状である.今回,既存の潰瘍性大腸炎寛解中の患者において慎重な経過観察を行う中で,ニボルマブの長期治療継続ができ病勢制御に至った1例を経験したので報告する.

症例

患者:77歳,男性

主訴:下痢,血便

現病歴:20XX−2年10月に胃がんと診断され,12月に胃全摘術,胆嚢摘出術を施行した.TNM分類はpT3, pN3a, cM0のpStageIIIBであった.20XX−1年1月に他院で術後補助療法としてS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)を開始した.4コース施行し5月のcomputed tomography(CT)で腹膜結節と腺がん細胞陽性の胸水貯留があり,当院で1次治療weeklyパクリタキセル+ラムシルマブを導入した.10月に胸水増悪がありprogressive diseaseとなり5コースで終了し,2次治療のニボルマブ(240 mg/d,2週間毎)を開始した.

治療経過:潰瘍性大腸炎はメサラジンのみで寛解維持され,ベースラインの便は1回/日,bristol scale(BS)4であった.タルクによる胸膜癒着術を施行し病勢がコントロールできていたが,20XX年7月にニボルマブ投与17コース目予定で下痢4回/日(grade 1),BS 6,血便が出現し大腸炎(grade 2)の診断で休薬した.

既往歴:55歳で潰瘍性大腸炎(左側結腸炎型),73歳で咽頭がん,74歳で白内障

併用薬:メサラジン1500 mg/d

休薬時身体所見:身長167.0 cm,体重47.6 kg,body surface area(BSA)1.52 m2

休薬時検査所見:white blood cell(WBC)7500/µL(neutro 73%, lym 20%, mono 7%, eosino 0%),red blood cell(RBC)379×104/µL,hemoglobin(Hb)11.5 g/dL,platelet(Plt)21.5×104/µL,aspartate transaminase(AST) 28 U/L,alanine transaminase(ALT)25 U/L,creatinine(Cr)0.82 mg/dL,natrium(Na)138 mmol/L,kalium(K) 4.1 mmol/L,chlorine(Cl)105 mmol/L,C-reactive protein(CRP)0.12 mg/dL

大腸炎発症後:大腸炎の発症日をday 0として,day 1に下部内視鏡検査・生検を行い,活動期中等症以上の潰瘍性大腸炎寛解導入目的でprednisolone(PSL)40 mgを静脈投与,day 2からPSL 30 mg/d内服となった.Day 7にはPSL 20 mg/dへ減量し,day 14には下痢1回/日(grade 1),血便なし,BS 5と改善しPSL 15 mg/dへ減量してニボルマブの投与を再開した(17コース目).Day 28には排便1日1回,BS 4でPSL 10 mg/dへ減量しニボルマブ18コース目を投与した.しかし,day 31から下痢6回/日(grade 2),day 33にgrade 3の下痢(日中は1時間毎,夜間は30分毎に水様便BS 7)が出現し,PSL 30 mg/d,メサラジン3000 mg/dへ増量となるも改善なくday 35に入院となった.Day 31からの下痢回数増加と食欲減退もあり入院時の体重は45.9 kg(−1.7 kg)となっていた.ニボルマブ再投与によって下痢が発現していることから,ニボルマブに起因する大腸炎の治療としてPSL 60 mg/d(1.3 mg/kg),メサラジン4000 mg/dへ増量となった.その後,PSLをday 41に50 mg/d, day 48に40 mg/d, day 55に30 mg/dと漸減していき,day 60に症状は改善したため退院,best supportive care方針となった(Fig. 1).メサラジンは4000 mg/dで継続し,肝機能及び腎機能障害等の副作用の発生はなかった.

Fig. 1. Course of Treatment

Pre-existing ulcerative colitis was maintained in remission until 16 courses; diarrhea improved with increasing doses of mesalazine and PSL at the onset of colitis after 18 courses.

内視鏡所見(Fig. 2)と病理所見:内視鏡所見では右半結腸は問題なく下行結腸は潰瘍性大腸炎の寛解期の所見であったが,横行結腸左側に限局的に発赤や易出血性の病変を認めた.S状結腸の近位部から直腸にかけて粘液付着,多発潰瘍,易出血性病変を認め,主治医により活動期の潰瘍性大腸炎と診断された.病理学的には横行結腸の限局的発赤と直腸からの生検でリンパ球,形質細胞,好中球,少量の好酸球からなる炎症細胞が高度に浸潤し陰窩炎や陰窩膿瘍を伴っており,陰窩の密度の低下や陰窩の形態の不整,杯細胞の減少も認めた.

Fig. 2. Endoscope Image

Endoscopic results on the day following withdrawal of the 17th course due to diarrhea and bloody stools: A. localized erythema and easy bleeding lesions were observed in the circled area on the left side of the transverse colon; B. mucus adhesion, multiple ulcerations, and easy bleeding lesions were observed in the rectum.

考察

ニボルマブの投与は臨床試験において自己免疫疾患の患者は除外されており安全性は不明な点が多いため,今回の症例が臨床的意義のある報告になると考える.潰瘍性大腸炎の既往患者に対する免疫チェックポイント阻害薬投与時には,慎重なモニタリングでの安全管理と,大腸炎の再燃に対する早急で的確な対応が必要である.

一般的にirAE大腸炎の発現時期は3ヵ月以内の報告が多く,13ニボルマブの臨床試験においても発現時期は3ヵ月であった.4また既報57で潰瘍性大腸炎の既往患者にニボルマブを投与し,下痢・血便を発症した症例はあるが,本症例では潰瘍性大腸炎を合併しているにもかかわらず大腸炎の発症が治療開始から約8ヵ月後であった.8ヵ月継続できた理由の1つとして,メサラジンによる直接的な結腸粘膜の免疫抑制作用や抗炎症作用が関係していると考えられる.8また,免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫疾患の再燃は寛解期よりも活動期で起こり易いとの報告があり,9本症例では既存の潰瘍性大腸炎が20年以上寛解維持されていたことも長期にニボルマブを投与できた要因と考えられる.患者背景としてperformance status(PS)1,理解度・アドヒアランスは良好であったことも要因と考えられる.さらにニボルマブ導入時に薬剤師外来でスクリーニングとして既往などを確認し,ニボルマブ投与前には毎回医師の診察前に薬剤師外来で副作用などの身体状況をモニタリングできていたことも寄与していると考えられる.以上のことより潰瘍性大腸炎が長期間寛解維持されていれば,排便回数など大腸炎症状を慎重にモニタリングすることで免疫チェックポイント阻害薬の投与を検討できると考える.

本症例では16コース施行後に1日3, 4回の下痢と血便が出現し,下痢grade 1,大腸炎grade 2と推定された.一般的に潰瘍性大腸炎は連続性のびまん性であり,10再燃の典型的な所見は粘液付着,多発潰瘍,易出血性病変である.11一方irAEでは既報5のように腺底部でのアポトーシス像の増加がみられる.本症例において,病理医及び検査医の見解は限局性病変(発赤が部分的)が横行結腸に認められるが,S状結腸から直腸に認められる所見は潰瘍性大腸炎の再燃の典型的な所見であり,またアポトーシス像はほとんどみられなかったことから,irAEと炎症性腸疾患の鑑別は容易ではなくirAEの診断に至らなかった.内視鏡・生検結果から感染性腸炎は否定的であり,主治医により総合的に潰瘍性大腸炎の再燃であると診断された.大腸炎再燃の診断時は活動期であり,ペンタサ®錠の添付文書上,活動期には必要に応じて1日4000 mgを2回に分けて投与することができるため,PSL投与に加えて既報6と同様にメサラジンを1500 mg/dから4000 mg/dへ増量することにより症状の悪化を抑えられた可能性も考えられる.またirAEを否定できないため,PSLをirAE対応時の用量で投与することで症状の悪化を抑えられた可能性も考えられる.

ニボルマブ休薬後の17コース再開においては,大腸炎発症からニボルマブの用法の投与間隔である2週間があいており,前回16コース目からは1ヵ月経過していた.また下痢回数,血便なしからグレード評価はgrade 1で全身状態も落ち着いていたためニボルマブは投与可の判断となった.ニボルマブの適正使用ガイドとがん免疫療法ガイドライン(第3版)を参照すると,PSLをどの程度まで減量すれば再投与可能か基準はなく,PSL投与下でもニボルマブを投与できるため,投与回数を重ねて治療効果を高めることも重要と考えられた.しかしその後下痢が再発していることから,下痢が完全に落ち着きPSLの投与が必要なくなるまで様子を見てニボルマブを再開することも検討する必要があったと考えられる.18コース施行後の下痢はgrade 3であり,ニボルマブの投与は中止した.ニボルマブ再投与により下痢が再発していることからirAEの判断となり,PS低下による負担も考慮し内視鏡を行っていないため,正確にirAEか判別不能であるがステロイドの投与量はirAEでの推奨量の60 mg(1.3 mg/kg)で開始した.潰瘍性大腸炎が薬剤に関係なく再燃した可能性も考えられるが,ニボルマブの再投与により症状が再現していることから,ニボルマブに起因する大腸炎であると考えられた.

転院となりニボルマブによる治療効果を追跡することができなかったが,ニボルマブ最終投与2ヵ月後のCTで胸水の減少が認められ,臨床評価としてstable diseaseであることから,ニボルマブ中止後も一定の治療効果はあったものと思われる.

ニボルマブの臨床試験において自己免疫疾患の患者は除外されており安全性は不明であり,4,12添付文書上では自己免疫疾患患者は自己免疫疾患が増悪するおそれがあると記載されている.ニボルマブによるirAEには自己免疫疾患様の症状が含まれており,発症に自己免疫機序が関係する潰瘍性大腸炎とirAEとして報告されているニボルマブによる大腸炎が病態として重なっている可能性も考えられる.ニボルマブのような免疫チェックポイント阻害薬を使用した場合は本症例のような免疫関連有害事象が起こる可能性を常に念頭に置く必要がある.大腸炎の症状発現時はirAEかそうでないか判別は難しいため,患者の身体状況にも合わせて内視鏡検査や病理検査などで判断材料を増やし,また休薬での経過観察,PSL・メサラジン投与等の対処を早期に行っていくことが重要であると思われる.

本研究の限界として,18コース投与後の大腸炎発症時に内視鏡検査を行っていないためirAEかどうかの鑑別ができなかった.潰瘍性大腸炎の再燃であればメサラジンの投与・増量も選択肢として考えられ,潰瘍性大腸炎の再燃でないirAEであればPSLの投与が必要と考えられるため,今後は症状発現時にはできる限り内視鏡検査などで症状の原因を鑑別し,適切な治療を行うことが必要であると思われる.またirAEを否定できない場合,PSLの投与量等においてirAEとしての対応を検討する必要があると思われる.

自己免疫疾患を合併している患者に免疫チェックポイント阻害薬を使用する場面は今後も増えていく可能性が考えられる.自己免疫疾患の患者にも安全に免疫チェックポイント阻害薬が使用できるように,症例の蓄積を行うことで有害事象の病態やメカニズムについて明らかにすることが重要と思われ,適正な免疫チェックポイント阻害薬使用方法の構築が期待される.

謝辞

本症例は研究課題「臨床業務における薬剤師による有害事象報告教育基盤の構築」の一部であり,2021年度日本医療薬学学術小委員会より研究助成を受けて実施した.ご指導頂きました構成委員の皆様に心より深謝申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

REFERENCES
 
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