YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Zinc Suppresses Colorectal Cancer Development through Cell-mediated Immunity
Keigo Nishida Naoya Nakagawa
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2024 Volume 144 Issue 5 Pages 475-481

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Summary

Zinc is one of the essential trace elements, and is involved in various functions in the body. Zinc deficiency is known to cause immune abnormalities, but the mechanism is not fully understood. Therefore, we focused our research on tumor immunity to elucidate the effect of zinc on colorectal cancer and its mechanisms. Mice were treated with azoxymethane (AOM) and dextran sodium sulfate (DSS) to develop colorectal cancer, then the relationship between zinc content in the diet and the number and area of tumors in the colon was observed. The number of tumors in the colon was significantly higher in the no-zinc-added diet group compared to the normal zinc intake group, and about half the number in the high-zinc-intake group compared to the normal-zinc-intake group. In T-cell-deficient mice, the number of tumors in the high-zinc-intake group was similar to that in the normal-zinc-intake group, suggesting that the inhibitory effect of zinc was dependent on T cells. Furthermore, we found that the amount of granzyme B transcript released by cytotoxic T cells upon antigen stimulation was significantly increased by the addition of zinc. We also showed that granzyme B transcriptional activation by zinc addition was dependent on calcineurin activity. Collectively, we have shown that zinc exerts its tumor-suppressive effect by acting on cytotoxic T cells, the center of cellular immunity, and that it increases the transcription of granzyme B, one of the key molecules involved in tumor immunity. In this symposium, we would like to introduce our latest data on the relationship between zinc and tumor immunity.

1. はじめに

亜鉛(zinc: Zn)は必須微量元素のひとつであり,生体内の総亜鉛量は恒常的に維持されている.亜鉛の恒常性が破綻した場合,様々な症状を呈することが知られている.例えば,亜鉛摂取不足や亜鉛の吸収阻害により亜鉛が不足すると味覚障害,創傷治癒遅延,免疫異常などの症状を呈する.13また,抗菌薬やレボドパなどの薬剤は亜鉛とキレートを形成することにより消化管からの亜鉛吸収を阻害し,薬剤性味覚障害の一因となることが指摘されている.4,5

亜鉛は免疫機能を調整するうえで重要な役割を果たす栄養素であり,亜鉛欠乏は様々な疾患と関連している.感染症は亜鉛欠乏と関連する疾患のひとつである.発展途上国における小児の感染性下痢症に対して亜鉛投与を行うことにより,下痢の期間が短縮することが示された.6また,coronavirus disease 2019(COVID-19)において,成人では血清亜鉛値が70 µg/dL未満の患者で重症化のリスクが高く,小児においても入院率が増加すると指摘されている.7,8

亜鉛欠乏はアレルギー性疾患との関連もあり,Kandaらはアトピー性皮膚炎において亜鉛がnuclear factor-kappa B(NF-κB)の発現を抑制するジンクフィンガープロテインのA20を誘導し,炎症性サイトカインを減少させることを示した.9一方,亜鉛トランスポーターのZnT5は肥満細胞におけるプロテインキナーゼCを介するNF-κBの核移行に必要であり,これらはアレルギー疾患の発症に関与する可能性が示されている.10このように,生体内の亜鉛の恒常性を維持することは亜鉛欠乏症とそれに付随する様々な合併症を予防するうえで重要である.

亜鉛の不足が悪性腫瘍の増悪に関与することは,以前より多くの臨床研究により報告されている.Gyorkeyらは前立腺がん患者において,健常者と比較し前立腺組織中の亜鉛含有量が低いことを報告した.11また,OzekiらはC型肝炎ウイルス根絶後のC型肝炎患者において,低い血清亜鉛濃度が肝細胞がんのリスク因子となることを示した.12これらの報告は,組織中や血清中の亜鉛濃度が低下することは悪性腫瘍の発生や進展などのリスクを増加させることを示唆している.さらに,Epsteinらは前立腺がん患者において亜鉛摂取量が多いほど前立腺がんによる死亡リスクが低下することを示した.13このことから,亜鉛を適切に摂取することはがんによる死亡リスクを低下させる可能性が示唆された.

上述したように,亜鉛ががんのリスク低下に寄与していることが過去の多くの臨床報告から示されてきた.しかしながら,亜鉛の腫瘍抑制効果に関するメカニズムは十分に理解されているとは言えない.本稿では,亜鉛と腫瘍免疫の係わりについて筆者らの研究成果を中心に紹介する.

2. 亜鉛摂取量の増加は大腸の腫瘍の発生頻度低下を引き起こした

はじめに,筆者らは亜鉛による腫瘍抑制効果を観察するために,大腸変異原性発がん物質であるアゾキシメタン(azoxymethane: AOM)と炎症誘発剤のデキストラン硫酸ナトリウム(dextran sodium sulfate: DSS)により,マウスの大腸に腫瘍を誘導した(Fig. 1A).その結果,飼料に亜鉛を70 mg/kg添加したマウス(コントロール群:Zn 70 mg)と比較し,飼料に亜鉛を1000 mg/kg添加したマウス(高亜鉛摂取群:Zn 1000 mg)で大腸において腫瘍数が有意に減少し,飼料中の亜鉛含有量を5 mg/kg以下に制限したマウス(亜鉛非添加群:Zn <5 mg)では腫瘍数が増加した(Fig. 1B).マウスの血清亜鉛濃度は,高亜鉛摂取群で増加し,それ以外の群において有意な変化は観察されなかった(Fig. 1C).以上より,亜鉛の摂取量に応じて大腸の腫瘍数が減少していくことが判明した.

Fig. 1. Effect of Zinc Administration on Colon Cancer Induced by Azoxymethane (AOM) and Dextran Sodium Sulfate (DSS)

Female ICR mice were used for this experiment. A: experimental protocol; B: number of tumors per mouse; C: serum zinc level collected at week 20. Bar: S.D.; * p<0.05; ** p<0.01; *** p<0.001; Tukey’s HSD test.

3. CD4とCD8陽性T細胞の除去により高亜鉛摂取群の腫瘍抑制効果が消失した

上述で示したように高亜鉛摂取群のマウスにおいて腫瘍の発生頻度が抑制される結果が得られた.そこで,この高亜鉛摂取による腫瘍抑制効果に腫瘍免疫系が関与しているかについて検討した.腫瘍免疫では,自然免疫のナチュラルキラー(natural killer: NK)細胞や獲得免疫の細胞傷害T細胞が正常細胞と腫瘍細胞を識別して,腫瘍細胞をアポトーシスへと導く免疫監視機構の一端を担っている.亜鉛の腫瘍抑制効果にNK細胞やT細胞が関与しているか調べるために,抗NK1.1抗体を用いてNK細胞,また抗CD4抗体と抗CD8抗体を用いてCD4とCD8陽性T細胞を除去し,AOMとDSSによる大腸がんの誘導を同様に行った.その結果,T細胞を除去したマウスにおいて高亜鉛摂取群とコントロール群の腫瘍発生頻度が同等の結果となった(Fig. 2A).一方,NK細胞を除去したマウスにおいて高亜鉛摂取による腫瘍抑制効果が観察された(Fig. 2B).これらの結果より,高亜鉛摂取による大腸の腫瘍抑制効果には,T細胞(細胞性免疫)が係わっていることが考えられた.

Fig. 2. Effect of Anti-CD4/CD8 Antibody and Zinc Administration, or Anti-NK1.1 Antibody and Zinc Administration, on Colon Cancer Induced by Azoxymethane (AOM) and Dextran Sodium Sulfate (DSS)

Female ICR mice were used for this experiment. A: number of tumors per mouse (anti-CD4/CD8 antibody administration); B: number of tumors per mouse (anti-NK1.1 antibody administration). Bar: S.D.; * p<0.05; *** p<0.001; Tukey’s HSD test.

4. 免疫担当細胞の機能発現に対する亜鉛の効果

亜鉛欠乏により胸腺の萎縮が観察されることが知られている.また,亜鉛欠乏によって分泌亢進したグルココルチコイドによって胸腺のナイーブT細胞が減少することがこれまでに示されている.14そこで,亜鉛をマウスに経口投与して血清亜鉛を高めた状況下でマウス免疫担当細胞の分化に対する影響を調べた.マウス脾臓中のCD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞の割合は,亜鉛経口投与の有無にかかわらず,有意な差は観察されなかった.同様にNK細胞においても分化への影響は認められなかった.亜鉛がT細胞の分化に影響しなかったことから,次に,免疫担当細胞の機能発現に対する影響を解析した.亜鉛をマウスに経口投与後,脾臓細胞を調製し,抗原刺激に対するT細胞からのサイトカイン,パーフォリン,グランザイムB転写量をリアルタイムPCRにより解析した.その結果,コントロール群と比較して亜鉛投与群ではグランザイムB転写量が有意に増加することが示された(Fig. 3A).一方,インターロイキン2(interleukin-2: IL-2),インターフェロン-γ(interferon-γ: IFN-γ),インターロイキン4(interleukin-4: IL-4),パーフォリンの転写量に変化はなかった(Figs. 3B–E).以上の結果より,亜鉛はCD8陽性T細胞に作用し,グランザイムB転写量の調節に関与していることが考えられた.

Fig. 3. Effect of Zinc Administration on the Functional Expression of T-cells

Male C57BL/6 mice were used for this experiment. Spleen cells were antigen-stimulated by anti-CD3/CD28 antibody (50 ng/mL). A: mRNA expression of granzyme B; B: mRNA expression of interleukin-2 (IL-2); C: mRNA expression of interferon-γ (IFN-γ); D: mRNA expression of interleukin-4 (IL-4); and E: mRNA expression of perforin. Bar: S.D.; * p<0.05; two-tailed Student’s t-test.

5. グランザイムBはカルシニューリンの経路を介して転写活性化される

グランザイムBはCD8陽性の細胞傷害性T細胞において抗原刺激依存的に転写が誘導されるセリンプロテアーゼであり,これらキラー活性の発現に重要な役割を果たす分子である.また,グランザイムBは細胞のパイロトーシスに係わるガスダーミンEを活性化することにより腫瘍抑制に関与することが示されており,15,16腫瘍免疫においても重要な役割を果たすことが知られている.さらに,グランザイムBがpositron emission tomography(PET)による測定で抗programmed cell death 1(PD-1)療法などのがん免疫療法における治療応答性の初期バイオマーカーとして利用できる可能性が示されるなど,17細胞傷害性T細胞の抗腫瘍活性と相関する分子である.

グランザイムBの転写活性化経路を調べるため,シグナル伝達分子の各種阻害剤を用いて抗原刺激に対するマウス脾臓中T細胞のグランザイムB転写量をリアルタイムPCRにて解析した.その結果,カルシニューリン阻害剤であるシクロスポリンA(cyclosporin A: CsA)を添加した際にグランザイムB転写量の顕著な減少が観察された(Fig. 4A).一方,mitogen-activated protein(MAP)キナーゼのU0126やphosphoinositide 3(PI-3)キナーゼのウォルトマニンを添加してもグランザイムBの転写量への影響は,CsAと比べ少なかった(Figs. 4B, C).このことより,抗原刺激依存的なグランザイムBの転写活性化にはカルシニューリンが関与していることが示された.

Fig. 4. Effect of Inhibitors of Signaling Molecules on Granzyme B Transcription of T-cells

An expression level of 100% indicates no effect of the inhibitor. Spleen cells were antigen-stimulated by anti-CD3/CD28 antibody (50 ng/mL). A: mRNA expression of granzyme B when 0.1 µM cyclosporin A (CsA) was added; B: mRNA expression of granzyme B when 0.1 µM U0126 was added; and C: mRNA expression of granzyme B when 0.1 µM wortmannin was added. Bar: S.D.; ** p<0.01; *** p<0.001; two-tailed Student’s t-test.

6. 亜鉛は細胞内のカルシニューリンを介してグランザイムBの転写活性を増加させる

筆者らは,これまでに肥満細胞の活性化によって産生されるサイトカインの転写調節に亜鉛が関与していることを示してきた.18,19また,Yuらの報告で,T細胞を用いた実験により,抗原刺激依存的に細胞内亜鉛濃度が上昇し,T細胞の活性化が増強されることが示され,また,この細胞内亜鉛の上昇には,細胞膜に発現している亜鉛トランスポーターZIP6が関与していることが報告されている.20亜鉛が細胞傷害性T細胞におけるグランザイムB転写活性化に係わっているか検討するため,様々な条件で抗原刺激に対するマウス脾臓T細胞のグランザイムB転写量をリアルタイムPCRで解析した.亜鉛キレーターであるN,N,NN′-tetrakis(2-pyridinylmethyl)-1,2-ethanediamine(TPEN)を添加したところ,グランザイムBの転写量は有意に減少した(Fig. 5A).また,マウス脾臓細胞に亜鉛を直接添加したところ,亜鉛の用量依存的に抗原刺激依存的なグランザイムB転写量が増加した(Fig. 5B).さらに,脾臓細胞に亜鉛とCsAを同時に添加すると,亜鉛によるグランザイムB転写の増加量が観察されなくなった(Fig. 5C).これら一連の実験より,亜鉛添加による抗原刺激依存的なグランザイムB転写活性の増強は,少なくともカルシニューリンの活性化が係わっていることが示された(Fig. 6).カルシニューリンは亜鉛含有酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase: SOD)により,活性酸素種による不活性化から保護されることが報告されており,21亜鉛がSODを介してカルシニューリンの活性を維持している可能性が考えられた.

Fig. 5. Calcineurin Activity-dependent Activation of Granzyme B Transcription by Zinc

An expression level of 100% indicates no effect of the inhibitor and zinc. A: mRNA expression of granzyme B when N,N,N′,N′-Tetrakis (2-pyridylmethyl) ethylenediamine (TPEN) was added. Spleen cells were antigen-stimulated by anti-CD3/CD28 antibody (50 ng/mL). Bar: S.D.; ** p<0.01; two-tailed Student’s t-test. B: mRNA expression of granzyme B when zinc sulfate was added. Spleen cells were antigen-stimulated by anti-CD3/CD28 antibody (10 ng/mL). Bar: S.D.; ** p<0.01; *** p<0.001; Tukey’s HSD test. C: mRNA expression of granzyme B when 10 nM CsA and 1 µM zinc sulfate was added. Spleen cells were antigen-stimulated by anti-CD3/CD28 antibody (50 ng/mL). Bar: S.D.; ** p<0.01; *** p<0.001; two-tailed Student’s t-test.

Fig. 6. Zinc Controls in TCR-mediated Granzyme B Gene Transcript via the Calcineurin Pathway in Cytotoxic T Cells

TCR stimulation activates cytotoxic T cells via signaling pathways that increase granzyme B gene transcription. The addition of zinc to cytotoxic T cells increased granzyme B transcription in a calcineurin-dependent manner. Zinc plays a role in the function of cytotoxic T cells, and suggests that this mechanism may have a role of tumor killing. TCR: T cell receptor; ZAP-70: ζ-associated protein 70; PI-3K: phosphatidylinositol-3 kinase; MAPK: mitogen-activated protein kinase; NFAT: nuclear factor of activated T cells; NF-κB: nuclear factor-kappa B.

7. おわりに

亜鉛欠乏による免疫機能異常という現象論は多くの研究者によって報告され,亜鉛と免疫応答との関連が指摘されている.しかしながら,亜鉛による腫瘍免疫システムの役割に関して分子レベルで解析した報告が見当たらなかった.筆者らは,血清や組織中の亜鉛量とがん発生や進行との関連性が,ヒトを対象とした臨床研究により多く報告されていることにヒントを得て,マウス大腸がんモデルを用い亜鉛との関係を調べた.結果,亜鉛による腫瘍抑制効果に細胞傷害性T細胞のグランザイムBが関与していることを示すことができた.22現在,免疫チェックポイント阻害剤が第4のがん治療である免疫療法として注目されている.筆者らの研究成果を踏まえ,亜鉛製剤とチェックポイント阻害剤との併用療法などの応用へつながることに期待したい.

謝辞

本研究は鈴鹿医療科学大学院薬学研究科免疫制御学研究室で遂行されたものである.所属学生諸氏の協力を得てなされたものであり,この場をお借りして御礼を申し上げる.また,本研究を遂行するにあたり,腫瘍免疫に関する助言等を賜った東洋大学理工学部生体医工学科北村秀光氏並びに,糞便中の金属測定を実施して頂いた藤澤 豊氏に深甚なる謝意を表する.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS57で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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