YAKUGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1347-5231
Print ISSN : 0031-6903
ISSN-L : 0031-6903
Symposium Reviews
Mast Cell–Neutrophil Communication Regulates Allergic Diseases
Ryo Suzuki
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 144 Issue 5 Pages 483-488

Details
Summary

Allergic diseases (e.g., food allergies) are a growing problem, with increasing numbers of individuals experiencing them worldwide. Congruently, the adverse reactions (e.g., anaphylaxis) associated with the administration of vaccines against emerging infectious diseases such as coronavirus disease 2019 (COVID-19) have become a familiar problem. Allergic diseases, which have a wide variety of symptoms, are difficult to prevent or cure; treatment is currently limited to therapeutic drugs or allergen immunotherapy. Therefore, elucidating new allergic regulatory factors that control the allergic (i.e., mast cell) responses is important. While investigating the regulatory mechanisms of the wide range of allergic responses of mast cells, we found that the affinity of allergens to immunoglobin E (IgE) regulates allergic inflammation through the differences in the secretory responses of mast cells and the types and interactions of the cells infiltrating the tissues. Here, we present our recent findings regarding the affinity of allergens to IgE in regulating allergic inflammation, heterogeneous secretory granules inducing diverse secretory responses, and mast cells interacting with neutrophils, thereby regulating the various allergic responses.

1. はじめに

アレルギー疾患(食物アレルギー,アナフィラキシーショック等)は,世界的患者数の増加や新興感染症へのワクチン接種に伴う副反応など,これまで以上に重大かつ身近な問題として注目されている.また,最近の国会答弁でもアレルギー疾患が取り上げられるなど益々社会問題化しており,日本における「国民病」として認識されている.アレルギー疾患は,発症部位,病態,重症度など様々な疾患症状を示すだけでなく,幼児から成人,そして高齢者へと成長・加齢に伴って症状が変化することも疾患要因の解明や予防・診断・治療法の開発を難しくしているのが現状である.

アレルギー疾患に対する現在の予防や治療方法については,疾患原因(アレルゲン)への曝露除去をはじめ,抗アレルギー薬や抗炎症薬など医薬品による対症療法が中心である.また,根治療法として期待されているアレルゲン免疫療法についても,長期にわたる治療期間や治療に疾患原因であるアレルゲンを摂取するため危険を伴うなどの問題が存在する.そのため,アレルギー疾患を調節・制御する新たな分子機構やアレルギー制御因子の解明が喫緊の課題となっている.

アレルギー疾患の発症には,マスト細胞(好塩基球)が重要な役割を担っている.1また,マスト細胞の活性化には,アレルゲン,アレルゲン特異的immunoglobulin E(IgE),及び高親和性IgE受容体が重要である.アレルゲンがIgEを介してIgE受容体を活性化すると,アレルゲンの情報(濃度,親和性等)を認識したIgE受容体によって,特異的なシグナル伝達経路が活性化され,様々な炎症性メディエータの分泌反応が誘導される.その結果,アレルギー疾患が惹起される.2このように,多様なアレルギー疾患を理解するためには,アレルゲン–アレルゲン特異的IgE–IgE受容体の3者の関係について,詳細な分子メカニズムの解明が重要と考えられる(Fig. 1).3

Fig. 1. Schematic Model of Mast Cell Activation with an Allergen

われわれは,これまでアレルギー(マスト細胞)応答の“多様性”の制御機構を追究してきた.その過程で,アレルゲンとIgEの親和性が,マスト細胞から分泌する炎症性メディエータの種類や量を厳密に調節していることを明らかにした.さらに,アレルギー疾患モデルを用いた研究から,アレルゲンとIgEの親和性が浸潤細胞の種類にも大きな違いを生じさせ,アレルギー炎症を調節していることを見い出した.4本稿では,アレルゲン,アレルゲン特異的IgE,及びIgE受容体の3者の関係が制御するアレルギー応答の“多様性”の制御要因として,アレルゲンとIgEの親和性によるマスト細胞活性化機構,マスト細胞に存在する不均質な分泌顆粒と分泌反応,マスト細胞と他の免疫細胞との相互作用に関して,われわれの最近の知見も踏まえて紹介する.

2. アレルゲンとIgEの親和性によるIgE受容体の活性化調節機構

アレルギー検査の1つとして血液検査が実施されている.血液検査ではIgE抗体量が測定され,体内総IgE量に加え,各種アレルゲンに対する特異的IgE量も数値化されている.そのIgE測定値は段階的に示され,値の高い方が特異的IgE量が多いことを示しており,アレルギー疾患の1つの指標として使用されている.しかし,アレルゲン特異的IgE値と臨床症状が相関しないケースも存在するのが現状である.5一般的に,生体内で産生される抗体(IgE等)は,アレルゲンの様々なエピトープに対して,異なる親和性を持つことは広く認識されている.しかし,アレルゲンと生体内IgEの結合が,どのようにアレルギー疾患の発症や病態に寄与するのか,現在もなお,そのメカニズムの多くは不明な点が多い.6そこでわれわれは,独自の親和性の異なるアレルゲンを用いて,アレルゲン親和性が制御するIgE受容体の活性化をはじめ,アレルギー(マスト細胞)応答の多様性調節機構を追究した.

われわれの研究では,2種類の親和性の異なるアレルゲン[高親和性:2,4-dinitrophenyl(DNP),低親和性:2-nitrophenyl(2NP)]を用いた.高濃度の低親和性アレルゲン(3000 ng/mL)は,低濃度の高親和性アレルゲン(30 ng/mL)と同程度のIgE受容体[β鎖及びγ鎖のimmunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)内チロシン残基]のリン酸化を誘導することが可能である.われわれは,このような性質を有する親和性アレルゲンを用いて,IgE受容体のリン酸化量(初期入力シグナル強度)が等しい条件下での,各種炎症性メディエータの分泌反応やアレルギー疾患モデルを用いた病態の解析を行った(Fig. 2).その結果,高親和性アレルゲンは,脱顆粒反応(ヒスタミンなどの開口放出反応)やサイトカイン[tumor necrosis factor α(TNFα),interleukin-6(IL-6),interleukin-13(IL-13)]分泌を有意に誘導していた.一方,低親和性アレルゲンの場合には,ケモカイン[C–C motif chemokine ligand 2(CCL2),C–C motif chemokine ligand 3(CCL3),C–C motif chemokine ligand 4(CCL4)]分泌を有意に誘導していることがわかった.4

Fig. 2. FcεRI Signaling Generated by High- or Low-affinity IgE Interactions with an Allergen

(A) Schematic diagram of high- or low-affinity allergen. (B) Experimental model of mast cell stimulation with high- or low-affinity allergen.

このように,IgE受容体の活性化(リン酸化)レベルが等しい条件下において,親和性の異なるアレルゲンによって分泌する炎症性メディエータに違いが生じる理由は,アレルゲンの親和性がIgE受容体を活性化する過程,すなわちIgE受容体のクラスター形成状態が関与しているのではないかと考えた.そこで,IgE受容体クラスター形成過程の生細胞イメージング解析を行った結果,高親和性と低親和性のアレルゲンでは,大きさ,数,動きの異なるIgE受容体クラスターが形成されていることがわかった.さらに,異なる親和性のアレルゲンによって誘導される異なる状態のIgE受容体クラスターでは,会合するキナーゼやアダプター分子の活性化状態やその経時変化も異なっていた.このように,異なる親和性アレルゲンによって生じるクラスター形成状態の違いが,親和性特異的シグナル伝達経路とメディエータの分泌を制御していることが示唆された.4,7

このようにわれわれの研究成果から,アレルゲンの親和性によるIgE受容体を介したアレルギー(マスト細胞)応答の多様性制御の一端が明らかになった.これらはIgE値と臨床症状がかならずしも一致しない要因の一つとして,IgE値とは異なるファクターが存在していることを示唆している.また,生体内IgEは,ポリクローナル状態で存在しており,アレルゲンとエピトープや親和性が異なるIgEによって構成されており,これらポリクローナルIgEとアレルゲンによる複雑なIgE受容体の活性化機構をはじめ,アレルギー(マスト細胞)応答の分子機構の解明によって,多様なアレルギー疾患の機構解明につながると期待される.

3. マスト細胞の分泌顆粒に存在する不均質性と分泌反応

これまでの研究成果から,親和性の異なるアレルゲンでマスト細胞を活性化した際の各種炎症性メディエータの分泌反応(メディエータの種類や分泌量)が異なっていることが明らかになっている.アレルゲンの情報(親和性)に依存する炎症性メディエータの詳細な分泌メカニズムの解明は,アレルギー疾患の多様性制御メカニズムを解明するうえで重要である.しかし,アレルゲン情報に基づくマスト細胞での分泌制御機構については,いまだ十分には明らかになっていない.そこで,マスト細胞に含まれる個々の分泌顆粒の性状(分泌顆粒含有メディエータ)及び分泌反応に寄与する分泌制御タンパク質soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor(SNARE)に着目し,マスト細胞の多様な炎症性メディエータ分泌機構について,個々の分泌顆粒に含有する各種炎症性メディエータに着目して追究した.8,9未刺激状態でのマスト細胞内の分泌顆粒について,アレルギー疾患の発症に寄与する炎症性メディエータであるヒスタミンをはじめ,親和性の異なるアレルゲンで分泌が調節されているサイトカイン(TNFα)及びケモカイン(CCL2)に着目し,これらを含有する個々の分泌顆粒についてイメージング解析により追究した.その結果,各種炎症性メディエータ(ヒスタミン,TNFα, CCL2)は,マスト細胞内で異なる分泌顆粒に局在しており,一部の分泌顆粒では,複数の炎症性メディエータを含有していることも明らかになった.そこで,各種炎症性メディエータ含有顆粒の顆粒サイズについて解析したところ,分泌顆粒のサイズには,違いがあることがわかった(Fig. 3).主にヒスタミン含有分泌顆粒は小さいものが多く,ついでCCL2やTNFαの順番で大きな分泌顆粒に含有されていることが明らかになった.次に,マスト細胞の分泌顆粒膜上に発現し,分泌反応を調節しているvehicle-associated membrane protein(VAMP)に着目し,個々の分泌顆粒での局在解析を行った.その結果,VAMP3とVAMP7については異なる分泌顆粒に局在しており,各VAMPが局在する顆粒サイズは,VAMP3を発現している分泌顆粒が,VAMP7の顆粒と比較して有意に大きいことがわかった.このことから,炎症性メディエータだけでなく,分泌機能タンパク質VAMPについても異なる分泌顆粒に発現していることが明らかになった.このように,マスト細胞の分泌顆粒は一様ではなく不均質性が存在しており,アレルゲン情報に基づいて各種炎症性メディエータの分泌反応を制御している可能性が示唆された.

Fig. 3. Heterogeneity of Secretory Granules in Mast Cells

次に,マスト細胞が分泌する各種炎症性メディエータ(ヒスタミン,TNFα, CCL2)と発現量が多い各VAMP(VAMP3, VAMP7, VAMP8)の分泌反応における機能を明らかにすることを試みた.そのため,各VAMP(VAMP3, VAMP7, VAMP8)をshort hairpin RNA(shRNA)knockdown(KD)システムを利用して,各VAMP KDマスト細胞を樹立した.8ここで作製した各VAMP KDマスト細胞を用いて,アレルゲン刺激に伴う各種炎症性メディエータの分泌を追究した.はじめに,β-ヘキソサミニダーゼを指標に,脱顆粒反応(ヒスタミン分泌)への影響を追究したところ,VAMP8 KDマスト細胞において,脱顆粒量がコントロールshRNA導入マスト細胞と比較して,顕著に減少していることがわかった.また,CCL2の分泌については,VAMP7 KDマスト細胞において有意に減少していることがわかった.これらのことから,マスト細胞は,各種炎症性メディエータや分泌機能タンパク質SNAREの発現を単一分泌顆粒ごとに調節することによって,アレルゲン情報(異なる親和性)を認識し,さらに単一分泌顆粒レベルで多様な分泌反応を制御することによってアレルギー反応の“多様性”を調節している可能性が示唆された.

今回の研究成果からは,分泌過程における分泌機能タンパク質や細胞骨格タンパク質との分子間相互作用や時間的・空間的な制御については依然として不明なままである.今後,アレルゲン情報を受容した分泌顆粒が「いつ」「どこで」「どのように」分泌に係わる分子が相互作用し,単一分泌顆粒レベルでアレルゲン情報特異的な分泌反応が誘導可能なのか,多様なアレルギー応答の解明に向けたより詳細な分泌メカニズムについて,新たな知見が蓄積されることが望まれる.

4. 細胞間相互作用を介したアレルギー応答調節機構

生体内においてマスト細胞は,様々な細胞(神経細胞,免疫細胞等)と直接的・間接的な相互作用を行うことによって,アレルギー応答をはじめ生体内の恒常性を維持していると考えられている.10,11

われわれは,マスト細胞によるアレルギー応答の多様性の制御機構を追究する過程で,アレルギー疾患モデルを用いた研究から,アレルゲンとIgEの親和性が,浸潤細胞の種類に大きな違いを生じさせ,アレルギー炎症を調節していることを明らかにした.特に,高親和性アレルゲンによるマスト細胞の活性化によって,定常状態の組織では血管内を循環している好中球が,アレルギー炎症組織において,血管から組織に浸潤した好中球数が有意に増加しており,更にマスト細胞と好中球が近傍に存在し,相互作用している様子が観察された.

自然免疫において重要な役割を担っている好中球が,アレルギー応答において,どのような役割を担っているのか,好中球によるアレルギー応答調節機構については,今日においても限定的な情報に留まっている.12,13われわれは,これらの問題を解決するため,マスト細胞と好中球を骨髄細胞から高純度で分化・単離し,両細胞のin vitro共存培養系を確立し,アレルゲン刺激応答に伴うマスト細胞と好中球の相互作用について各種イメージングを用いて追究した.アレルゲンで刺激しマスト細胞を活性化させると,はじめ球形をしていた好中球が紡錘形に形態を変化させ,マスト細胞の方向に向かって遊走し接着する様子が観察された.そこで好中球の遊走に関して,軌跡・速度・方向性について解析したところ,分泌反応を起こしているマスト細胞に向かって,好中球が移動速度を上げて長い距離を遊走し,最終的にマスト細胞と接着し相互作用していることが明らかになった.さらに,透過型電子顕微鏡を用いて,マスト細胞と好中球の接着部位を解析したところ,好中球がマスト細胞から分泌された炎症性メディエータを貪食している様子が観察された.このような研究成果は,マスト細胞と好中球の接着を介した相互作用が,生体においてもアレルギー炎症反応を調節している可能性を示唆していた.次にわれわれは,生体レベルでのマスト細胞と好中球の相互作用,及び相互作用を介したアレルギー炎症調節機構について追究した.そのため,体内から好中球を枯渇させたマウスを作製し,14これらとin vivoアレルギー疾患モデルを組み合わせることによって解析を行った.好中球枯渇マウスの作製には,抗Ly6G抗体を用いた.そして,抗体投与後5日目までの末梢血好中球は,野生型と比較して約50%程度まで好中球数が減少していることがわかった.これらのマウスを用いて受動皮膚アナフィラキシー疾患モデルであるpassive cutaneous anaphylaxis(PCA)の作製を行い,マスト細胞の活性化の指標である血管透過性の亢進やアレルギー炎症応答の指標として耳介肥厚について解析した.PCA反応の誘導1時間後(炎症即時相)の時点では,野生型と好中球枯渇マウスにおいて,血管透過性や耳介肥厚に違いはみられなかった.しかし,PCA反応誘導72時間後(炎症遅発相)の時点では,好中球枯渇マウスにおいて有意な皮膚肥厚の増大が観察された.これらの結果から,マスト細胞と好中球の相互作用は,アレルギー性炎症の炎症遅発相に影響しているものと考えられた.そこで,マスト細胞と好中球の相互作用による炎症遅発相でのアレルギー性炎症応答の抑制メカニズムについて追究した.まず,PCA反応誘導72時間後の耳介のマスト細胞の状態(脱顆粒反応に伴う形態変化)を定量解析した結果,野生型では,マスト細胞の脱顆粒反応に伴う顆粒状の分泌物が消失しており,マスト細胞の形態も脱顆粒前の状態に戻っていた.一方,好中球枯渇マウスでは,顆粒状の分泌物が多く観察され,脱顆粒反応が誘導されている状態の形態が持続していた.さらに,PCA反応を誘導した炎症組織では,好中球が,マスト細胞から分泌されたマスト細胞特異的トリプターゼのmouse mast cell protease-6(mMCP-6)を貪食しているかについても追究した.その結果,アレルギー炎症組織に浸潤した好中球が,マスト細胞特異的トリプターゼmMCP-6を貪食し,細胞内に取り込んでいることがわかった.これらの結果から,好中球が,マスト細胞から分泌された炎症性メディエータを貪食することによって,組織での炎症性メディエータのクリアランスを可能にし,その結果,組織修復に関与している可能性が示唆された.

5. おわりに

本稿では,アレルギー(マスト細胞)応答が,アレルゲンとIgEの親和性,マスト細胞の分泌顆粒に存在する不均質性,更にマスト細胞と好中球の相互作用など,様々な要因によって“アレルギー応答の多様性”が調節されていることを,われわれの最近の研究成果も交えて紹介した.

アレルギー疾患の根治のためには,ヒト生体内でのアレルギー応答の“多様性”の分子メカニズムの解明が必要不可欠である.そのため,様々な親和性を有する生体内ポリクローナルIgE抗体が,どのようなメカニズムでヒトアレルギー疾患の発症や病態を調節するのか,またアレルギー炎症は細胞間相互作用によってどのように調節されるのかなど,その詳細な分子メカニズムの解明が重要である.今後も基礎及び臨床研究の双方から,新たな知見が集積されることによって,アレルギー疾患の詳細な分子機構が解明され,その制御が可能となることが期待される.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS57で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
© 2024 The Pharmaceutical Society of Japan
feedback
Top