2024 Volume 144 Issue 8 Pages 815-821
A closed system drug transfer device (CSTD) helps to minimize unnecessary exposure of healthcare workers such as pharmacists to hazardous drugs. One of the concerns in using CSTDs to prepare anticancer drugs is their influence on preparation time. Therefore, we compared the time needed to prepare anticancer drugs with the CSTDs NEOSHIELD® and BD PhaSeal® system and with an injection needle. In the comparison of NEOSHIELD® and an injection needle, the preparation time of the liquid formulations of the cytotoxic drugs irinotecan, eribulin, cisplatin, docetaxel, and paclitaxel was significantly shorter with the injection needle and that of gemcitabine was significantly shorter with NEOSHIELD®, but that of oxaliplatin, carboplatin, and doxorubicin was not significantly different between the two methods; the preparation time of the liquid formulations of the molecular-targeted drugs atezolizumab, obinutuzumab, cetuximab, daratumumab and vorhyaluronidase alfa, nivolumab, ramucirumab, and rituximab was significantly shorter with NEOSHIELD® and that of bevacizumab and pembrolizumab was significantly shorter with the injection needle; and the preparation time of the lyophilized formulation of cytotoxic and molecular-targeted drugs was not significantly different between the two methods. In the comparison of NEOSHIELD® and BD PhaSeal® system, the preparation time of cyclophosphamide and ifosfamide was significantly shorter with NEOSHIELD®, but that of bendamustine was not significantly different between the two CSTDs. In conclusion, these results suggest that the preparation time with CSTDs may be similar to or shorter than that with an injection needle, depending on the type of CSTD and the drug formulation and type.
Hazardous drugs(HD)は米国医療薬剤師会(American Society of Health-System Pharmacists: ASHP)及び米国国立安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)を始めとする機関より定義されており,薬剤の性質上,ほとんどの抗がん剤はHDに含まれる.1,2)抗がん剤の職業曝露における危険性については国内外を問わず報告がなされており,3,4) HD曝露による健康への悪影響を最小限にし,職業曝露を減らすことが求められている.職業曝露軽減のための対策としては,個人防護服(personal protective equipment: PPE)や生物学的安全キャビネット(biological safety cabinet: BSC),閉鎖式接続器具,閉鎖式薬物移送システム(closed system drug transfer device: CSTD)等の使用がわが国の「がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン」にて推奨されている.
CSTDは,2016年度の診療報酬改定において,すべての抗がん剤無菌調製への使用に180点が加算され,厚生労働省からも曝露対策が重要であることが示されている.CSTDを使用することにより曝露が軽減したという報告はある.5)一方で,2014年度病院薬剤部門の現場調査では,シクロホスファミド(cyclophosphamide: CPA),イホスファミド(ifosfamide: IFO),ベンダムスチン(bendamustine: BEN)においてCSTDを用いて無菌製剤処理料1を算定している施設は38.3–63.9%と報告されているが,これら3剤以外の薬剤にCSTDを使用して無菌製剤処理料1を算定している施設は5.6–7.1%と少なく,実際に対象としている薬剤もシスプラチンやパクリタキセル等の限られた薬剤にとどまっていることが報告されている.6)全抗がん剤調製においてCSTDを導入する際の懸念事項として導入に伴う費用や調製時間への影響が挙げられる.調製時間に関しては,従来の注射針による調製(注射針調製)と比較して,CSTDを用いた調製では調製時間が延長するという報告と延長しないという報告がある.7–11)これら報告では少数例での報告が多く,抗がん剤毎の調製時間への影響について検討されていない.また,CSTDは複数のメーカーより販売されており,それぞれに特徴があり,操作性に関しても異なる.それら製品の違いによる抗がん剤調製時間への影響についても少数例での検討ではあるが,報告されている.7,12,13)しかしながら,製品間の違いによる抗がん剤の種類毎の調製時間への影響についても報告は限られている.そのため,これらCSTDによる抗がん剤調製時間への影響を明らかにすることは,CSTDをすべての抗がん剤調製に導入するうえでは重要である.
国立がん研究センター中央病院では,これまでCPA, IFO, BENについてはBD PhaSeal®システム(株式会社日本ベクトン・ディッキンソン,東京),13)その他抗がん剤については注射針調製を行っていたが,段階的に使用するCSTDの変更を行い,2023年7月より全抗がん剤をNEOSHIELD®(株式会社ジェイ・エム・エス,広島)を用いた調製に変更した.そこで本研究では,CSTDを用いた抗がん剤別の調製時間への影響を明らかにするため,注射針調製及びBD PhaSeal®システムを用いた調製(PhaSeal調製)からNEOSHIELD®を用いた調製(NEOSHIELD調製)への変更による調製時間への影響を調査した.
国立がん研究センター中央病院では,CPA, IFO, BENを除く抗がん剤調製には従来の注射針を用いて調製を行っていたが,2023年6月より治験薬を除く外来投与分の抗がん剤,2023年7月より治験薬を除く入院投与分の抗がん剤の調製をそれぞれNEOSHIELD®を用いた調製に切り替えた.CPA, IFO, BENについては従来BD PhaSeal®システム13)を用いて調製を行っていたが,2023年6月より外来投与分,2023年7月より入院投与分の調製をNEOSHIELD®を用いた調製に切り替えた.調査対象期間は2022年4月から2023年10月とし,NEOSHIELD®に関してはその操作手順に順応する期間として2023年6月から2023年7月を調査対象期間から除外した.投与ルートのプライミングについては,BD PhaSeal®システム使用時,外来投与分のCPA, IFO及びBENのみ薬剤の調製時に実施し,それ以外の期間及び薬剤に関しては行っていない.そのため,BD PhaSeal®システムからNEOSHIELD®への変更に際してCPA, IFO及びBENの外来投与分については投与ルートのプライミングの実施の有無が変更となったため,これら薬剤の評価についてはプライミングを実施していない入院投与分のみを対象とした.そのほか抗がん剤は,殺細胞性抗がん剤(液体)としてイリノテカン,エリブリン,オキサリプラチン,カルボプラチン,ゲムシタビン,シスプラチン,ドキソルビシン,ドセタキセル,パクリタキセル,殺細胞性抗がん剤(凍結乾燥)としてアムルビシン,メルファラン,分子標的薬(液体)としてアテゾリズマブ,オビヌツズマブ,セツキシマブ,ダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ,ニボルマブ,ベバシズマブ,ペムブロリズマブ,ラムシルマブ,リツキシマブ,分子標的薬(凍結乾燥)としてカルフィルゾミブ,トラスツズマブ,トラスツズマブエムタンシン,トラスツズマブ デルクステカンを対象とし,これらについては入院及び外来投与分をあわせて評価を行った.これら期間,対象及び使用した調製器具により,Table 1の通り注射針調製群,PhaSeal調製群及びNEOSHIELD調製群にそれぞれ分類した.
Investigation period | |
---|---|
Injection needle | Inpatient April/2022–June/2023 |
Outpatient April/2022–May/2023 | |
PhaSeal® system | Inpatient April/2022–June/2023 |
NEOSHIELD® | Inpatient and Outpatient August/2023–October/2023 |
CSTDの準備については調製時に調製者が準備を行っている.各抗がん剤の全体の調製時間は,注射薬混注監査システムAddDis(株式会社トーショー,東京)に記録された調製開始時刻と調製終了時刻の差から算出した.CPAは抗がん剤投与日にあらかじめ溶解した状態の薬剤を用意しており,その状態からの調製開始時刻と調製終了時刻の差を算出した.1バイアルあたりにかかる調製時間は下記の式により算出した.注射針,BD PhaSeal®システム及びNEOSHIELD®それぞれを使用した調製時間の比較は,1バイアルあたりの調製時間で比較を行った.
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また,NEOSHIELD調製群に関しては調製時におけるインシデント事例(コアリング及び抗がん剤バイアルのゴム栓陥没)について調査を行った.
3. 統計解析注射針調製群とNEOSHIELD調製群及びNEOSHIELD調製群とPhaSeal調製群のそれぞれの1バイアルあたりの調製時間の比較はunpaired t-testを用いた.有意水準はp<0.05とした.統計解析にはR(The R Foundation for Statistical Computing, Vienna Austria)のグラフィカルユーザーインターフェースであるEZR version 1.54(自治医科大学附属さいたま医療センター血液科)を用いた.14)
4. 倫理的配慮本研究は,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の適用範囲に該当しないため,当院研究倫理審査委員会の対象とはなっていない.
対象の抗がん剤の調製件数は69184件であった.各群の内訳は注射針調製群53107件,PhaSeal調製群3002件及びNEOSHIELD調製群13075件であった.対象の抗がん剤調製に携わった調製者は51名,その調製経験年数別の内訳は,注射針調製群及びPhaSeal調製群では1年未満12名,1年以上2年未満7名,2年以上3年未満7名及び3年以上25名であり,NEOSHIELD調製群では1年未満6名,1年以上2年未満7名,2年以上3年未満5名及び3年以上20名であった.
2. 注射針調製とNEOSHIELD®を用いた1バイアルあたりの調製時間の比較注射針調製群とNEOSHIELD調製群を比較した結果をTable 2に示す.殺細胞性抗がん剤(液体)の調製時間(注射針調製群及びNEOSHIELD調製群,mean)はイリノテカン(39.7及び47.1 s, p<0.010),エリブリン(126.1及び144.9 s, p<0.010),シスプラチン(91.1及び102.4 s, p<0.010),ドセタキセル(68.5及び85.9 s, p<0.010),パクリタキセル(63.9及び70.3 s, p<0.010)についてはNEOSHIELD調製群において有意に調製時間が長く,ゲムシタビン(69.7及び58.1 s, p<0.010)についてはNEOSHIELD調製群において有意に調製時間が短く,オキサリプラチン(58.0及び56.0 s, p=0.176),カルボプラチン(79.4及び78.1 s, p=0.561),ドキソルビシン(65.8及び66.8 s, p=0.561)については両群で有意な差は認められなかった.殺細胞性抗がん剤(凍結乾燥)の調製時間(注射針調製群及びNEOSHIELD調製群,mean)はアムルビシン(85.3及び87.7 s, p=0.380),メルファラン(204.7及び200.0 s, p=0.832)については両群で有意な差は認められなかった.
Drug | Injection needle | NEOSHIELD® | pa) (95% CI) | |
---|---|---|---|---|
Cytotoxic drug (Liquid) | Cisplatin | n=4060 | n=837 | <0.010 (−16.02–−6.60) |
91.1±74.1 | 102.4±60.8 | |||
Docetaxel | n=1593 | n=401 | <0.010 (−22.30–−12.34) | |
68.5±48.8 | 85.9±44.4 | |||
Eribulin | n=1180 | n=257 | <0.010 (−28.77–−8.83) | |
126.1±67.6 | 144.9±74.8 | |||
Irinotecan | n=4030 | n=692 | <0.010 (−9.52–−5.36) | |
39.7±29.9 | 47.1±24.9 | |||
Paclitaxel | n=6938 | n=1630 | <0.010 (−8.40–−4.41) | |
63.9±37.0 | 70.3±36.9 | |||
Carboplatin | n=3104 | n=757 | 0.561 (−3.09–5.70) | |
79.4±49.5 | 78.1±56.6 | |||
Doxorubicin | n=3038 | n=621 | 0.516 (−4.40–2.21) | |
65.8±44.5 | 66.8±36.9 | |||
Oxaliplatin | n=2969 | n=777 | 0.176 (−0.90–4.88) | |
58.0±50.9 | 56.0±31.3 | |||
Gemcitabine | n=6644 | n=1787 | <0.010 (9.89 –13.45) | |
69.7±42.8 | 58.1±31.3 | |||
Cytotoxic drug (lyophilized) | Amrubicin | n=671 | n=228 | 0.380 (−7.68–2.94) |
85.3±41.0 | 87.7±33.1 | |||
Melphalan | n=95 | n=16 | 0.832 (−41.48–51.00) | |
204.7±84.6 | 200.0±81.8 | |||
Molecular-targeted drug (liquid) | Bevacizumab | n=3217 | n=764 | 0.037 (−5.78–−0.17) |
58.3±33.9 | 61.2±35.8 | |||
Pembrolizumab | n=3030 | n=839 | <0.010 (−11.26–−7.14) | |
46.2±26.6 | 55.4±27.0 | |||
Atezolizumab | n=826 | n=158 | 0.017 (1.48–15.71) | |
101.2±54.5 | 92.5±38.6 | |||
Cetuximab | n=1332 | n=272 | <0.010 (4.55–9.60) | |
60.1±21.1 | 53.0±18.9 | |||
Daratumumab and vorhyaluronidase alfa | n=198 | n=70 | <0.010 (23.06–91.13) | |
272.8±150.9 | 215.7±112.8 | |||
Nivolumab | n=4618 | n=1006 | <0.010 (6.94–14.34) | |
80.3±49.6 | 69.6±55.1 | |||
Obinutuzumab | n=140 | n=23 | 0.020 (5.40–60.00) | |
203.5±87.0 | 170.8±54.4 | |||
Ramucirumab | n=1191 | n=193 | 0.013 (1.71–14.64) | |
88.2±52.3 | 80.1±40.4 | |||
Rituximab | n=1314 | n=270 | <0.010 (14.67–28.00) | |
145.7±60.5 | 124.3±48.4 | |||
Molecular-targeted drug (lyophilized) | Carfilzomib | n=120 | n=40 | 0.493 (−45.80–93.87) |
329.9±158.9 | 305.8±200.5 | |||
Trastuzumab | n=2308 | n=530 | 0.986 (−3.64–3.57) | |
103.0±39.2 | 103.1±37.9 | |||
Trastuzumab deruxtecan | n=180 | n=163 | 0.666 (−5.29–8.26) | |
97.3±33.6 | 95.8±30.2 | |||
Trastuzumab emtansine | n=311 | n=72 | 0.083 (−1.87–29.91) | |
152.3±93.7 | 138.3±51.4 |
Data shows mean±S.D. (s). CI is confidence interval. a)Unpaired t-test.
分子標的薬(液体)の調製時間(注射針調製群及びNEOSHIELD調製群,mean)はベバシズマブ(58.3及び61.2 s, p=0.037),ペムブロリズマブ(46.2及び55.4 s, p<0.010)についてはNEOSHIELD調製群において有意に調製時間が長く,アテゾリズマブ(101.2及び92.5 s, p=0.017),オビヌツズマブ(203.5及び170.8 s, p=0.020),セツキシマブ(60.1及び53.0 s, p<0.010),ダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(272.8及び215.7 s, p<0.010),ニボルマブ(80.3及び69.6 s, p<0.010),ラムシルマブ(88.2及び80.1 s, p=0.013),リツキシマブ(145.7及び124.3 s, p<0.010)についてはNEOSHIELD調製群において有意に調製時間が短かった.分子標的薬(凍結乾燥)の調製時間(注射針調製群及びNEOSHIELD調製群,mean)はカルフィルゾミブ(329.9及び305.8 s, p=0.493),トラスツズマブ(103.0及び103.1 s, p=0.986),トラスツズマブ エムタンシン(152.3及び138.3 s, p=0.083),トラスツズマブ デルクステカン(97.3及び95.8 s, p=0.666)については両群において有意な差は認められなかった.
3. BD PhaSeal®システム及びNEOSHIELD®を用いた1バイアルあたりの調製時間の比較PhaSeal調製群とNEOSHIELD調製群を比較した結果をTable 3に示す.PhaSeal調製群及びNEOSHIELD調製群の調製時間(mean)はIFO(152.6及び133.6 s, p<0.010),CPA(105.4及び82.4 s, p<0.010)については,NEOSHIELD調製群において有意に調製時間が短く,BEN(126.0及び113.6 s, p=0.285)についてはPhaSeal調製群とNEOSHIELD調製群間で有意な差は認められなかった.
Drug | PhaSeal® | NEOSHIELD® | pa) (95% CI) |
---|---|---|---|
Bendamustine | n=66 | n=6 | 0.285 (−12.18–37.08) |
126.0±48.3 | 113.6±22.7 | ||
Cyclophosphamide | n=1016 | n=253 | <0.010 (16.52–29.41) |
105.4±71.6 | 82.4±38.0 | ||
Ifosfamide | n=1920 | n=412 | <0.010 (8.97–28.95) |
152.6±94.8 | 133.6±93.8 |
Data shows mean±S.D. (s). CI is confidence interval. a)Unpaired t-test.
NEOSHIELD調製群13075件中調製時のコアリングは5件(0.04%),調製時の抗がん剤バイアルのゴム栓陥没が3件(0.02%)認められた.コアリングが認められた抗がん剤の内訳はトラスツズマブ デルクステカン1件,パクリタキセル1件,ペムブロリズマブ2件,リツキシマブ1件であった.抗がん剤バイアルのゴム栓陥没が認められた抗がん剤はペムブロリズマブのみであった.
本研究では,すべての抗がん剤に対してCSTDであるNEOSHIELD®を用いて調製を行い,実臨床での調製データを用いて注射針を用いた調製及びBD PhaSeal®システムを用いた調製と比較した.その結果,液体製剤の殺細胞性抗がん剤についてはNEOSHIELD®を用いた調製と比較し,注射針を用いた調製において調製時間が短い傾向にあることが示唆された.一方で,液体製剤の分子標的薬については,注射針を用いた調製と比較し,調製時間は同等若しくはNEOSHIELD®を用いた調製において短い傾向にあることが示唆された.一方,凍結乾燥製剤である殺細胞性抗がん剤及び分子標的薬については,注射針を用いた調製とNEOSHIELD®を用いた調製に有意な差がないことが示唆された.また,当院で以前よりCSTDを用いて調製が行われていたIFO, CPA, BENについてはBD PhaSeal®システムを用いた調製とNEOSHIELD®を用いた調製において調製時間を比較し差がない,又はNEOSHIELD®を用いた調製の方が短いことが示唆された.
がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019年版第2版において,推奨度に違いはあるが,NIOSH HDリストに掲載されているHD及び未掲載の分子標的薬において同様の曝露対策が推奨されている.しかしながら,抗がん剤の調製及び投与時においてCSTDが全面的に導入されている例は少なく,導入時の懸念点の一つに調製時間の延長が挙げられる.CSTD導入による調製時間への影響については限定的ではあるが報告は散見されるものの,8–10)限られた薬剤についての報告しかない.11) Inomataらは全抗がん剤の調製にBD PhaSeal®システムを導入し,導入前と比較して,殺細胞性抗がん剤(液体)及び分子標的薬(液体)平均調製時間はそれぞれ導入1年後では1倍及び約1.4倍となったことを報告している.11)本調査では薬剤毎での比較を行い,調製時間について検討を行ったが,殺細胞性抗がん剤(液体)の調製時間に関しては,注射針を用いた調製の方が短い,若しくは注射針とCSTDを用いた調製間で有意な差がないことが多くの薬剤で示唆された.一方で,分子標的薬(液体)の調製時間については,注射針を用いた調製と比較してCSTDを用いた調製の方が短いことが多くの薬剤で示唆された.これらの結果はInomataらの報告と乖離している.本調査では,IFO, CPA, BENの調製時間についてはBD PhaSeal®システムを用いた調製とNEOSHIELD®を用いた調製で比較を行い,BENに関しては有意な差は認められなかったが,IFO, CPAに関してはNEOSHIELD®を用いた調製で有意に短かった.このことから,使用するCSTDの種類によっても調製時間への影響が異なる可能性が示唆された.本結果をふまえ,Inomataらの報告と本研究結果での乖離については,BD PhaSeal®システムとNEOSHIELD®の操作性を含むデバイスの違いが一因にあると考える.一方で,今回報告した薬剤すべてで同一の結果が得られた訳ではなく,薬剤毎で結果が異なっている.これはCSTDを使用するうえで陰圧操作が必須ではないというようなメリットや調製方法によっては多くのCSTDデバイスの装着が必要となるデメリットが影響している可能性はある.また,殺細胞性抗がん剤(凍結乾燥)及び分子標的薬(凍結乾燥)についてもCSTDによる調製時間への影響を検討し,注射針を用いた調製と同等であることが示唆された.凍結乾燥製剤におけるCSTDの調製時間への影響についてはこれまで報告がなく,今後ほかのCSTDとの違いを比較するうえで重要な情報になると考える.
NEOSHIELD®を全抗がん剤調製に導入したことによるインシデント事例としてコアリング及び抗がん剤バイアルのゴム栓陥没が認められた.注射針を用いた調製においてもコアリングは認められるが,Fujitaらの報告する注射針を用いた調製時のコアリング発生割合2.2%と比較するとNEOSHIELD®を用いた調製におけるコアリング発生割合は少なかった.15)ゴム栓陥没に関しては,Ueharaらもケモセーフ®(株式会社テルモ,東京)導入において同様の報告をしており,0.24%の発生割合が報告されている.Ueharaらはこの原因として,バイアルアダプタがゴム栓中央部に垂直に挿入されていなかったことを挙げており,特にバイアル径が小さい薬剤はバイアルアダプタの挿入が中央からずれ易い傾向があることを報告している.9)本結果において,バイアルのゴム栓陥没が認められたのはペムブロリズマブであり,バイアル口径もほかの薬剤と比較して小さく,Ueharaらの報告同様の傾向にあることが示唆された.当院でもUeharaらの報告同様に,マルチスパイク穿刺時はゴム栓中心部に垂直に行うことを徹底しているが,ペムブロリズマブの調製に関してはそれ以外に,穿刺時抵抗を減らすためシリコーンオイルが塗布されていないマルチスパイクから塗布されてあるマルチスパイクに変更することで,バイアルのゴム栓陥没のリスク軽減の対策を行っている.ペムブロリズマブにおいてこのような対策は取ってはいるが,ゴム栓陥没が認められていることから調製が慎重となっており,NEOSHIELD®を用いたペムブロリズマブ調製は注射針を用いた調製と比較して遅くなっていると考えられる.本報告及びUeharaらの報告をふまえ,ペムブロリズマブのような小口径の薬剤に対してCSTDを用いる場合には,中央部への穿刺が難しくなるため,この点については注意が必要であり,今後の検討課題である.
わが国においてはBD PhaSeal®システム及びNEOSHIELD®以外にも複数のCSTDデバイスが上市されている.本研究は単施設において後方視的に限られたCSTDについて比較検討した報告であり,すべてのCSTDにおいて検討した訳ではない.また,比較時期で一部調製者が異なり,調製者による違いが調製時間に影響している可能性はある.これらの点は本研究の限界と考える.
CSTDを全抗がん剤調製に導入するのは抗がん剤曝露の観点からは非常に有効な手段だと言える.その一方で,費用面及び調製時間への影響についてはCSTD導入時に検討しなければならない点である.本研究は,調製時間に関して使用するCSTDによって異なる可能性はあるが,CSTDを用いた抗がん剤調製は注射針を用いた調製と同等,場合によってはそれよりも調製時間を短縮できる可能性があることを示した.費用面については今後検討していく必要はあるが,HDによる職業曝露を減らす観点から,本報告が抗がん剤調製においてCSTD全面導入の一助となることを期待する.
がん治療のために日々多くの抗がん剤調製に携わり,本調査に御協力頂いた国立がん研究センター中央病院薬剤部の皆さまに深謝いたします.
開示すべき利益相反はない.