YAKUGAKU ZASSHI
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ISSN-L : 0031-6903
Regular Article
Effect of Concomitant Metformin Use on Hematologic Adverse Events in Non-Small-Cell Lung Cancer Patients Undergoing Pemetrexed-Based Chemotherapy: A Study Using a Japanese Claims Database
Masahiro HayafuneShungo Imai Hayato KizakiMasami TsuchiyaSatoko Hori
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2025 Volume 145 Issue 1 Pages 61-70

Details
Summary

Pemetrexed is a folate analog inhibitor for the treatment of non-small-cell lung cancer (NSCLC). Prophylactic supplementation with vitamin B12 and folic acid reduces hematotoxicity associated with pemetrexed. Metformin, the antidiabetic agent, has been associated with the potential side effect of vitamin B12 deficiency. This retrospective observational study aimed to evaluate the effect of concomitant metformin use on hematologic adverse events in patients with NSCLC undergoing pemetrexed-based chemotherapy using the Medical Data Vision Database. Patients with stage III or higher NSCLC who received pemetrexed from April 2008 to May 2021 were categorized into metformin-treated (MTF) and non-metformin-treated (non-MTF) groups. The primary outcome was the proportion of granulocyte colony-stimulating factor (G-CSF) administration during cycle (C) 1 to C2 or C2 to C3 of pemetrexed therapy. Propensity score matching (PSM) was used to balance the baseline characteristics between the groups. A total of 1174 patients met the inclusion criteria (54 in MTF and 1120 in non-MTF). After PSM, 52 patients were included in each group. The median metformin dosage in the MTF group was 500 mg/d before and 625 mg/d after PSM. There were no significant differences between the MTF and non-MTF groups in G-CSF administration (15.4 vs. 21.2%, p=0.446). Multivariate logistic regression analysis also showed that metformin use did not significantly affect hematologic toxicity (odds ratio: 1.208, 95% CI: 0.554–2.634). This suggests that the concomitant use of a relatively low dose of metformin is unlikely to significantly increase the risk of hematotoxicity in Japanese patients with NSCLC receiving pemetrexed-based chemotherapy.

緒言

近年,がん治療は著しい進歩を遂げているが,肺がんの死亡率は依然として高く,日本のがん患者における死亡原因の第1位である.最新の統計によると,年間約7万人が肺がんで死亡しており,全がん死亡の約20%を占めている.1肺がんは,非小細胞肺がん(non-small-cell lung cancer: NSCLC)と小細胞肺がん(small-cell lung cancer: SCLC)に分類される.NSCLCは更に腺がん,扁平上皮がん,大細胞がんに分けられ,全肺がんの約80%を占める.NSCLCにおいては遺伝子変異に基づく詳細な分類が可能となり,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR),未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase: ALK)やROSがん原遺伝子1,受容体チロシンキナーゼ(ROS proto-oncogene 1, receptor tyrosine kinase: ROS1)などのドライバー遺伝子変異/転座の同定は,個別化治療の基盤となっている.また,近年注目されている免疫療法ではプログラム細胞死1リガンド1(programmed cell death 1 ligand 1: PD-L1)発現状況に応じて,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor: ICI)が単独又は化学療法との併用で使用される.ペメトレキセドは非扁平上皮非小細胞肺がんの一次治療,維持療法及び二次治療のオプションとして推奨され,特にEGFR, ALKやROS1などのドライバー遺伝子変異/転座のない進行肺がんに対し,プラチナ製剤との併用療法は標準的な治療選択肢となる.2ペメトレキセドは,複数の葉酸代謝酵素を同時に阻害することにより,プリン及びピリミジン・ヌクレオチドのde novo合成を阻害することで,抗腫瘍効果を発揮する葉酸代謝拮抗薬である.ペメトレキセド使用時は副作用を軽減するため,ビタミンB12及び葉酸の併用が必須であり,ビタミンB12と葉酸の補充によって副作用を軽減することが知られている.3最近の報告でも,ペメトレキセド含有化学療法開始前の血清ビタミンB12濃度低値及び血清葉酸濃度低値が,ペメトレキセドによる血液毒性のリスク因子である可能性が示唆されている.4

メトホルミンはビグアナイド系に分類される経口抗糖尿病薬であり,主に肝臓における糖新生を抑制し,膵β細胞のインスリン分泌を介することなく血糖降下作用を示す.近年,メトホルミンの抗腫瘍効果に関する報告が増加しており,Wanらのメタアナリシスによると,糖尿病を合併する肺がん患者において,メトホルミンを含む治療を受けた群は,メトホルミンを含まない治療を受けた群と比較して,有意な生存転帰の改善が報告されている.5ペメトレキセドとメトホルミン併用に関するこれまでの報告として,糖尿病を有さない進行非小細胞肺がん患者14例を対象とした第II相パイロット試験では,ペメトレキセド含有化学療法に対するメトホルミンの上乗せは忍容性が良好であったが臨床転帰を有意に改善することはなかったことが報告されている.6また,台湾の国民健康保険データベースを用いた後ろ向き研究では,ペメトレキセドベースの白金製剤二剤併用療法とメトホルミンの併用は,糖尿病を有する進行肺腺がん患者の臨床転帰を有意に改善する可能性が報告されている.7

一方,ビタミンB12の吸収低下はメトホルミンの副作用として知られており,メトホルミン治療を受けている2型糖尿病患者の約30%がビタミンB12欠乏症であったとの報告もある.8ビタミンB12欠乏リスクはメトホルミンの使用量9や使用期間10と関連し,メタ分析ではメトホルミンの6週間から3ヵ月の使用で血清ビタミンB12濃度は約57 pmol/L低下することが報告されている.11日本人2型糖尿病患者を対象とした横断研究12では,メトホルミンによるビタミンB12欠乏のリスクは欧米などと比較して低いことが示唆されているが,高用量メトホルミンはビタミンB12欠乏のリスク因子であり,特に高齢者では貧血のリスクとなる可能性が報告されている.ビタミンB12–内因子複合体の腸管への取り込みにはカルシウムが必要であり,メトホルミンはカルシウムイオンの細胞内流入を阻害することで,ビタミンB12の吸収に必要なカルシウム依存性のプロセスに影響し,ビタミンB12–内因子複合体の吸収を阻害する.13

以上の議論を踏まえると,ビタミンB12吸収抑制作用を持つメトホルミンの使用は,ペメトレキセド使用による血液毒性を増強する可能性がある.前述の先行研究6,7では臨床転帰の改善を検討しており,ペメトレキセドとメトホルミンを併用した際に血液毒性が増強するかについては,症例報告を含めこれまでに報告がない.そこで本研究では,診療情報データベースを用い,ペメトレキセド含有化学療法を受けている非小細胞肺がん患者におけるメトホルミン併用時の血液毒性への影響を解明することを目的とした.

方法

1. データソース

本研究では,メディカル・データ・ビジョン株式会社(東京)が提供する医療情報データベース(以下,MDVデータベース)を使用した.MDVデータベースは,日本の急性期医療機関から収集した電子レセプトデータ[医科,diagnosis procedure combination(DPC)],DPC提出データ(外来ファイル含む),検査結果値(一部施設に限る)を基に構成され,二次利用許諾を得た約250の医療機関内の1000万人の情報が含まれる.14疾患は国際疾病分類(The International Classification of Diseases, 10th Edition: ICD-10)コード,治療は解剖治療化学分類(Anatomical Therapeutic Chemical Classification System: ATC)コードを用いて記録され,すべてのデータは匿名化されている.本研究では,2008年4月から2021年5月までに記録された情報をデータセットとして使用した.

2. 研究対象患者

2008年4月から2021年5月までにペメトレキセドを含む化学療法を施行された,ステージIII以上のNSCLC(ICD-10コード:C340, C341, C342, C343, C349)患者を対象とした.本研究は,メトホルミン併用による血液毒性への影響を評価することを目的とするため,糖尿病(ICD-10コード:E11, E12, E13, E14)を合併している患者を対象とした.ペメトレキセド初回投与(Cycle[C]1)90日前からC3までを観察期間と定義し(Fig. 1),糖尿病合併は,観察期間開始前に糖尿病と診断され,観察期間中も引き続き糖尿病の傷病名が付与されている患者と定義した.また,ペメトレキセド初回投与前90日以内に(1)赤血球生成促進薬(erythropoiesis-stimulating agent: ESA)投与歴,(2)顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor: G-CSF)投与歴,(3)輸血歴,のいずれかがある患者,及びペメトレキセド添付文書に準じたビタミンB12及び葉酸の投与がなされていない患者は除外した.

Fig. 1. Schema Showing the Study Design

3. 血液毒性発現の定義

MDVデータベースは,一部の施設からのみしか検査結果が提供されておらず,血液毒性の直接の評価指標である臨床検査値[white blood cell(WBC),neutrophil(NEUT),red blood cell(RBC),blood platelet(PLT),hemoglobin(HGB)]が欠損している症例が多数存在する.そこで,血液毒性の治療に用いる薬剤投与有無を代替指標として用いることとし,MDVデータベースに収載された薬剤使用歴のうち,ペメトレキセド投与後にG-CSF, ESA又は輸血製剤を投与された患者,ペメトレキセド投与後に発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)(ICD-10コード:D70)の病名が付与された患者,又は次クールのペメトレキセド投与遅延(>1週間)があった患者を副作用(血液毒性)発症患者として定義した.

4. 評価項目

本研究の主要評価項目は,C1のペメトレキセド投与後あるいはC2投与後におけるG-CSF投与の有無とした.また,副次評価項目は,C1のペメトレキセド投与後あるいはC2投与後におけるFNの病名付与の有無,ESA投与の有無,輸血製剤投与の有無,次クールの投与遅延(>1週間)の有無とした.

5. データ収集

患者背景として年齢,性別,既往歴,治療情報としてペメトレキセドの投与日,投与量,投与間隔及び投与期間,併用抗がん薬の処方歴,ビタミンB12製剤及び葉酸の処方歴,メトホルミン製剤の処方歴,投与量及び投与期間,メトホルミンを除く糖尿病治療薬の処方歴,ビタミンB12欠乏又は葉酸欠乏のリスクファクターとなる薬剤15,16の処方歴,G-CSF又はESAの処方歴,輸血製剤の使用歴とした.対象患者をメトホルミン製剤の併用有無により,メトホルミン投与(metformin-treated: MTF)群とメトホルミン非投与(non-MTF)群の2群に分類した.メトホルミン製剤の併用は,Gap period 14日,Grace period 0日として処方継続期間を算出し,その処方継続期間が全観察期間と重複していた場合と定義した.薬剤抽出に用いたATCコードはSupplementary Table 1に示す.

6. 統計解析

MTF群とnon-MTF群の背景因子(年齢,性別,既往歴,併用抗がん薬,メトホルミンを除く糖尿病治療薬の処方歴,ビタミンB12欠乏又は葉酸欠乏のリスクファクターとなる薬剤の処方歴)の比較を行い,カテゴリ変数に対してχ2検定(分割表のセルの20%以上で期待度数が5未満の場合にはFisherの正確確率検定),連続変数に対してMann–Whitney U検定を用いて解析を行った.

交絡を最小化するため,MTF群とnon-MTF群について,年齢,性別,メトホルミンを除く糖尿病治療薬の処方歴を共変量とし多変量ロジスティック回帰分析により傾向スコアを算出し,傾向スコアマッチング法(Caliper係数を0.2とした最近傍マッチング)を用いてマッチングを実施した.17標準化差が0.1未満の場合に,変数のバランスが適切であると定義した.18 2群間の統計的バランスを確認した後,ペメトレキセド投与による副作用発現リスクがメトホルミン投与の影響を受けるかを検証した.検定にはχ2検定(分割表のセルの20%以上で期待度数が5未満の場合にはFisherの正確確率検定)を用いた.なお,傾向スコアマッチング前の全患者を対象として,同様にペメトレキセド投与による副作用発現リスクがメトホルミン投与の影響を受けるかを検証した.

また,全患者を対象に多変量ロジスティック回帰分析によりオッズ比(odds ratio: OR)及び95%信頼区間(confidence interval: CI)を求め,C1のペメトレキセド投与後あるいはC2投与後におけるG-CSF投与に対するリスク因子を検討した.メトホルミン投与有無のほか,年齢,性別,カルボプラチン併用有無及びシスプラチン併用有無を調整変数として用いた.メトホルミン投与有無については,その処方継続期間が全観察期間と重複していた場合(entire period),その処方継続期間が少なくとも観察期間開始前からペメトレキセドC1まで重複していた場合(previous period),その処方継続期間が観察期間開始からペメトレキセドC1までの一部で重複していた場合(partial period)の3パターンをそれぞれ調整変数とした.本研究は,既存データベースを用いた後ろ向き観察研究であったため,事前に検出力の計算は実施しなかった.19統計学的解析にはJMP® pro 17(SAS Institute Inc, Cary)を用い,すべての解析は有意水準0.05で検定した.

7. 倫理的配慮

本研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,慶應義塾大学薬学部における人を対象とする研究倫理委員会の承認(承認番号:承20221212-1)を得て実施した.

結果

1. 患者背景

2008年4月から2021年5月までにステージIII以上の非小細胞肺がんと診断された77626例のうち,ペメトレキセドを含む化学療法を施行された患者は19241例であった.そのうち糖尿病非合併患者(n=17661),ペメトレキセドの添付文書に準じたビタミンB12及び葉酸の投与がなされていない患者(n=348),ペメトレキセド初回投与前90日以内にESA投与歴,G-CSF投与歴又は輸血歴のある患者(n=58)を除外し,1174例が本研究に登録された(Fig. 2).

Fig. 2. Patient Selection Flowchart

Abbreviations ESAs: Erythropoiesis-stimulating agents, G-CSFs: granulocyte colony-stimulating factors.

対象患者1174例のうち,MTF群は54例,non-MTF群は1120例であった.年齢中央値(interquartile range: IQR)は,MTF群69(63–74),non-MTF群71(66–76),MTF群のC1時点におけるメトホルミン用量中央値(IQR)は500 mg(500–1000),メトホルミン用量平均値(standard deviation: S.D.)は847.2 mg(605.4)であった.また,MTF群においてスルホニル尿素系薬,グリニド系薬,αグルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン系薬,ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬,ナトリウム・グルコース輸送体2阻害薬及びプロトンポンプ阻害薬を併用している症例が統計的に有意に多かった(Table 1).

Table 1. Comparison of the Characteristics of Patients Before and After Propensity Score Matching

DescriptionBefore propensity score matchingAfter propensity score matching
MTF group (n=54)non-MTF group (n=1120)p-ValueStd diffMTF group (n=52)non-MTF group (n=52)p-ValueStd diff
Age (years), median (IQR) [range]69 (63–74) [45–85]71 (66–76) [35–89]0.046a,d)0.25569 (63–74) [45–85]69 (64–75) [45–86]0.802a)0.000
Sex (male), n (%)41 (75.9)816 (72.9)0.616b)0.07039 (75.0)40 (76.9)0.816b)0.045
Sex (female), n (%)13 (24.1)304 (27.1)13 (25.0)12 (23.1)
MTF dosage at C1 (mg), median (IQR)500 (500–1000)625 (500–1000)
MTF dosage at C1 (mg), mean (S.D.)847.2 (605.4)860.6 (613.2)
Concomitant oncology drugs, n (%)
Pemetrexed alone4 (7.4)153 (13.7)0.156b)0.2054 (7.7)2 (3.8)0.678c)0.166
Carboplatin44 (81.5)779 (69.6)0.051b)0.28043 (82.7)43 (82.7)1.000b)0.000
Cisplatin5 (9.3)165 (14.7)0.238b)0.1694 (7.7)7 (13.5)0.336b)0.188
Bevacizumab22 (40.7)344 (30.7)0.129b)0.21022 (42.3)21 (40.4)0.842b)0.039
Nivolumab0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
Pembrolizumab7 (13.0)138 (12.3)0.889b)0.0196 (11.5)9 (17.3)0.401b)0.165
Atezolizumab0 (0)6 (0.5)1.000c)0.1040 (0)1 (1.9)1.000c)0.198
Concomitant diabetic medicines, n (%)
Biguanides (not metformin)0 (0)1 (0.1)1.000c)0.0420 (0)0 (0)
Sulfonylureas6 (11.1)28 (2.5)0.004c,d)0.3476 (11.5)7 (13.5)0.767b)0.058
Glinides4 (7.4)13 (1.2)0.006c,d)0.3123 (5.8)2 (3.8)1.000c)0.090
Alpha-glucosidase inhibitors5 (9.3)23 (2.1)0.008c,d)0.3164 (7.7)4 (7.7)1.000c)0.000
Thiazolidines3 (5.6)16 (1.4)0.053c)0.2263 (5.8)3 (5.8)1.000c)0.000
DPP-4 inhibitors35 (64.8)128 (11.4)<0.0001c,d)1.31634 (65.4)35 (67.3)0.836b)0.041
SGLT2 inhibitors8 (14.8)9 (0.8)<0.0001c,d)0.5416 (11.5)5 (9.6)0.750b)0.063
Insulins1 (1.9)4 (0.4)0.210c)0.1431 (1.9)1 (1.9)1.000c)0.000
GLP-1 receptor agonists0 (0)1 (0.1)1.000c)0.0850 (0)0 (0)
Concomitant medications, n (%)
Proton pump inhibitors26 (48.2)176 (15.7)<0.0001b,d)0.74224 (46.2)15 (28.8)0.067b)0.363
Histamine H2 antagonists0 (0)37 (3.3)0.410c)0.2610 (0)2 (3.8)0.495c)0.283
Colchicine0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
Dopamine agonists0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
Isoniazid0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
Phenytoin0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
Carbamazepine1 (1.9)2 (0.2)0.132c)0.1680 (0)1 (1.9)1.000c)0.198
Erythromycin0 (0)1 (0.1)1.000c)0.0420 (0)0 (0)
Trimethoprim-sulfamethoxazole1 (1.9)9 (0.8)0.377c)0.0921 (1.9)2 (3.8)1.000c)0.115
Methotrexate0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
Estrogens0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)

a)Mann–Whitney U test. b)Chi-squared test. c)Fisher’s exact test. d)Results with a p-value of <0.05 were considered statistically significant. Abbreviations IQR: Interquartile range, S.D.: standard deviation, MTF: metformin, DPP4: dipeptidyl-peptidase IV, SGLT2: sodium-glucose transporter 2, GLP-1: glucagon-like peptide-1, Std diff: standardized difference. A standardized difference of <0.1 is indicative of an adequate variable balance after propensity score matching.

傾向スコアマッチングの結果,MTF群(n=52)とnon-MTF群(n=52)の患者背景に有意差は認められなかった.MTF群のC1時点におけるメトホルミン用量中央値(IQR)は625 mg(500–1000),メトホルミン用量平均値(S.D.)は860.6 mg(613.2)であった.標準化差は共変量8項目(ペメトレキセド単独投与,シスプラチン併用,ペムブロリズマブ併用,アテゾリズマブ併用,プロトンポンプ阻害薬併用,ヒスタミンH2受容体拮抗薬併用,カルバマゼピン併用,スルファメトキサゾール・トリメトプリム併用)を除き0.1未満であった.

2. ペメトレキセドによる血液毒性に対するメトホルミン投与の影響

傾向スコアマッチング前のMTF群(n=54)とnon-MTF群(n=1120)において,各サイクル間の好中球減少症の発症割合を比較した(Table 2).C1又はC2におけるG-CSF投与は,MTF群14.8%(8/54例),non-MTF群12.1%(135/1120例)であった.また,ペメトレキセドC1又はC2におけるFNの病名付与はMTF群11.1%(6/54例),non-MTF群10.6%(116/1120例),輸血製剤投与はMTF群1.9%(1/54例),non-MTF群3.0%(34/1120例),次クールの投与遅延(>1週間)はMTF群42.6%(23/54例),non-MTF群31.8%(356/1120例)であり,いずれも有意な差は認められなかった.

Table 2. Comparison of Clinical Events Between Cycles Between the MTF and Non-MTF Groups Before Propensity Score Matching

DescriptionMTF group (n=54)non-MTF group (n=1120)p-Value
Primary outcome
G-CSF provided C1 or C2, n (%)8 (14.8)135 (12.1)0.556a)
G-CSF provided C1, n (%)7 (13.0)101 (9.0)0.331b)
G-CSF provided C2, n (%)5 (9.3)83 (7.4)0.594b)
Secondary outcome
Onset of FN in C1 or C2, n (%)6 (11.1)116 (10.6)0.911a)
Onset of FN in C1, n (%)5 (9.3)80 (7.1)0.586b)
Onset of FN in C2, n (%)1 (1.9)39 (3.5)1.000b)
Received blood transfusions C1 or C2, n (%)1 (1.9)34 (3.0)1.000b)
Received blood transfusions C1, n (%)1 (1.9)24 (2.1)1.000b)
Received blood transfusions C2, n (%)1 (1.9)12 (1.1)0.460b)
Delayed pemetrexed administration C2 or C3, n (%)23 (42.6)356 (31.8)0.105a)
Delayed pemetrexed administration C2, n (%)14 (25.9)232 (20.7)0.370a)
Delayed pemetrexed administration C3, n (%)14 (25.9)121 (18.9)0.220a)

a)Chi-squared test. b)Fisher’s exact test. Results with a p-value of <0.05 were considered statistically significant. Abbreviations G-CSF: Granulocyte colony-stimulating factor, FN: febrile neutropenia.

傾向スコアマッチング後のMTF群(n=52)とnon-MTF群(n=52)において,各サイクル間の好中球減少症の発症割合を比較した(Table 3).C1又はC2におけるG-CSF投与は,MTF群15.4%(8/52例),non-MTF群21.2%(11/52例)であった.また,ペメトレキセドC1又はC2におけるFNの病名付与はMTF群11.5%(6/52例),non-MTF群13.5%(7/52例),輸血製剤投与はMTF群1.9%(1/52例),non-MTF群3.8%(2/52例),次クールの投与遅延(>1週間)はMTF群42.3%(22/52例),non-MTF群36.5%(19/52例)であり,いずれも有意な差は認められなかった.なお,C1又はC2におけるESA投与は傾向スコアマッチング前後のいずれの群でも認められなかった.

Table 3. Comparison of Clinical Events Between Cycles Between the MTF and Non-MTF Groups After Propensity Score Matching

DescriptionMTF group (n=52)non-MTF group (n=52)p-Value
Primary outcome
G-CSF provided C1 or C2, n (%)8 (15.4)11 (21.2)0.446a)
G-CSF provided C1, n (%)7 (13.5)7 (13.5)1.000a)
G-CSF provided C2, n (%)5 (9.6)7 (13.5)0.539a)
Secondary outcome
Onset of FN in C1 or C2, n (%)6 (11.5)7 (13.5)0.767a)
Onset of FN in C1, n (%)5 (9.6)5 (9.6)1.000a)
Onset of FN in C2, n (%)1 (1.9)2 (3.8)1.000b)
Received blood transfusions C1 or C2, n (%)1 (1.9)2 (3.8)1.000b)
Received blood transfusions C1, n (%)1 (1.9)2 (3.8)1.000b)
Received blood transfusions C2, n (%)1 (1.9)0 (0)1.000b)
Delayed pemetrexed administration C2 or C3, n (%)22 (42.3)19 (36.5)0.547a)
Delayed pemetrexed administration C2, n (%)14 (26.9)12 (23.1)0.651a)
Delayed pemetrexed administration C3, n (%)13 (25.0)11 (21.2)0.641a)

a)Chi-squared test. b)Fisher’s exact test. Results with a p-value of <0.05 were considered statistically significant. Abbreviations G-CSF: Granulocyte colony-stimulating factor, FN: febrile neutropenia.

3. ペメトレキセドによる好中球減少症発現リスク因子の解析

傾向スコアマッチング前の全患者(n=1174)を対象に多変量ロジスティック回帰分析により,ペメトレキセドC1のペメトレキセド投与後あるいはC2投与後におけるG-CSF投与に関連するリスク因子を検討した(Table 4).多変量ロジスティック回帰分析の結果,いずれの予測因子もG-CSF投与に対して有意な関連を示さなかった.特に,メトホルミン投与有無については,entire period OR: 1.208(95% CI: 0.554–2.634, p=0.635),previous period OR: 1.546(95%CI: 0.800–2.987, p=0.195),partial period OR: 1.210(95%CI: 0.729–2.009, p=0.460)であり,統計的に有意な関連は認められなかった.

Table 4. Independent Factors Affecting Pemetrexed-induced Hematotoxicity Determined by Multiple Logistic Regression Analysis

DescriptionOR (95% CI)p-Value
Age1.012a) (0.987–1.038)0.346
Sex (male)0.743 (0.508–1.088)0.127
Metformin administration (entire period)1.208 (0.554–2.634)0.635
Carboplatin concomitant use1.597 (0.935–2.725)0.086
Cisplatin concomitant use0.511 (0.210–1.243)0.139
DescriptionOR (95% CI)p-Value
Age1.013a) (0.988–1.038)0.325
Sex (male)0.740 (0.506–1.084)0.122
Metformin administration (previous period)1.546 (0.800–2.987)0.195
Carboplatin concomitant use1.575 (0.922–2.690)0.096
Cisplatin concomitant use0.512 (0.210–1.245)0.140
DescriptionOR (95% CI)p-Value
Age1.012a) (0.987–1.038)0.349
Sex (male)0.739 (0.505–1.082)0.120
Metformin administration (partial period)1.210 (0.729–2.009)0.460
Carboplatin concomitant use1.574 (0.920–2.692)0.098
Cisplatin concomitant use0.505 (0.207–1.228)0.132

Significantly different (p<0.05). a)Odds ratio indicates odds per single unit increase. Metformin administration was used as an adjustment variable for the three patterns shown below. The prescription duration overlapped with the entire observation period (entire period) if the prescription duration overlapped, at least before the start of the observation period, with pemetrexed C1 (previous period), and if the prescription duration overlapped partially from the start of the observation period to pemetrexed C1 (partial period).

考察

本研究では,非小細胞肺がん患者に対するペメトレキセド含有化学療法における血液毒性へのメトホルミン併用の影響を評価するために,急性期医療機関由来のMDVデータベースを用いて好中球減少症の発症割合を調査した.傾向スコアマッチング法により背景因子を調整し,好中球減少症の発症割合を比較した結果,MTF群とnon-MTF群の間で,ペメトレキセド含有化学療法による好中球減少の発症状況に対する有意な差は認められなかった.また,ロジスティック回帰分析の結果,ペメトレキセド含有化学療法による好中球減少の発症に対し,メトホルミン投与有無は併用の定義の違いによらず有意な関連を示さなかった.これらの結果は,メトホルミン投与がペメトレキセド含有化学療法による好中球減少の発現に対して影響を及ぼす可能性が低いことを示唆している.また,本研究では,わが国でメトホルミンとペメトレキセドが併用される症例が現時点では多くない実態も明らかとなった.これは,メトホルミンが第一選択薬として推奨されてきた欧米と異なり,わが国では2型糖尿病治療薬としてメトホルミンが選択されることが少ない影響が考えられ,20日本糖尿病学会が行った調査とも一致している.21同調査では,糖尿病治療におけるメトホルミンの初回治療薬としての選択が経年的に増加していることも報告されており,今後使用量が更に増えると予想される.

ペメトレキセドは,複数の葉酸代謝酵素を同時に阻害することにより,抗腫瘍効果を発揮する葉酸代謝拮抗薬であり,非扁平上皮非小細胞肺がん治療のキードラッグとして使用されている.2その作用機序より,ビタミンB12及び葉酸欠乏がペメトレキセドによる血液毒性の原因であると考えられており,ペメトレキセド使用時にはビタミンB12及び葉酸の補充療法が必須となっている.3また,補充療法開始前の血清ビタミンB12濃度低値(<486 pg/mL)及び化学療法前の血清葉酸濃度低値(<15.8 ng/mL)が,ペメトレキセドによるグレード3又は4の血液毒性のリスク因子として報告されている.4成人では,血清ビタミンB12濃度が200 pg/mL(145 pmol/L)を下回る場合にビタミンB12欠乏症と定義されることから,22ペメトレキセドによる血液毒性は,血清ビタミンB12濃度が基準値以上であっても発現する可能性がある.メトホルミンは,副作用としてビタミンB12の吸収低下が知られており,メトホルミン治療を受けている2型糖尿病患者の約30%がビタミンB12欠乏症であるとの報告もある.8これらのことから,血清ビタミンB12濃度低下に起因するペメトレキセドの血液毒性増強の可能性が考えられたが,本研究ではメトホルミン併用の有無で有意な差は認められなかった.

本研究において,ペメトレキセドによる好中球減少に対して,メトホルミン投与の影響が認められなかった要因として,その投与量の影響が考えられる.メトホルミンによるビタミンB12欠乏のリスクは,メトホルミンの投与量と関連することが報告されている.9日本人2型糖尿病患者を対象とした研究では,メトホルミンの1日服用量と血清ビタミンB12濃度が負の相関を示すものの,メトホルミン服用群と非服用群との間で血清ビタミンB12濃度に有意差は認められず,メトホルミンによるビタミンB12欠乏のリスクは欧米などと比較して低いことが示唆されている.12 Sugawaraらは,日本人2型糖尿病患者でビタミンB12欠乏リスクが低い要因として,メトホルミンの投与量が海外の報告よりも低用量(平均979.5 mg/日)であったことを挙げている.12また,メトホルミン服用2型糖尿病患者におけるビタミンB12スクリーニングの有用性を検討した横断研究においても,メトホルミン750 mg/日以下では血清ビタミンB12濃度が対照群と変わらない一方,1500 mg/日以上では有意に血清ビタミンB12濃度低下に至り易いことが示唆されている.23本研究のMTF群におけるペメトレキセド投与開始(C1)時点のメトホルミン投与量は平均860.6 mg/日であり(Table 1),Sugawaraらの報告(平均979.5 mg/日)よりも更に低用量であったことから,メトホルミンによるビタミンB12欠乏には至らず,好中球減少に対して影響を及ぼさなかった可能性が考えられる.

Sugawaraらは日本人が魚介を好んで摂取することも,日本人2型糖尿病患者でビタミンB12欠乏リスクが低い要因のひとつであると述べている.12ビタミンB12は,植物性食物には一般的に含まれず,魚,肉,鶏肉,卵,乳製品などの動物由来食品に含まれる.2022年国民健康・栄養調査の結果によると,日本人のビタミンB12の平均摂取量は,男性5.9 µg/日,女性5.0 µg/日であり,これは摂取推奨量(2.4 µg/日)の2倍以上である.22,24本研究は糖尿病合併の肺がん患者を対象にしていることから一概にこの結果を外挿することはできないが,わが国における日常的なビタミンB12の摂取量も本研究の結果に影響した可能性がある.さらに,本研究の対象患者は全例でペメトレキセド添付文書に準じたビタミンB12及び葉酸の投与がなされている.例えば,ヒドロキソコバラミン1000 µg筋肉内投与後の血中濃度は,24時間後では約30 ng/mL,168時間後でも約5 ng/mL程度が維持されるという報告があり,25前述した血清ビタミンB12濃度の基準値を上回ることが期待される.このことから,メトホルミンによるビタミンB12欠乏は生じたものの,ペメトレキセドの前投薬として行われたビタミンB12と葉酸の補充によって顕在化せず,好中球減少に対して影響を及ぼさなかった可能性は十分あるだろう.

本研究における限界として,いくつかの点が挙げられる.第一に,傾向スコアマッチング後の各群の症例数は52例であり,十分な検出力を得るために必要な症例数を確保できていなかった可能性がある.本研究は,既存データベースを用いた後ろ向き観察研究であるため,事前に必要症例数を算出していない.19しかし,既報26,27を基に好中球減少症の発症割合を,MTF群10.0%,non-MTF群5.0%となった場合,臨床的に意義のある差と定義し,有意水準0.05,検出力0.8と設定した際,この差を検出するために必要な症例数は各群435例(計870例)と算出された.なお,本研究では同様に十分な症例数を確保できなかったことから,がんのStage別,併用抗がん薬の種類別及びメトホルミンの用量別などの層別解析は実施できなかった.第二に,MDVデータベースは,一部の施設からのみしか検査結果が提供されておらず,臨床検査値を直接評価できていない.本研究においても解析対象症例の約90%で臨床検査値が欠損しており,ビタミンB12及び葉酸,それらの欠乏マーカーであるメチルマロン酸やホモシステインの血中濃度を評価できていない.そのため,本研究の対象症例ではメトホルミン投与が血清ビタミンB12濃度の低下を介して,ペメトレキセドによる血液毒性へ影響を及ぼしていたかを評価することが困難であった.また,本研究で血液毒性の代替指標として用いた血液毒性の治療に用いる薬剤の投与基準,FNの傷病名付与の基準や治療延期基準は,各医療施設の方針や医師の判断に依存するため,データの一貫性に影響を与えた可能性がある.なお,治療延期は非血液毒性でも生じ得るため,血液毒性の発生を過大評価している可能性がある.同様に,本研究においてはペメトレキセド投与に伴う有害事象のリスク因子として重要な,腎機能の評価が行えていない.第三に,ビタミンB12欠乏はメトホルミン投与以外にも様々な要因により引き起こされるが,28 MDVデータベースからはそのすべてを正確に確認することは困難であり,交絡の影響を排除しきれていない可能性は否定できない.最後に,メトホルミンの投与を処方日及び処方日数で評価したため,自己中断やノンコンプライアンスが検出できず,メトホルミンの使用実態を十分に評価できていない可能性がある.

以上のように,本研究には様々な研究限界があるものの,比較的低用量のメトホルミン投与は,G-CSF処方が必要となるような重篤な好中球減少のリスクとはならない可能性が高いことを見い出した点は,今後の検証に値する知見と考える.今後,メトホルミンの使用量が増加することにより,ペメトレキセドとの併用も更に頻繁に行われることが考えられ,本研究で得られた知見が重要な情報となることが期待できる.

結論として本研究の結果は,少なくとも日本人の糖尿病を合併する非小細胞肺がん患者において,比較的低用量のメトホルミンが投与された患者集団では,ペメトレキセドによる好中球減少が顕著に増強される可能性は低いことを示唆している.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Supplementary materials

この論文のオンラインにSupplementary materials(電子付録)を含んでいる.

REFERENCES
 
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