YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Approaches to the Treatment of Lifestyle-related Diseases Through the Regulation of Phospholipid Biosynthesis in the Liver
Kahori Shimizu Hideo ShindouKoji TomitaToru Nishinaka
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2025 Volume 145 Issue 3 Pages 171-176

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Summary

The incidence of type 2 diabetes mellitus (T2DM), a major lifestyle-related disease, is increasing worldwide. T2DM, which accounts for approximately 90–95% of all diabetes mellitus cases, is caused by deficient insulin secretion, tissue insulin resistance, or both. Many therapeutic drugs for T2DM have been developed that target the pancreas, which secretes insulin. The liver is the central organ for glucose and lipid metabolism, and failure of hepatic regulatory mechanisms leads to hyperglycemia, insulin resistance, and lipid accumulation. Here, we focused on the liver as a novel therapeutic target for T2DM. The fatty acid composition of phospholipids, a major component of biological membranes, has received considerable research attention owing to their involvement in T2DM onset and progression. Fatty acids in phospholipids are cleaved by phospholipase A to form lysophospholipids, which are subsequently remodeled back into phospholipids by lysophospholipid acyltransferases (LPLATs). LPLATs play an important role in lipid metabolism and homeostasis by regulating the abundance of various phospholipid species in multiple cell and tissue types. We investigated whether overexpression of LPLAT10, also called LPCAT4 and LPEAT2, in the liver could improve abnormalities in glucose metabolism and help treat T2DM. For overexpression, we generated an LPLAT10-expressing adenovirus (Ad) vector using an improved Ad vector named Ad-E4-122aT, which exhibited higher and longer-term transgene expression and lower hepatotoxicity than conventional Ad vectors. In this article, we review the current findings that changes in hepatic phospholipid species due to liver-specific LPLAT10 overexpression affect the pancreas and suppress postprandial hyperglycemia by increasing postprandial insulin secretion.

1. はじめに

生活習慣病は,食事や運動,睡眠,喫煙,飲酒などの生活習慣が深く関与し,それらが発症の要因となる疾患の総称である.生活習慣病の代表的な疾患である2型糖尿病は,インスリンの作用不足に基づく高血糖を主徴とする代謝性疾患群であり,世界的に患者数が爆発的に増加している.1 2型糖尿病の発症には,遺伝因子と環境因子が関与しており,インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性の増大が生じる.すなわち,高脂肪食の摂取や肥満により肝臓や骨格筋においてインスリン抵抗性が増大すると,糖の取り込みが低下し,血糖値が上昇する.そのため,いったんインスリン分泌は増大するものの,しだいにインスリン分泌量が低下することで血糖値が上昇し,更にインスリン抵抗性が増大することにより,2型糖尿病が発症及び進展すると考えられている.2型糖尿病に対する治療薬としては,インスリンを分泌する膵臓を標的としたものが多く開発されている.一方で,肝臓は糖・脂質代謝の中心臓器であり,糖産生,脂質合成及び分解の調節などを行っている.肝臓におけるこれらの制御機構の破綻は,高血糖やインスリン抵抗性,脂肪蓄積などを招き,糖尿病や代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease: MASLD)などの生活習慣病を引き起こす.そこで筆者らは,糖尿病の新しい治療標的として肝臓に注目した.

近年,生活習慣病の病態生理において,身体に蓄積された脂質が大きな注目を集めている.脂質は,トリアシルグリセロールやリン脂質など,複数の種類に分類される.さらに,これらの脂質を構成する脂肪酸は,鎖長,二重結合の有無や位置の違いなどにより多数の脂質が存在する.そして,脂肪酸組成の変化は,生活習慣病の発症及び進展に関与することが注目されている.2生体膜の主要成分であるリン脂質は,極性基と脂肪酸の組み合わせにより多くの分子種が存在する.リン脂質は2本の脂肪酸を有し,ホスホリパーゼAによって加水分解されることでリゾリン脂質となり,リゾリン脂質はリゾリン脂質アシル転移酵素(lysophospholipid acyltransferase: LPLAT)によって再びリン脂質に変換され,リモデリングされている(Fig. 1).36主要なリゾリン脂質であるリゾホスファチジルコリン(lysophosphatidylcholine: LPC)は,細胞障害性を示すことや,7,8糖尿病モデルマウスやMASLDの患者においてその含有量が増加していることが報告されている.7,9,10そこで,筆者らは,リン脂質であるphosphatidylcholine(PC)からリゾリン脂質であるLPC, LPCからPCへの変換を制御することは,糖・脂質代謝に影響を与えると考えた.本稿では,糖尿病の新しい治療標的として注目した肝臓において,リゾリン脂質からリン脂質への変換を触媒するLPLATのひとつであるLPLAT10を高発現させることで2型糖尿病に与える影響について検討した筆者らの研究について紹介する.11

Fig. 1. Schematic Diagram of the Remodeling of Phospholipids and Lysophospholipids by Phospholipase A and Lysophospholipid Acyltransferase

2. LPLAT10を搭載したアデノウイルスベクターの作製

リゾリン脂質からリン脂質への変換を触媒するLPLATは,現在までに14種類同定されている.6 LPLATのひとつであるLPLAT11(別名lysophosphatidylinositol acyltransferase 1: LPIAT1, membrane-bound O-acyltransferase domain-containing 7: MBOAT7)の発現低下はMASLDの発症と増悪化を引き起こしたり,12 LPLAT12(別名LPCAT3, MBOAT5)のノックアウトマウスでは肝臓や小腸においてトリアシルグリセロールの蓄積がみられたりするなど,13,14 LPLATはエネルギー代謝や病態に大きく寄与している.筆者らは,LPLATのひとつであり,まだ十分に機能が解明されていないLPLAT10(別名LPCAT4, lysophosphatidylethanolamine acyltransferase 2: LPEAT2)に着目した.

肝臓にLPLAT10を高発現させるベクターとして,肝指向性の高いアデノウイルスベクター(adenovirus: Ad)ベクターを選択した.Adベクターは,既存のベクターの中で遺伝子導入効率が最も高いことや,大量のベクターが回収可能であることなど多くの特長を有しており,近年では,新型コロナウイルス感染症に対するワクチンのベクターとしても使用されている.15,16しかしながら,従来のAdベクターは肝障害を誘発することから,本研究では,筆者らが大阪大学の水口,櫻井(現 近畿大学)らと開発した,改良型アデノウイルスベクター「Ad-E4-122aT」を用いて検討を行うこととした.17,18 Ad-E4-122aTは,AdベクターのE4遺伝子の3′非翻訳領域に,肝臓特異的microRNA(miRNA)であるmiR-122aの標的配列を4コピー挿入したAdベクターあり,従来型Adベクターよりも肝障害性が低く,高効率に導入遺伝子を発現させることが可能である.そこで,注目したLPLAT10を搭載したAdベクター「Ad-LPLAT10」を作製した.

作製したAd-LPLAT10が,マウスの肝臓中においてLPLAT10をどの程度高発現可能かを調べるため,2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスにAd-LPLAT10を静脈内投与した.そして2週間後に肝臓を回収し,LPLAT10のmRNA量及びタンパク質量を測定した.その結果,Ad-LPLAT10群はコントロール群であるルシフェラーゼ遺伝子を搭載したAd-Luc群と比較して,LPLAT10 mRNAが約370倍高く発現しており,またタンパク質レベルも顕著に増大していた.したがって,作製したAd-LPLAT10は,マウス肝臓中においてLPLAT10を高発現可能であることが示された.

3. 肝臓におけるLPLAT10の高発現が糖代謝に与える影響

肝臓におけるLPLAT10の高発現が糖代謝に与える影響について検討するため,Ad-LPLAT10をdb/dbマウスに静脈内投与2週間後の空腹時血糖値及びインスリン量を測定した.その結果,Ad-Luc群とAd-LPLAT10群における空腹時血糖値及びインスリン量はともに同程度を示した.次に,耐糖能に対する影響を調べるため,糖負荷試験を行った.db/dbマウスにAd-LPLAT10を投与した群においては,グルコース投与30分後の血糖値の上昇がAd-Luc群より抑制されていたことから,LPLAT10を高発現させることで,耐糖能が改善することが示された(Fig. 2A).糖負荷時におけるインスリン分泌量を調べるため,C57BL/6マウスを用いて糖負荷試験を行ったところ,Ad-LPLAT10群においてはAd-Luc群よりも血糖値が低値を示し,また糖負荷時におけるインスリン分泌量が上昇していた(Figs. 2B and C).2型糖尿病患者においては,食後のインスリン分泌が損なわれ,食後高血糖を示すことが知られている.したがって,LPLAT10を肝臓で高発現させることで,食後のインスリン分泌量が増加し,食後高血糖が抑制されたことが示された.

Fig. 2. Hepatic LPLAT10 Overexpression Improved Glucose Tolerance and Glucose-stimulated Insulin Secretion

A: Blood glucose levels during the intraperitoneal glucose tolerance test of mice, one week after administration of Ad-LPLAT, Ad-Luc, or PBS. B: Blood glucose and C: insulin levels during the intraperitoneal glucose tolerance test of C57BL/6 mice, five weeks after administration of Ad-LPLAT or Ad-Luc. One-way ANOVA with Dunnett’s post hoc tests was used for multiple comparisons (A). The Mann–Whitney U test was used to compare differences between two independent groups (B and C). Two independent experiments were performed and yielded similar results. The data are expressed as the mean±S.E. (n=5). * p<0.05 compared with the Ad-Luc treatment. These figures are modified from Shimizu et al., FASEB J., 38, e23425 (2024).11)

次に,肝臓におけるLPLAT10の高発現が膵臓からのインスリン分泌を増加させるメカニズムについて解明することを試みた.筆者らは,肝臓においてLPLAT10が高発現することにより,肝臓内のPC及びLPCが変化し,それらが血中に分泌されて膵臓に作用することで,グルコース依存性インスリン分泌が起きると考えた.そこでまず,Ad-LPLAT10投与後の肝臓内のPC及びLPCを液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC-MS/MS)を用いて解析した.その結果,Ad-LPLAT10群においては,Ad-Luc群よりもPC 40:7が2.4倍増加しており,PC 38:1, PC 40:1, PC 40:2, PC 40:3, PC 42:7, PC 44:12, LPC 20:1も有意に増加していた.また,PC 36:5, PC 38:4, LPC 18:0, LPC 20:3, LPC 20:4, LPC 20:5は,Ad-LPLAT10群ではAd-Luc群よりも有意に減少したことが示された.さらに,血清中のPC及びLPCの分子種についてもLC-MS/MSを用いて同様に測定したところ,肝臓内の変化と同傾向を示した.

血中に分泌されたリン脂質及びリゾリン脂質が膵臓からのインスリン分泌に影響を与えるかを調べるため,Adベクター投与後のマウス血清を用いて,マウスインスリノーマ細胞株であるMIN6細胞を一晩培養した.その後,高濃度グルコース刺激下におけるインスリン分泌量を測定したところ,Ad-LPLAT10投与後のマウス血清を用いて培養した群においては,グルコース依存性インスリン分泌が増加した.

次に,肝臓から分泌されたPC又はLPCが,液性因子のように膵臓に作用することでインスリン分泌量を増加させるかを検討するため,LPLAT10の高発現によって増加したPC 40:7に注目した.PC 40:7は,構造解析により,C18:1[オレイン酸(oleic acid: OA)],C22:6[ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid: DHA)]であることを確認した.OAをMIN6細胞に一晩作用させた後,低濃度又は高濃度のグルコースを用いて培養し,インスリン分泌量を測定した.その結果,OAの作用によるインスリン分泌量の増加は観察されなかった(Fig. 3A).次に,DHAをMIN6細胞に作用させ同様に検討したところ,低濃度グルコース刺激下においては,DHA作用群とコントロール群との間に有意な差はみられなかった.一方,高濃度グルコース刺激下においては,DHA作用群においてインスリン分泌量は増加し,またその分泌量は濃度依存性を示した(Fig. 3B).さらに,マウスから膵島を単離し,同様に検討したところ,MIN6細胞を用いた検討結果と同様に,高濃度グルコース刺激下において,膵島にDHAを作用させることでインスリン分泌量が増加したことが示された(Fig. 4).以上より,肝臓においてLPLAT10の高発現によって増加したPC 40:7を構成するDHAが,グルコース依存性インスリン分泌において重要であることが示された.

Fig. 3. DHA Increased Glucose-stimulated Insulin Secretion in MIN6 Cells

Insulin secretion from A: OA-treated or B: DHA-treated MIN6 cells. MIN6 cells were cultured with a medium containing OA, DHA, or ethanol for 14 h. After washing, the cells were preincubated in HEPES-buffered Krebs–Ringer buffer with 0.1% BSA and 2.8 mM glucose for 1 h. After washing, the cells were incubated for 1 h with 2.8 or 20 mM glucose. The amount of insulin in the medium was measured using ELISA assays. One-way ANOVA with Dunnett’s post hoc tests was used for multiple comparisons. The data are expressed as the mean±S.E. (n=4). * p<0.05 compared with EtOH in the presence of 20 mM glucose. EtOH; ethanol, OA; oleic acid, DHA; docosahexaenoic acid. These figures are modified from Shimizu et al., FASEB J., 38, e23425 (2024).11)

Fig. 4. DHA Increased Glucose-stimulated Insulin Secretion in Primary Mouse Pancreatic Islets

Primary mouse pancreatic islets were cultured in a medium containing OA, DHA, or ethanol for 16 h. After washing, seven formation-matched islets were preincubated in the RPMI medium supplemented with 1% BSA and 2.8 mM glucose for 1 h. The islets were incubated for 1 h with 25 mM glucose. The amount of insulin in the medium was measured using ELISA assays. One-way ANOVA with Dunnett’s post hoc tests was used for multiple comparisons. The data are expressed as the mean±S.E. (n=3). * p<0.05 compared with EtOH. These figures are modified from Shimizu et al., FASEB J., 38, e23425 (2024).11)

4. おわりに

本稿では,糖尿病の新しい治療標的である肝臓において,リン脂質・リゾリン脂質の代謝制御による2型糖尿病に対する新しい治療法を開発するため,リゾリン脂質をリン脂質に変換する酵素である「LPLAT10」に注目した研究を紹介した.そして,改良型Adベクターを用いてマウスの肝臓においてLPLAT10を高発現させることにより,肝臓内のリン脂質の脂肪酸組成の変化を介して食後のインスリン分泌を増加させ,食後高血糖を抑制することを示した.

従来の糖尿病治療薬は,低血糖の発生が問題となっていた.本研究で注目したLPLAT10の肝臓における高発現は,グルコース依存性インスリン分泌を促進させるため,患者が高血糖になってはじめて血糖値を下げる効果を示すことが考えられ,低血糖の問題を回避可能であると期待される.そのため,LPLAT10を肝臓において高発現可能な医薬品や活性化剤の開発が,新たな糖尿病治療薬につながることが考えられる.

遺伝子治療は,2019年に日本初の遺伝子治療薬が販売承認されるなど,近年,先進的な医療として大きな注目を集めている.現在の遺伝子治療の対象疾患の多くはがんや先天性疾患であるが,患者数が多い生活習慣病も遺伝子治療の対象となり得る.遺伝子治療がより身近な標準治療法となれば,LPLAT10を用いた糖尿病に対する遺伝子治療により,薬の投与回数が数週間~数ヵ月に一度となり,患者のQOLが大幅に向上すると考えられる.

生活習慣病は,患者数も多く,人々のQOLに大きく関与する疾患であるため,革新的な治療法の開発が望まれている.肝臓内のリン脂質に注目した本研究が,2型糖尿病などの生活習慣病の新しい治療法の開発の一助になれば幸いである.

謝辞

本研究は,JSPS科研費 JP15K18939, JP18K14964, 21K06680並びに大阪大谷大学薬学部共同研究費の助成を受けたものです(研究代表者:清水かほり).有益な御助言を頂きました大阪大学大学院薬学研究科の水口裕之先生,近畿大学薬学部の櫻井文教先生に御礼申し上げます.実験に御協力頂いた大阪大谷大学薬学部分子生物学講座の小野 萌先生,吉田瀬七先生,明治薬科大学の道永昌太郎先生,大阪大谷大学薬学部生化学講座の学生の皆様に感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS05で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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