2025 Volume 145 Issue 3 Pages 177-182
In recent years, the number of people suffering from lifestyle diseases such as hyperlipidemia and fatty liver disease has increased rapidly due to westernization of dietary patterns. Among fatty liver diseases, those that are not caused by alcohol are referred to as nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD). Some NAFLD can progress to nonalcoholic steatohepatitis (NASH), and further progression of NAFLD can lead to cirrhosis and liver cancer. Although numerous studies have demonstrated the efficacy of dietary polyunsaturated fatty acids (PUFAs), particularly omega-3 PUFAs eicosapentaenoic acid (EPA) and docosahexaenoic acid (DHA), against NAFLD, the detailed mechanisms by which these PUFAs exert their protective effects on the pathogenesis and progression of NAFLD are not well understood. Recent studies using knockout mouse models and genome-wide association studies have suggested a potential role for the enzymes responsible for the biosynthesis of PUFAs (FADS1, FADS2, ELOVL2, and ELOVL5) and their incorporation into phospholipids (LPCAT3/MBOAT5/LPLAT12 and LPIAT1/MBOAT7/LPLAT11) in the development of NAFLD. In this review, we summarize recent findings on the association of NAFLD and PUFAs with a focus on PUFA biosynthetic and metabolic enzymes to discuss the potential role of PUFAs in the prevention of NAFLD.
近年,食の欧米化や過食などにより,高血圧症や高脂血症,心筋梗塞,脳卒中などの生活習慣病に罹患する人が急増しているが,脂肪肝もその一つである.1)脂肪肝はアルコールの過剰摂取が原因とされていたが,明らかな飲酒歴がないにもかかわらず脂肪性肝障害を認めるものを非アルコール性脂肪性肝障害(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)と呼ぶという新しい肝疾患の概念が生まれた.NAFLDには肥満や2型糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病が背景にあることが多く,中でも2型糖尿病との関連性が強いことがわかっている.2) NAFLDの有病率は今や日本においても9–30%と報告されている.3)その中でも10–20%は非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)へと進展する可能性があり,4)更なる悪化で肝硬変や肝がんを発症し得ることが知られている.このように,リスクの高い病態であるにもかかわらず病態生理の解明は進んでおらず,保険適応される適切な治療薬がいまだに開発されていないのが現状である.2型糖尿病などの併存疾患があれば,その疾患に対する治療も行われるが,基本となる治療方針としては食事療法や運動療法による生活習慣の改善が挙げられる.食事療法については,炭水化物や脂質が制限された低カロリー食や,肝臓の脂肪量を低下させるとされるω3脂肪酸などの高度不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid: PUFA)を多く含む食事が推奨されている.5,6)
このように,“脂肪肝”は一般的にもよく知られているが,場合により命の危険性が高まる病態でもある.また一方で,普段の食生活や運動習慣により発症や進展を予防し得るものであるとも言える.今回は,PUFAがNAFLDの発症や進行に対して予防的に働く分子機構について,最近の知見を概説する.なお近年,NAFLDに加えアルコールによる肝障害も含めた代謝異常に関連する脂肪性肝疾患をmetabolic dysfunction associated fatty liver disease(MAFLD)と呼ぶという概念が提唱されたが,本稿では従来のNAFLDの概念を用いる.
脂肪酸のうち,分子内に複数の炭素間二重結合を持つ脂肪酸をPUFAと称する.中でも,ω末端から数えて二重結合が3番目から始まるものをω3脂肪酸,6番目から始まるものをω6脂肪酸と呼ぶ.これらのPUFAは哺乳類の生体内において,食事から摂取される必須脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸から,脂肪酸不飽和化酵素(fatty acid desaturate)であるFADS1とFADS2,及び脂肪酸伸長酵素(fatty acid elongase)であるELOVL5やELOVL2の働きにより生合成される(Fig. 1).ω6脂肪酸は牛や豚に,ω3脂肪酸は魚に多く含まれていることが知られている.ω6脂肪酸にはアラキドン酸などの炎症に係わる脂質メディエーターの前駆体が含まれる一方,ω3脂肪酸にはエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid: EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid: DHA)などの抗炎症作用を持つ脂肪酸が含まれる.哺乳類はω6脂肪酸をω3脂肪酸へ変換する酵素を持たないため,両方の脂肪酸を食事から摂取する必要がある.ところが,現在の日本人は食の欧米化に伴い,従来と比較してω3脂肪酸の摂取量が減少し,ω6脂肪酸を過剰に摂取している傾向にある.7)われわれはこれまで,これらの既知のPUFAの機能に加え,PUFA生合成の減少が双極性障害の発症に係わることや,8)精巣ライディッヒ細胞で生合成されるω6脂肪酸が男性ステロイドホルモンであるテストステロンの産生を促進することを見い出してきた.9)これらのPUFAの働きはこれまで知られていなかったものであり,今後の更なる研究の進展によりPUFAの新しい機能や病態との関係性が解明されることが期待される.
現在,肝臓への中性脂肪の蓄積に,ステロール調節配列結合タンパク質(sterol regulatory element-binding protein: SREBP)や超低密度リポタンパク質(very low density lipoprotein: VLDL)が大きく係わっていることがわかってきた.10,11) SREBPはコレステロールや脂肪酸合成を担う酵素の転写を制御している転写因子であり,配列がよく似たSREBP-1とSREBP-2が存在する.役割はそれぞれ異なり,SREBP-1は脂肪酸合成を,SREBP-2はコレステロール合成を制御している.さらにSREBP-1にはSREBP-1aとSREBP-1cというアイソフォームが存在し,肝臓に主に発現するSREBP-1cは脂肪酸・中性脂肪の合成に関与する酵素の遺伝子群の転写を制御している.いずれも小胞体膜タンパク質として合成されたのち,SREBP結合タンパク質であるSREBP cleavage-activating protein(SCAP)と2量体を形成する.細胞内の脂肪酸量が低下すると,この複合体はゴルジ体へと輸送され,活性を持つN末端が切断されたのち,核内へ移行して応答遺伝子の発現を調節する.その後,肝臓で合成された中性脂肪はリポタンパク質であるVLDLに組み込まれて血液中に放出される.一方,脂肪酸合成を必要としない際にはSREBP-1cによる脂肪酸de novo合成はPUFAにより抑制されている.12)また,リポタンパク質の表面はアポタンパク質やリン脂質により構成されるが,リン脂質の多くにPUFAが含まれている.よって,PUFAが不足すると,肝臓におけるSREBP-1cを介した脂肪酸de novo合成の抑制が解除されて亢進する一方で,VLDLの分泌不全も生じるため中性脂肪の排出が抑制され,肝臓に中性脂肪が蓄積することになる.13)実際にヒトを対象にした解析も行われており,NAFLD患者の嗜好内容について調査した報告によると,健常者と比較して肉や清涼飲料水の摂取量が多く,魚の摂取量が少ないという結果だった.14)また,NASH患者の食事内容と食後の血中の中性脂肪量を検討した報告では,NASH患者が摂取する脂肪酸は,飽和脂肪酸の割合が多く,PUFAの割合が少ないという結果であった.加えて,NASH患者は食後の血中の中性脂肪量が健常者と比較して高く,それにもかかわらずVLDLを構成するタンパク質であるapolipoprotein B(ApoB)の分泌量が増加せず,ApoBの分泌不全が示唆される結果であった.15)一方,既述のようにNAFLD患者には食事療法の一つとしてω3脂肪酸を多く含む食事の摂取が推奨されているが,NAFLDに対するω3脂肪酸の効果に関する多くの報告がある.そのうち一つの報告では,NAFLD患者がPUFAを1日2 g,6ヵ月間摂取し続けると,33.4%の患者で脂肪肝が完全に消失し,全体の50%の患者で脂肪肝が軽減した.血中の中性脂肪量や肝逸脱酵素も減少し,PUFA摂取による脂肪肝の改善効果がみられた.16)ほかの報告でも同様で,成人のNAFLD患者がω3脂肪酸6 g/日を6ヵ月間摂取,小児のNAFLD患者がω3脂肪酸1 g/日を12ヵ月間摂取することにより,脂肪肝の改善が認められた.17,18)さらに,これらの報告を含むメタ解析により,ω3脂肪酸にはNAFLD患者の脂肪肝を低減し,肝炎を改善させる効果があることが明らかに示された.19)
このように,脂肪肝の発症とPUFAは密接に係わっているが,PUFAの不足がどのようにして脂肪肝の発症につながるか,その具体的な機序についてはまだ不明な部分が多い.しかし近年,細胞・個体レベルでPUFA欠乏を人為的に誘導することでPUFAとNAFLDの関係性を明らかにしようとする解析が行われているので紹介したい.まずは,FADS2に着目した解析である.ゲノムワイド関連解析(genome wide association study: GWAS)により,NAFLDの患者がFADS2の一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNPs)を有することが報告された.20)また,ヒト肝臓オルガノイドのゲノムワイド機能喪失スクリーニングにより,FADS2が脂肪肝に係わる因子である可能性が浮上した.そこで,FADS2をノックアウトしたヒト肝臓オルガノイドを作製すると,細胞内に脂肪滴の著しい蓄積が観察された.一方,FADS2を過剰発現させたヒト肝臓オルガノイドを作製すると脂肪滴の蓄積がほぼ消失したことから,FADS2は肝臓において脂肪蓄積の抑制に寄与する重要な遺伝子であることが示された.21)さらにこのFADS2遺伝子を欠損させたFADS2欠損マウスが脂肪肝を発症することがわかった.この研究では,FADS2欠損マウスをPUFA欠乏状態へ誘導することにより,既述の通り,SREBP1-cによる脂肪酸de novo合成が亢進し,VLDLによる中性脂肪の分泌不全により脂肪肝が発症すると結論づけられている.22)次は,脂肪酸伸長酵素(ELOVL5, ELOVL2)に着目した解析である.ELOVL5はC18からC20への脂肪酸伸長反応を担う酵素である.ELOVL5欠損マウスではELOVL5が担う反応の下流にあるアラキドン酸やDHAなどのPUFAの生合成が損なわれるため,FADS2欠損マウスと同様に肝臓の中性脂肪の量が上昇する.23)一方,ELOVL2はC20からC22, C22からC24への脂肪酸伸長反応を担う酵素であるが,ELOVL2欠損マウスでは脂肪肝が発症しなかった.ELOVL5欠損マウスと同様にSREBP1-cの発現は亢進したが,EPAの蓄積により脂肪肝の発症が抑制されたと考察されている.24)いずれの解析でもPUFA欠乏により脂肪肝が発症したことから,PUFAには脂肪肝抑制の機能が存在すると考えられる.したがって,PUFAはヒトの通常の食事に取り入れられるべき物質であり,PUFAの積極的な摂取により脂肪肝の発症を抑制できる可能性がある.加えて,更なる研究により個々のPUFA分子種の役割が解明されれば,脂肪肝やPUFAが関連する疾患に対する治療薬の開発につながることが期待される.
これまでPUFAと脂肪肝の関係について述べてきたが,具体的にPUFAがどのようにして脂肪肝を抑制しているのかについては明確ではなかった.既述した通り,PUFAは生体膜の構成成分であるリン脂質に多く含まれている.生体膜リン脂質はグリセロール-3-リン酸からde novo経路であるケネディ経路で合成されたのち,ホスフォリパーゼにより脂肪酸が切り出されてリゾリン脂質が生じ,これがリゾリン脂質アシル転移酵素により再びリン脂質に変換されるというリモデリング経路(ランズ回路と呼ばれる)により成熟すると考えられている.25)近年,このランズ回路に係わる二つのリゾリン脂質アシル転移酵素に着目したNAFLD発症機序についての新たな知見が示された.一つ目はLPCAT3/MBOAT5/LPLAT12である.この酵素はリゾホスファチジルコリン(lysophosphatidylcholine: LPC)に主にアラキドン酸を導入するリゾリン脂質アシル転移酵素である.26,27)肝臓,小腸,脂肪組織で高発現し,肝脂肪酸合成,腸管での脂質吸収,リポタンパク質の分泌に関与する.28,29) NAFLDが悪化し,肝内の脂肪沈着が減少した病態をburned-out NASHと呼ぶが,この病態ではSCAPの発現低下に伴ってSREBPの活性が低下する.これに伴いLPCAT3の発現が低下するために生体膜へのPUFAの転移が減少し,膜の流動性の低下により小胞体ストレスが生じ,肝障害を引き起こすことが示された.30)二つ目はLPIAT1/MBOAT7/LPLAT11である.この酵素はリゾホスファチジルイノシトール(lysophosphatidylinositol: LPI)に主にアラキドン酸を導入するリゾリン脂質アシル転移酵素として同定された.31)その後,欠損マウスが作製され,この酵素が脳の正常な発達に不可欠であることも示された.32)一方,NAFLD患者を対象としたGWAS解析では,既にSNPsとして報告されているpatatin-like phospholipase domein contain 3 protain(PNPLA3)などと並び,33) LPIAT1もNAFLD患者が有する主要なSNPsの一つであることが報告された.34,35)具体的には,NAFLD患者ではLPIAT1遺伝子の下流のSNP(rs641738: C>T)によりLPIAT1遺伝子の発現が低下していることが明らかとなった.これらの解析はいずれも欧米人を対象にした解析であるが,日本人を対象にしたGWAS解析では,NAFLD患者とLPIAT1のSNPの関連は指摘できていないのが現状である.36)今後もデータの蓄積が求められるが,実際に地理的な分布の差がある可能性があり,探究の余地がある興味深い点である.
最近,LPIAT1の欠損マウスを用いた解析から,LPIAT1の機能喪失がNAFLDの発症につながる分子機序の一端が明らかになった.LPIAT1欠損マウスではアラキドン酸以外の脂肪酸を含有する異常なphosphatidylinositol(PI)が蓄積するが,このPIは不安定であるために速やかに分解される.この分解によって中性脂肪の原料となるジアシルグリセロールが多量に生成され,結果的に中性脂肪が蓄積することで脂肪肝が発症した.37)別の研究では,LPIAT1の欠損によりPI中のPUFAが著しく減少するという脂肪酸組成の変化が起こった結果,インスリン抵抗性と関係なくSREBP-1cが亢進することにより脂肪肝が発症した.38)さらに別の研究グループは,LPIAT1欠損により同様の脂肪肝を発症したのち,炎症とは無関係に肝線維化が進行することを報告した.39)このように,PUFAをリン脂質に導入するリゾリン脂質アシル転移酵素についての研究から,PUFAがNAFLDを抑制する分子機構が次々に解明され始めた.
以上,これまでのPUFAとNAFLDに関する知見をまとめた.脂肪肝発症には様々な因子が係わっており,更なるメカニズムの解明が求められる.特に,どのPUFAがどの程度,どの過程においてNAFLDの発症の抑制に寄与するかを詳細に明らかにすることが,PUFAをNAFLDの治療薬として用いるうえで肝要であろう.上述した様々なPUFA関連遺伝子の改変マウスや,われわれが現在開発中の様々なPUFA欠乏モデルマウスが,脂肪肝発症のメカニズムや個々のPUFAの役割を解析するための有用なモデルになると考える.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS05で発表した内容を中心に記述したものである.