2025 Volume 145 Issue 4 Pages 273-274
少子高齢社会のわが国では,生まれてきた生命をひとつでも多く救うことが求められる.そのためには,小児用医薬品の開発,拡充が重要な課題のひとつであり,内閣府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2023」や厚生労働省「成育医療等基本方針に基づく評価指標及び計画策定指針について(2023年3月改定)」などにより,小児のドラッグ・ロスやドラッグ・ロスに対する取り組みの重要性が示されている.小児用医薬品は,医療ニーズが高いにもかかわらず,成人の医薬品と比べて開発が遅延している.その背景として,小児疾患は一般的に患者の遺伝的背景や病因が多彩であること,小児特有の性質を考慮した治験が求められること,治験患者の確保が難しいなどの問題がある.その解決には,小児用医薬品の上市拡大に向けた産官学に患(患者及びその関係者)を加えた連携による取り組みが必要である.
小児用医薬品の拡充には,成人で用いられている既存医薬品の小児外挿に加え,新たに開発される医薬品の小児適用の推進が重要である.2024年1月には,「成人を対象とした医薬品の開発期間中に行う小児用医薬品の開発計画の策定について(2024年3月一部改訂)」に関する通知が厚生労働省から発出され,新規医薬品の開発にあたり,小児に適切な用法・用量の設定や剤形開発が推奨されることになり,今後の小児医薬品開発の拡大が期待される.また,小児にとって有効かつ安全な医薬品の開発には,小児の生理的,薬理学的な特性に焦点を当てた基礎研究を基盤として,ボトムアップ式に創薬開発を進めることも重要である.さらに,小児患者にとっては「医薬品の服用のし易さ」も重要な項目であり,服用患者に適した剤形の検討も必要不可欠である.
本誌上シンポジウムでは,小児用医薬品の拡充に向けたBench-to-Bedsideな研究として,胎児,新生児の心不全治療に向けた創薬基盤研究,及び小児の特性を考慮した製剤設計に関する研究に関して報告する.国立医薬品食品衛生研究所の川岸裕幸は「アンジオテンシン受容体を標的とした新生児・乳児心不全治療薬の開発」に関し,幼若期特異的な心筋細胞の薬理作用に基づく小児心不全治療薬の創薬研究について紹介する.信州大学の細田洋司氏には「胎児心不全の克服に向けた取り組みと,これまでに分かったこと」について,胎児心不全の診断法や診断バイオマーカーの検討と,モデル動物を用いた経胎盤的治療薬に関する研究を紹介頂く.昭和大学の原田 努氏には「小児に優しい医薬品開発に資する製剤設計」について,小児患者やその関係者の意見に基づいた製剤設計,服薬量設定に関する研究成果について紹介頂く.また,日本薬学会第144年会シンポジウムS04では,国立成育医療研究センターの中村秀文氏に「小児医薬品開発の現状と今後の展望」について講演頂き,小児用医薬品の研究開発や小児治験における留意点を,臨床,レギュラトリーの視点から紹介頂いた.講演内容に関しては,以下の総説を御参考頂きたい.1,2)
本誌上シンポジウムが,小児用医薬品の拡充に向けた最新の創薬基礎研究からレギュラトリーサイエンスまで一貫した情報の共有を通じ,小児用医薬品の創薬研究を展開するうえで有用なものとなることを期待する.
本誌上シンポジウムの実施にあたり,日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development: AMED)医薬品等規制調和・評価研究事業「小児用医薬品のDILIリスク評価バッテリーの構築に向けた非臨床試験の高度化研究」(課題管理番号:JP24mk0121287)による支援を受けています.
日本薬学会第144年会シンポジウムS04序文