YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Graduation Research in Pharmaceutical Education for Developing Scientific Thinking Skills: Daily Research Activities with Students
Hitomi Hasegawa
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2025 Volume 145 Issue 5 Pages 415-419

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Summary

The work of pharmacists has shifted from object-centered based on dispensing to interpersonal work with a high degree of patient and local-resident interactions, while society has come to require advanced clinical practice skills. To cultivate clinical practice skills, improving themselves as a medical professional and enhancing their problem-solving skills is important, so graduation research is thought to play a major role. This paper introduces the daily laboratory activities of the Laboratory of Promotion of Pharmaceutical Education, with which I am affiliated. At one point, I realized that I was intervening too much in my graduation research guidance to students, which led me to drastically change my guidance methods. I engage with the students in dialog as we conduct the graduation research together, and I believe that trusting the students, entrusting them with the core of the research activities, and increasing their independence in the graduation research helps foster their scientific inquisitiveness.

1. はじめに

筆者が所属する昭和薬科大学は6年制薬学教育課程のみの学科が設置されており,卒業後の進路は多様であるものの,保険薬局やドラッグストア,病院へ薬剤師として就職する卒業生が多い.社会から求められる薬剤師像は絶えず変化しており,地域包括ケアシステムの構築や「患者のための薬局ビジョン」によりかかりつけ薬剤師・薬局のあり方が厚生労働省によりまとめられ,近年では,薬剤師の業務は調剤を基本とした対物中心の業務から,服薬指導などを通して患者や地域住民との係わり度合いの高い対人業務へシフトしている.1,2対人業務を充実させるためには,薬剤師自らの自己研鑽により専門性を高めることは重要であるが,臨床において患者に接しながら薬学的な問題を発見し,それを解決できるようにするための臨床に係わる実践的な能力を有する薬剤師の養成も期待されている.このような臨床実践能力を薬学生に身につけてもらうために,各大学では薬物治療の症例検討を行う授業や演習が導入されているが,36対人業務でも必要となる問題解決能力については,「卒業研究」でも大いに醸成できる力であり,薬学や医療の発展に貢献するためにも「卒業研究」が担う役割は大きいのではないだろうか.また,令和4年度改訂版薬学教育モデル・コア・カリキュラムに掲載されている薬剤師として求められる基本的な資質・能力の1つに「科学的探究」がある.7やはり,将来薬剤師として,薬学的視点から医療・福祉・公衆衛生における課題を的確に見出し,解決のための科学的思考を身に着けながら薬学の発展に貢献するための土台として,「卒業研究」は重要であると考えられる.

本学では「薬を通して人類に貢献」という理念の下,6つのアウトカムからなるディプロマ・ポリシーを定めている.アウトカムの1つとして,「科学的根拠に基づく問題発見,問題提起及び問題解決の能力を有し,問題解決によって得られた成果を社会に還元できる人」の育成を掲げており,在学生が卒業時までにこれを達成できるよう各研究室の教員が卒業研究の指導に励んでいる.筆者は教員歴10年であるが,本学での勤務は2年と短いため,本稿では他大学での卒業研究指導経験も交えながら,普段の研究室活動を紹介させて頂く.紹介させて頂く内容については,どの研究室でも行っているような内容であり決して特色のあるものとは言えないが,薬学教育分野の1研究室の紹介として捉えて頂きたい.また,教育学の理論に基づくものではなく,筆者の私見を書かせて頂いている点を御容赦願いたい.

2. 卒業研究の内容について

現在所属している薬学教育推進研究室は,教育カリキュラム策定のための情報収集や,新規授業プログラムの構築,学習支援の対策を実施するための学生の学修状況に関する情報の収集や分析を行う等の業務を遂行する傍ら,薬学教育分野の研究を行ういわゆるドライ系の研究室である.研究内容としては,学生が将来,医療機関又は地域社会で患者や他職種から信頼される薬剤師として活躍するために,本学において又は生涯にわたってどのような学修をすべきかを考え,授業プログラムを企画・実践し,教育効果を検証する研究を行うこととしている.研究内容を大きく分けると2つに分かれ,1つ目は,「授業プログラムの教育効果に関する研究」であり,現在実施されている授業や演習の効果をアンケート等で調べ,改善点などを次年度に活かしブラッシュアップする役割を持つ研究である.2つ目は「新たな授業プログラムを構築するための研究」で,社会に求められる薬剤師を輩出するためにどのような授業が必要なのかを考え,その分野のプロフェッショナルにインタビューやアンケートを行うことでエッセンスを捉え,新規授業プログラム構築を行う研究である.もちろんこの2つのテーマには分けられず両方の要素を持つ研究を行う学生もいれば,1つの新規授業プログラムを構築するにあたり何人かの学生が係わることもある.しかしながら,学生の卒業研究としては,文献調査のみで終了させることはせず,学生1人が1つのテーマを持ち研究を行うことを研究室の方針としてきた.当初筆者は,薬学部の学生はウェット系の研究や臨床研究に興味を抱くことが多いのではないかと考えており,教育研究に興味を持つ学生がいるのか不安であった.しかし,毎年の研究室配属調査から,一定数の学生は教育研究に興味を抱いてくれることがわかり,配属した学生からは,「自分たちが受けた授業について調査するのは面白い」,「研究した結果が後輩が受ける授業に活かされるとやりがいがある」,「薬剤師として働く際に役に立ちそう」などの声を聴けている.何より,教員には考えつかないテーマを学生が持ってくることもあるため,学生視点の意見を教育に取り入れることの重要性も意識することができている.また,筆者の学生時代には教育研究は馴染みがなく,教員として研究を行うようになってから教育研究を始めたため,教育研究の内容や手法については学生と一緒に学んできた側面があり,研究を進めていく上で彼らの存在は大変貴重であると感じている.

3. 研究室配属から卒業研究発表までの流れ

本学では3年次後期に研究室配属調査があり,4年次前期から正式に研究室に配属する.当研究室における卒業研究活動のスケジュールをTable 1に示した.まず,4年次前期に,学生自身が興味のある研究テーマに沿った文献を調査し研究室の教員や学生の前で文献紹介を行う(Table 1, Fig. 1).テーマは配属希望調査の際に当研究室で行ってみたい研究として学生が書いたテーマであり,そのテーマに関連した研究は国内(時に国外も含む)でどのようなものがあるのか,実現可能なテーマであるのかを検討する目的で文献紹介を行ってもらう.この際,教員が該当論文を渡すのではなく学生自身で紹介する論文を探すこと,パワーポイントのスライドを使用して発表することを徹底しているため,ここで彼らは,論文の探し方,論文の読み方,スライドのまとめ方,発表の仕方を学ぶことになる.4年次後期は実務実習事前学習などで学生が忙しくなるためあまり負荷をかけることはしていないが,自身の研究内容が定まった学生は,研究計画を立て,アンケート内容やインタビュー内容を考える.さらに,量的手法を用いる研究であれば統計について勉強を始め,質的手法を用いる研究であれば質的手法を用いて研究されている論文や本を読みその手法を勉強する.教育研究分野に限定されないが,リサーチクエスチョンと研究計画は非常に丁寧に考える必要があるため,本格的に研究を始める前のこの段階は焦らず,なるべく時間をかけるようにしている.5年次にはおよそ5ヵ月間の薬局・病院実務実習があるが,そのほかの期間は卒業研究に時間を割き,4年次後期に引き続き様々なことを調べながら,本格的に自身の研究を進めていく.5年次の卒業研究期間が終わる1ヵ月前頃には,研究室の教員や学生に対して研究報告を行う.ちなみにTable 1には記載していないが,教員との研究ディスカッションについては必要に応じて何回でも行っている.6年次前期までに卒業研究の内容をまとめ,6年次の夏には卒業論文発表会での発表を行い,卒業論文を完成させて,卒業研究は終了となる.なお,卒業論文発表会の予行練習を研究室内で行うが,研究内容を熟知しウィークポイントまで把握している教員や他学生が容赦なく発表者に対して質問をするため,発表会当日より緊張することを学生から聞いている.また,薬学部の4年次,5年次,6年次のカリキュラムは密であり予定を合わせることは難しいが,研究室内で行う研究報告会などの発表会にはなるべく全学年の配属学生が参加するように声をかけている.当研究室では,皆教育研究をしているものの,研究内容は多種多様であるため,研究報告会ではほかの研究をしている学生にもわかり易く伝えるよう指導しており,専門用語はかならず自分の言葉で説明すること,スライドやポスターは伝わり易いものを作成するように心掛けてもらっている.また,学会発表に意欲的な学生もおり,日本薬学会年会や日本薬学教育学会大会に学生が演題筆頭者として発表することもできた.

Table 1. Schedule of Graduation Research Activities

SemesterResearch activities
4th year first semester・Literature survey
・Journal club
4th year second semester・Research planning
5th year・Research presentations
・Conference presentations (applicants)
6th year first semester・Writing a graduation thesis
・Rehearsal for the graduation thesis presentation
・Graduation thesis presentation
Fig. 1. The Journal Club

4. 卒業研究指導での反省点と指導方法変更による学生の変化

当初の研究指導では,筆者は以下のような失敗をしていた.

  • (1)研究に必要な予備資料の教員による過剰な準備
  • (2)学生のプロダクトに対する過剰な添削
  • (3)教員による綿密な研究計画・スケジュールの提示

6年制薬学部のカリキュラムは過密であることに配慮し,教員になった当初は,学生がより深みのある研究結果を出すためには教員の介入が必要不可欠であると考え,(1)に示したように,研究に必要な論文などの予備資料は事前に準備をしていた.さらに,(2)に挙げたように,文献紹介や研究報告会で使用するパワーポイントのスライドや,卒業論文,卒業論文発表会の要旨やポスターについても時間をかけて添削していた.また,(3)に挙げたように,研究計画はこちらから提示し,日々の研究活動についてのスケジュールまで細かく管理していた.しかし,事前準備としてこちらが論文を用意したことにより学生は論文を検索しなくなり,学生のプロダクトに対する添削過多により学生本人が捻出した言葉やアイディアが失われ,学生は十分な吟味をしないままプロダクトを教員に提出する傾向がみられるようになった.さらに,教員が細かくスケジュール管理をすることにより,学生の主体性を奪っていることに気づいた.学生の卒業研究ではなく筆者の研究活動になってしまっていたのだった.

このような反省点を踏まえて,筆者は以下のように卒業研究の指導方法を変更した.

  • (1)事前資料準備の削減と学生による資料検索への支援
  • (2)学生本人の言葉を残したプロダクトの添削
  • (3)学生から提示されたスケジュールへのサポート

例えば,学生の作業内容から必要になる論文が事前に推測できるが事前準備はせず,学生が自ら論文検索を行う支援をすることとした.プロダクトの添削では,すべて書き変えた方が作業効率がよいと考えられることがあるが,学生が記述した言葉や言い回しは残すように工夫した.こちらからスケジュールは提示せず,学生から相談してもらえるようにした.また,学生の様子から研究の進め方やデータの解釈の仕方に悩んでいるよう感じられることがあるが,学生からディスカッションの希望を出さない限りはなるべくこちらからは働きかけないようにした.このように,学生より先回りして研究を進めることはせず,学生と足並みを揃えて一緒に研究することを徹底した.ただし,“放置されている”,“教員とコミュニケーションがとりづらい”と学生に思われると研究室から足が遠ざかる危険性が考えられることから,普段から授業や薬学部のカリキュラムのことを含め様々な内容について会話をすることで,コミュニケーションをとれると学生に感じてもらえるような関係性を構築するよう工夫している.その結果,学生の主体性を失わず,筆者が研究を行うときの思考プロセスが学生に伝わったためか,自ら研究活動を進めようとする学生が増え,5年次後半や6年次になるとデータ解析を自分で進めたうえでディスカッションをする学生が増えた.Figure 2は筆者が何も指示していなかった際に,膨大なアンケートのデータをまとめるために,共通点や相違点を考察できるよう学生がグラフを並べていた様子であり,学生が主体的に研究活動を行った事例の一つではないかと考えている.さらに,4年次の文献紹介の際は,学生が探してきた論文や作成したスライドの内容に対するアドバイスは教員が行ってきていたが,6年生が4年生のスライドを添削するようになった.教員の指示ではなく学生から提案されたことであったため,学生は当研究室での研究活動を通して自らの力で研究を進める自信がつき,下級生の指導に携わろうと考えられたのではないかと示唆される.学年間の縦のつながりができることや,後輩に教えることで自らの中で曖昧であった事項が明確になるといったメリットがあるため,今後も上級生が下級生を指導するシステムは取り入れていきたいと考えている.実際に,4年生から「p値とは何か」と質問された6年生は,わかりやすく説明できるように勉強し直したことを報告してくれた.

Fig. 2. Students are Working on a Huge Amount of Data

このように学生主導で卒業研究を進めると,学生が慣れるまでは研究の進行速度が遅いが,学生の主体性が向上した結果,学年が上がるにつれて自身でできることが増え筆者の介入が少なくても研究が進行するようになった.博士課程の学生には及ばないが,一人である程度はスケジュールを組み立て,分析を進め,教員に相談するようになり,研究活動に対する自信もついたと考えられる.指導方法を変更した当初は卒業研究期間内に研究がまとまるのか不安であったが,最終的にはすべての学生が卒業論文としてまとめることができている.また,卒業生からは,卒業研究にしっかり取り組んだという達成感があったという報告を受けている.

近年の学生は,たくさんある情報から必要なものを抜き出し使うことについて長けているため,タイムパフォーマンスを気にする学生も多い.大抵の学生は研究記録を書くことを面倒だと感じ,データ解析においても最適解を最短で出すのがよいと考える傾向がある.そのため,研究記録の重要性を伝え,記録は丁寧に記すことと,データは一辺通りの見方だけでなく,様々な角度から見て試行錯誤することもかならず学生に伝えるようにしている.

5. まとめ

本稿では,当研究室の紹介並びに卒業研究指導についての私見を述べさせて頂いた.卒業研究指導で気をつけていることをまとめると以下のようになる.

  • ・学生主導で卒業研究を進める.
  • ・必要以上に介入しない.
  • ・普段から学生と会話する.
  • ・学生を信頼する.

過去の指導方法についての反省を活かして工夫した結果,学生が主体性を持って行動するようになり,学生の「科学的探究心」をも育むこともできるようになったのではないかと考えている.また,筆者は,教員として未熟ではあるものの,卒業研究を通して学生と一緒に成長してこられたと思っている.研究室内では普段から会話をするなどコミュニケーションをとることは重要であるが,何より学生を信頼し研究活動の主軸を任せることが,学生の主体性ある行動につながるように感じている.

薬学教育分野の研究を行う薬学部の研究室は少ないものの,薬学教育分野は,薬学教育の発展を目指す重要な研究分野の1つであると考えている.実は,当研究室に配属する学生は,学生自身が受けている教育についての関心が高く,“人の行動に価値ある変化を与えるスキルを身につけたい”といった志を持つ学生が多い.そのため,薬学教育分野の研究の面白さを認識しやすく,もともと自ら行動できる潜在能力を持つ学生が集まっている可能性がある.4年次から6年次までの間の3年間を学生が有意義に過ごせるよう,これからも卒業研究を通してサポートしていきたいと考えている.

謝辞

一緒に薬学教育分野の研究を行った昭和薬科大学薬学教育推進研究室の配属学生,並びに帝京大学薬学部薬学教育推進センター(旧薬学教育研究センター)の配属学生に感謝いたします.また,教育研究方針を示し研究室運営全体を見守ってくださる岸本成史教授,これまで研究室でお世話になった先生方に深く感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS42で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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