2025 Volume 145 Issue 5 Pages 379-386
Deficiency of adenosine deaminase 2 (DADA2) is an autosomal recessive genetic disorder caused by loss-of-function mutations in the gene encoding adenosine deaminase (ADA) 2. This enzyme catalyzes the deamination reaction of adenosine/2′-deoxyadenosine to inosine/2′-deoxyinosine. DADA2 exhibits a complex clinical presentation, with systemic vasculitis with stroke, bone marrow failure, and immunodeficiency as the major pathologies. Since its discovery in 2014, more than 400 cases have been reported, and the phenotype has expanded significantly. DADA2 generally presents in childhood, although diagnosis in adulthood has also been reported, indicating the need to raise awareness of this disease beyond pediatrics. ADA2 is believed to be relevant in the regulation of the human immune system. Currently, knowledge is accumulating on the association between macrophage polarization into an inflammatory phenotype and systemic vasculitis, upregulation of the type I/II interferon pathway, and neutrophil function. The biochemical characteristics of ADA2 that differ from those of its isozyme ADA1 are a subject of significant research. One of these characteristics, N-glycosylation, plays a vital role in controlling the formation of the functional three-dimensional structure of ADA2. Moreover, with the accumulation of knowledge regarding the dysregulation of innate and adaptive immunity in DADA2 and the biochemical properties of ADA2, effective treatments and diagnostic methods are being established. This review provides an overview of ADA2 properties and DADA2.
アデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase: ADA)は,アデノシン/デオキシアデノシンを脱アミノ化し,イノシン/デキシイノシンに変換する酵素であり,ヒトには主にADA1とADA2の2つのアイソザイムが存在する.1) ADA1とADA2は脱アミノ化酵素であるが,遺伝的欠損による表現型が大きく異なることから両酵素には本来の生理的役割に違いがあると考えられ,現在,注目されている.ADA1は広く組織全般に発現するが,特にT, Bリンパ球での発現が高く,リンパ球の機能調節に重要な役割を担っている.ADA1の遺伝的欠損ではデオキシアデノシンがリンパ球に蓄積し,重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency: SCID)の表現型を呈する.2) ADA-SCIDは,SCIDの中ではX連鎖性SCIDについで頻度の高い疾患である.一方,ADA2はADA-SCID患者の脾臓に残存するADA活性源として発見されたのが最初であり,それ以来,結核,ヒト免疫不全ウイルス感染,白血病など多くの疾患で血中ADA2活性の上昇が指摘されてきた.3–5) ADA2は単球,マクロファージ,樹状細胞など骨髄系細胞により産生され,発現組織は限られるが,特に血中ではADA2の活性が高く,血中の全ADA活性の大部分はADA2が担う.6–8) ADA2が脳梗塞や脳出血を合併する遺伝性の結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)の責任遺伝子であることが報告され,ADA2欠損症(deficiency of adenosine deaminase 2: DADA2)として知られるようになったのは2014年である.9,10) ADA2欠損症における炎症症状は,自律的な自然免疫系の活性化,中でも単球による過剰炎症反応が主たる原因であると推測されていることから,先天性免疫異常症(inborn errors of immunity: IEI)に属する自己炎症性疾患として分類される.自己炎症性疾患は,全身性の炎症を繰り返し,多くは発熱がみられ,関節・皮膚・腸・眼・骨など局所部位の炎症を伴うのが特徴の疾患であり,感染症や自己免疫に該当しないものを指す.11)近年多くの疾患関連遺伝子が同定され,新しい自己炎症性疾患が報告されている.12,13)現在,ADA2欠損症の症例は世界で400例以上,わが国では約10症例が確定診断され,病原性変異は100以上報告されている.14,15)本稿では,ADA2欠損症の概要とADA2の生化学的特徴を中心に,筆者の研究内容を交えて概説する.
ADA2欠損症は,ADA2遺伝子の機能喪失型変異により発症する常染色体劣性遺伝形式の自己炎症性疾患である.9,10)主な症状として周期熱,皮膚症状,神経学的症状,免疫学的・血液学的症状,消化管症状,泌尿器系症状,筋骨格系症状などが知られる.16)皮膚症状はADA2欠損症で最も頻度が高い所見であり,75%以上の患者で報告されている.網状皮斑,皮下結節のほか,皮膚潰瘍や肢端壊死に至る場合もある.約50%の患者にはなんらかの神経学的症状が認められ,特に,虚血性/出血性脳卒中は後遺症や予後に関連する.また,中・小型動脈の血管炎はADA2欠損症の主要な臨床症状である.血管炎によって内皮細胞が傷害され,最終的には狭窄や動脈瘤の形成,更には出血につながり,その影響が肝臓,腎臓,消化管,そのほかの組織に及ぶ場合がある.肝疾患は重要な特徴とされ,肝脾腫や門脈圧亢進症などが報告されている.さらに,多様な免疫学的・血液学的異常を血管炎症状に合併若しくは単独で呈する場合もある.免疫不全,リンパ増殖性疾患,赤芽球癆,骨髄不全,血球減少など多岐にわたり,異なる特徴が重複するという報告もある.同一の遺伝型を持つ患者間でも症状や重症度が多様であり,発症時期は通常小児期であるが乳幼児期から学童期までと広範であり,成人期まで無症状の場合もある.17–19)死亡率は8%で,死因は脳卒中や感染症の合併などである.16)
ADA2欠損症関連変異はADA2のコーディング領域全体にわたって存在する.その多くはミスセンス変異で,ADA2欠損症患者の大多数はミスセンス変異の複合ヘテロ接合性であるが,ナンセンス変異,スプライシング変異,挿入及び欠失も報告されている.16) ADA2欠損症の病原性変異と残存酵素活性及び臨床症状の相関性については一定の傾向がみられ,血管炎は残存活性がある部分的な機能喪失を伴う変異と関連し,赤芽球癆や骨髄不全など重篤な血液症状は完全な機能喪失を伴う変異と関連することが示唆されている.20) ADA2欠損症の有病率は,病原性遺伝子変異体の保因者頻度に基づくと1 : 222000と推定されている.21)
難病情報センターの遺伝性自己炎症性疾患(指定難病325)においてADA2欠損症の診断基準として以下の項目が示されている:A.症状 ①繰り返す発熱 ②皮膚症状 ③麻痺や痺れなどの神経症状,B.検査所見 ①画像検査:虚血性(時に出血性)梗塞や動脈瘤の存在 ②組織検査:血管炎の存在 ③ADA2活性検査:血漿中ADA2酵素活性の明らかな低下,C.遺伝学的検査 CECR1(ADA2)遺伝子に機能喪失型変異をホモ接合又は複合型ヘテロ接合で認める.以上の項目A–Cより総合的に判断される.血漿/血清中のADA2酵素活性が低値あるいは完全に消失することは本疾患の大きな特徴であるため,検査においては血漿/血清中の活性測定が不可欠である.遺伝子検査は強力な診断ツールであるが,病原性変異は遺伝子検査では検出されないことがあり,血漿/血清中のADA2活性の欠損から診断に至ることもある.22,23)現在,ADA2活性の測定法は主としてアデノシンとイノシンを定量するクロマトグラフィー法に基づくものと,分光光度法に基づくものがある.10,24–29)これらの方法はいずれも血漿/血清を試料とした解析法であるが,筆者はADA2欠損症患者と健常者を判別するためのより簡便な手法として乾燥ろ紙血(dried blood spots: DBS)を利用したADA2活性測定法を開発した.30) DBSは,サンプリング,輸送,保存において利便性の高い臨床検体であり,先天性疾患のスクリーニングなどに広く利用されている.ADA2欠損症においてもDBSは有用であり,各種試薬類とマイクロプレートリーダーを用いた比色分析により患者と健常者を明確に区別することが可能である(Fig. 1).30)また,DBS中のADA2活性は4°Cあるいは−30°Cの保存条件で少なくとも3ヵ月間安定であり,DBSによる早期診断実用化への基礎的知見が得られた.
ADA2 activity in dried blood spots (DBS) is measured through a series of steps, viz., extraction of components from DBS, crude purification, and enzyme reaction. In the crude purification step, active ADA2 can be efficiently fractionated by affinity purification of ADA2 and heparin. The enzyme reaction step is based on the method described by Iwaki-Egawa et al.,29) in which the substrate adenosine is converted stepwise by xanthine oxidase (XOD) and purine nucleoside phosphorylase (PNP). Finally, the amount of nitro blue tetrazolium chloride (NBT) in the reaction solution converted into formazan is measured using a microplate reader. Ado: Adenosine, Ino: inosine, Hyp: hypoxanthine.
ADAアイソザイムの遺伝的欠損にみられる臨床的特徴の差異を反映するように,ADA1とADA2は分子構造や生化学的性質等が異なる(Table 1).16) ADA1が41-kDaの単量体で主に細胞内に存在するのとは対照的に,ADA2は59-kDaでホモ二量体を形成し,主に細胞外分泌タンパク質として機能する.ADA2は,二量体ドメイン,受容体への結合に関与するputative receptor binding(PRB)ドメインに加え,糖鎖修飾部位,ジスルフィド結合,シグナルペプチド等,細胞外環境に適した構造を持つ.特にADA2のN末端側はADA1との共通性が低い領域である.また,ADA1とADA2は基質結合部位の構造が異なり,アデノシンとデオキシアデノシンに対する親和性は大きく異なる.31) ADA2はアデノシンに対するKm値が2 mMであり,ADA1に比べ100倍ほど親和性が低い.また,至適pHは,ADA1がpH 7.5であるのに対し,ADA2はpH 6.9と酸性である.これらの性質から,通常ADA2がADAアイソザイムとして機能する環境は限定的であると推測されている.実際,前述のADA活性測定法において,末梢血中のADA2活性を定量するためには高濃度のアデノシンを必要とする.また,ADA1とADA2は阻害剤への親和性が異なり,特にADA1を特異的に阻害するerythro-9-(2-hydroxy-3-nonyl)adenine(EHNA)は,両アイソザイムの酵素活性を生化学的に区別する際に有用である.32)
ADA1 | ADA2 | |
---|---|---|
Gene | ADA | ADA2 (CECR1) |
Chromosome | 20q13.12 | 22q11.1 |
Expression | Ubiquitously, lymphocytes, erythrocytes | Myeloid cells, lymphocytes, bone marrow, spleen, thymus, lung |
Molecular weight | 41-kDa | 59-kDa |
Protein structure | Monomer | Homodimer |
Optimum pH | 7.5 | 6.9 |
Michaelis constant for adenosine (Km) | 46–70 µM | 2 mM |
Binding | CD26/DPP IV | Heparin, glycosaminoglycan |
N-Glycosylation | No | Yes (p.127, p.174, p.185, p.378) |
Cellular localization | Intracellular | Secreted |
Specific inhibitor | EHNA | — |
Clinical phenotype when deficient | ADA-SCID | Deficiency of ADA2 |
DPP IV: Dipeptidyl peptidase IV, EHNA: erythro-9-(2-hydroxy-3-nonyl) adenine. Adapted and partially modified from Meyts I., et al., J. Clin. Immunol., 38, 569–578 (2018).16)
ADA2は一部の昆虫種,魚類,両生類などで確認されている成長因子(adenosine deaminase-related growth factors: ADGF)と相同性があり,これらのADGFはADA活性を示す.ADGFのタンパク質構造において,カルボキシ末端側の領域にはADA活性部位が存在し,アデノシンの代謝に関与する一方で,アミノ末端側の領域には細胞の増殖や分化を促す成長因子としての働きがあると考えられている.33–35) ADGFの細胞や組織における役割は,いくつかの無脊椎動物及び脊椎動物のモデルにおいて報告されている.例えば,DrosophilaではADGFの欠失は致死的であるが,この表現型はマクロファージ様血球細胞へのADGFの発現によりレスキューされるため,無脊椎動物の自然免疫系においてADGFは不可欠であることが示唆されている.33,36)また,XenopusではADGFのノックアウトにより胚形成の異常が生じることから,両生類の胚発生における重要性が指摘されている.37)ヒトのADA2はADGFとのタンパク質構造上の類似性に加え,成長因子としての働きを示す共通性がある.このことは免疫細胞の分化・増殖において確認されており,ヒトADA2はT細胞依存的に単球のマクロファージへの分化を誘導し,マクロファージの増殖を促進する.37)このようなADA2による免疫細胞機能の調節に関して,KaljasらはヒトADAアイソザイムの免疫細胞サブセットへの結合を調べ,ADA2がADA1の受容体であるCD26/dipeptidyl peptidase IV(DPP IV)を発現しない単球,好中球,B細胞,NK細胞,制御性T細胞の表面に結合することを示した.38)この結合はプロテオグリカンとアデノシン受容体を介した結合であると推測されているが,特異的結合分子は明らかにされていない.
ADA2のアミノ酸配列中にはN型糖鎖結合コンセンサス配列(NXS/T)が4ヵ所あり,これらのすべて(N127, N174, N185, N378)にN型糖鎖修飾が認められる[Fig. 2(A)].16,39,40) ADA2のN型糖鎖結合コンセンサス配列は,部位により多少異なるが種間で保存性が高く,ADA2の機能発現に重要であることが窺える.コンセンサス配列内のミスセンス変異c.385A>C; p. T129PはADA2欠損症の病原性変異のひとつであり,患者の血中ADA2酵素活性の消失と一致し,T129P変異体ではADA2の細胞外への分泌低下及び酵素活性低下が生じる.40)筆者は,N型糖鎖修飾がADA2の機能的立体構造形成と分泌過程に係わることを見い出したので以下に紹介する.40) ADA2の糖鎖結合部位に位置するアスパラギン残基をグルタミン残基へ置換した変異体を細胞に発現させた場合,ADA2は二量体を形成しにくくなり,凝集する傾向がみられた.また,小胞体での糖鎖付加を阻害するツニカマイシンを細胞に添加した場合にも,同様にADA2の二量体が減少し,凝集体が増加した.いずれの条件下でも,ADA2は細胞内における凝集量増加に伴い,その酵素活性低下と分泌量減少がみられた.したがって,糖鎖構造が異常なADA2は酵素活性を失った凝集体として小胞体に蓄積し,ゴルジ体への輸送が滞ることが推測される.一方,小胞体やゴルジ体における糖鎖加工過程の関連酵素の働きを各酵素に対する阻害剤により阻害した場合,酵素活性と分泌を始めとするADA2の機能面への影響はわずかである.例えば,N型糖鎖合成過程で糖鎖末端のグルコースを遊離させる酵素であるα-グルコシダーゼをカスタノスペルミンにより阻害した場合,ADA2の分泌量低下と凝集量増加が観察されたが,ツニカマイシン添加時に比べて影響は明らかに少なかった.また,N型糖鎖合成過程でマンノースのトリミングを促進させるα-マンノシダーゼをデオキシマンノジリマイシンやスワインソニンにより阻害した場合,ADA2の分泌や活性に影響はなかった.したがって,小胞体における最初のオリゴ糖の付加反応の段階がADA2の機能的立体構造形成,活性発現,分泌過程に特に重要であることが示唆される[Fig. 2(B)].40) ADA2の4ヵ所の糖鎖修飾部位はいずれも活性部位の付近ではなく二量体化ドメインの近傍に位置していることから,N型糖鎖自体がADA2の触媒活性に直接関与しているとは考え難い.このことを反映するように,一度細胞外に分泌されたADA2は脱グリコシル化しても酵素活性がほぼ変化しない.なお,4ヵ所のN型糖鎖結合部位のアスパラギン残基をグルタミン残基にそれぞれ置換した4種類のADA2変異体の間には,分泌量をはじめ,残存酵素活性,二量体形成量,凝集量に差が認められることから,各糖鎖修飾部位には機能的差異があると予想される.特にN127, N174への糖鎖修飾の阻害ではADA2の機能低下が顕著であるのとは対照的に,N185への糖鎖修飾阻害では影響が少ない.近年,ADA2欠損症患者由来のマクロファージでは,健常対照のマクロファージと比べて,ADA2の糖鎖構造が異なることが示されつつある.41)正常及び患者由来のプライマリー細胞内におけるADA2の挙動と糖鎖修飾の関係については更なる研究が必要といえる.
(A) The domain structure of ADA2. (B) Model of N-glycosylation and intracellular transport in ADA2-producing cells. During the biosynthesis of ADA2, initial glycosylation occurs in the endoplasmic reticulum (ER), followed by glycan editing in the ER and Golgi apparatus, and finally mature glycosylated form is secreted out of cells. When the normal glycosylation of the initial steps is disrupted, active dimeric ADA2 is not formed, resulting in aggregation and a concomitant decrease in secretion. TM: Tunicamycine, CAS: castanospermine, NQ mutation, Asn to Gln mutation at predicted N-glycosylation sites.
ADA2欠損症の血管炎の機序として,単球の炎症抑制型マクロファージの分化障害,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)形成,そして細胞質二重鎖(double-strand: ds)RNAセンサーの活性化及びI型インターフェロン(type I interferon: IFN)産生亢進などいくつかの報告がある.ADA2欠損症患者由来の単球では,炎症抑制型のM2マクロファージに比して炎症促進型のM1マクロファージへの極性化が生じ,マクロファージ由来の腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)-αやインターロイキン(interleukin: IL)-6を始めとする炎症性サイトカインが過剰産生される.10) ADA2欠損症の炎症病態においてTNF-αは重要なサイトカインであり,患者の末梢血や生検組織ではTNF-αが検出されるが,10,25,42)その主要な産生源はM1マクロファージである可能性が推測される.血管炎の薬物治療において抗TNF-α製剤は有効であり,脳卒中のリスクを効果的に低減する.43,44)また,好中球はNETsを放出することによって血管炎を促進することが証明されているが,45) ADA2欠損症患者では炎症性好中球サブセットである低比重顆粒球が増加し,末梢血及び組織生検切片でNETsが認められることが報告されている.46)さらに,骨髄系細胞だけでなく,血管炎の主体である内皮細胞内の自然免疫系の関与も示唆されている.Dhanwaniらは,ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell: HUVEC)及びほかの内皮細胞株で産生されるADA2はIFN-β産生のネガティブレギュレーターとして機能することを報告した.内皮細胞のADA2をsmall interfering(si)RNAによりノックダウンするとADA2とADA1の間の機能的バランスが崩れ,その結果デオキシアデノシン/デオキシイノシンの代謝異常に伴うretinoic acid inducible gene-I(RIG-I)とmelanoma differentiation-associated gene 5(MDA5)による細胞質dsRNA感知経路の活性化及びIFN-β産生が起きることが示された.47) ADA2欠損症の多様で複雑な臨床症状を考慮すると,このように複数の炎症誘導メカニズムが混在する可能性が推測されるものの,いずれもADA2欠損症の全体像を明確に説明するには至っていない.
ADA2欠損症患者ではIFN関連遺伝子の発現亢進が認められる.15,46,48,49)最初にADA2欠損症とIFNの関連について報告したBelotらの研究では,患者の末梢血におけるI型IFN応答遺伝子(interferon-stimulated gene: ISG)の発現上昇が明らかにされた.48)また,I型IFNとII型IFNシグナルの共存も報告されている.ADA2欠損症の日本人のコホート研究では,マルチオミックス解析によりI型IFN経路の活性化に加えII型IFN(IFN-γ)経路の恒常的活性化と転写因子signal transducer and activator of transcription 1(STAT1)の過剰活性化が認められることが明らかにされた.15)代表的なIFN異常症と比較してADA2欠損症におけるII型IFNの亢進は特徴的であり,病態生理において重要な役割を持つ可能性を示唆している.しかし,IFN経路の活性化がすべてのADA2欠損症患者で共通しているか現時点では明らかではなく,ADA2欠損症におけるIFNの意義の解明については今後の課題といえる.
ADA2欠損症の初報告から約10年が経過し,その間に多彩な臨床症状や病態生理が明らかになった.ADA2欠損症の複雑な臨床像に反映されるようにADA2は未解明の多面的な機能を持つ分子である可能性があり,ADA2の生体内における本来の役割は,未知の結合分子や修飾の解明も含めて興味深い.TNF-αは血管炎における主要な炎症メディエーターであり,重要な治療ターゲットである.しかし,TNF-α阻害薬はADA2欠損症の血管炎制御に効果的であるが免疫不全や血液学的症状に対しては奏功しないことや,生物学的製剤の効果が減弱する二次無効の発現による薬剤切り替えの必要性も課題である.現在,治療法の選択肢の拡充として組換えADA2による酵素補充療法や遺伝子治療が試みられており,50,51)今後の実用化に期待したい.
本研究を遂行するにあたり貴重な助言を頂いた江川祥子先生を始め,研究室の方々に深く感謝いたします.本研究の一部はJSPS科研費・若手研究(19K16355),基盤研究(C)(22K06614)及びAMEDの課題番号JP19ek0109200の支援により実施されたものであり,併せて御礼申し上げます.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,2023年度日本薬学会北海道支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.