YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Understanding New Pathologies and Novel Treatment Strategies Unraveled from the Microbiome
Yoshiaki Kawamura Takashi Sugita
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2025 Volume 145 Issue 8 Pages 657-658

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日本薬学会生物系薬学部会の中には,3つの主催学術集会がある.微生物シンポジウム(1971年),Pharmaco-Hematologyシンポジウム(1993年~),次世代を担う若手のためのファーマバイオフォーラム(2002年~)である.この中から今回初めて,生物系薬学部会の名称を冠したシンポジウム「生物系薬学部会・微生物シンポジウム」を開催することとなった.本冠付きシンポジウムは,今後継続して実施していくことにより微生物学分野の研究の活性化を目指している.また日本薬学会会員に向けては,微生物学関係の研究を知って頂くことのみならず,多分野の先生方との共同研究の足掛かりを提供する場となればと願っている.

第1回の冠付きシンポジウムとして,近年発展著しいマイクロバイオーム研究をメインテーマとして,当該分野で御活躍の研究者にシンポジストとして発表して頂いた.

まずは最も基礎的な分野であるが,マイクロバイオーム研究の根幹をなす細菌分類学について「マイクロバイオーム関連細菌を中心とした最新の細菌分類情報」と題して愛知学院大学の河村好章から最新の話題を提供した.

講演の中では,上位分類階級である「門phylum」が国際原核生物命名規約に含まれる背景が紹介され,更にその運用方法についても紹介があった.それらの結果,よく知られているFirmicutesやProteobacteriaという名称が使われなくなったことや,ゲノムデータを使った方法が一般化してきたので,「綱Class」や「目Order」といった分類上位階級の分類群の見直しがされていることが紹介された.さらに実際にゲノムデータなどを使ってin silicoでマイクロバイオータ解析を行うときの注意点なども紹介された.

ストレス性の下痢症に関連するマイクロバイオームの最新研究について,「腸内代謝物によるストレス性下痢症誘導機構の解明」という演題で,慶應義塾大学薬学部の長谷耕二教授に講演頂いた.

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)は,マイクロバイオーム研究にて,その発症メカニズム,治療法などの解明が最も期待される疾患である.IBSは,下部消化管の機能異常により下痢や腹痛などの症状を引き起こす機能性消化管疾患であり,その発症メカニズムは不明だが,精神ストレス,食物アレルギー,難消化性発酵性糖類などが報告されている.また特定の腸内細菌がIBSと関与することが知られており,その改善にプロバイオティクスや糞便移植法が有効との報告を紹介頂いた.さらに,ストレス性下痢症状に対して,プロピオン酸濃度の上昇が下痢症状悪化作用を示すこと,ヒポキサンチンが関与していること,酪酸や酢酸などの腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸など多様な代謝産物がIBSと関与することについて詳細に紹介頂いた.

近年のマイクロバイオーム研究で,新たに明らかとなってきた脳腸相関に関する最新研究について,「注意欠如多動症モデルラットにおいて発育期のうま味経口摂取は迷走神経を介して情動形成に関与する」という演題で名古屋市立大学医学研究科の飛田秀樹教授に講演頂いた.

発育期に注意欠如/多動性を示す自然発症型高血圧ラットを使い,発育期の生後25日齢から60日齢まで1匹で飼育し,うま味物質のグルタミン酸ナトリウム水溶液を経口から飲水させ,成熟後の60日齢以降に情動行動を評価した一連の詳細な実験が紹介された.その結果,発育期の情動形成において,うま味物質としてのグルタミン酸ナトリウム経口摂取は,成熟後の攻撃性が減少することや,上部消化管に存在するうま味受容体からのシグナルが迷走神経を介して延髄孤束核中間部に連絡する「腸脳連関」が関係することを明確に示した.また注意欠如/多動症の患者において,腸内細菌の変動と脳内ドパミン系の異常との関連,炎症性サイトカインの膜透過性亢進との関連などの情報についても紹介頂くなど,最新の話題を提供頂いた.

ファージを使った全く新しいコンセプトの治療戦略について,「ファージによる抗菌治療革命」という演題で,国立感染症研究所治療薬・ワクチン研究開発センターの氣駕恒太朗室長に最新研究成果を講演頂いた.

抗菌薬耐性菌の出現は,21世紀における医学と公衆衛生の最も深刻な課題の1つとして浮上し,その脅威はますます拡大している.腸内細菌叢においても抗菌薬は,標的とする細菌以外の健康な細菌叢にダメージを与えるなどの問題もある.ファージは菌種(菌株)特異性が高く,標的外の細菌へのダメージがないメリットがある.さらに標的細菌に感染したファージは,溶菌化して細菌を死滅させるか,溶原化して標的細菌とともに増殖するが外来刺激により溶菌化して標的細菌を死滅させることが知られており,有望な治療戦略となり得ることが紹介された.続けて,個別化ファージ療法,固定化ファージ療法,そして最新の遺伝子組み換えファージ(尾繊維改変ファージ,tRNA搭載ファージ,防御システム攻略ファージ)などについて研究データも含めて詳細に紹介頂いた.現状,実用化に向けた課題があることも解説されたが,非常に魅力的な最新の話題を提供頂いた.

マイクロバイオーム解析では,腸内環境に関連する研究が多く報告されているが,皮膚においても独自の細菌叢が存在し皮膚疾患との関連が明らかなりつつある.「皮膚マイクロバイオームと皮膚炎:異なる2つの皮膚炎,アトピー性皮膚炎と男性型別脱毛症を中心に」という演題で,明治薬科大学の杉田 隆が講演した.

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis: AD)の患者皮膚は,ディスバイオーシス状態であり,増悪微生物(黄色ブドウ球菌や真菌・マラセチア)が優位となっていることが紹介された.このデータを基に,AD治療戦略は「ディスバイオーシスの改善」であることが紹介された.もう1つの疾患である男性型脱毛症(androgenetic alopecia: AGA)は毛髪の成長期が短くなり休止期の毛包が増加することで発症するが,頭皮の皮脂中におけるパルミチン酸量が増加するため,それを栄養源とするマラセチアの定着量が増加し,ディスバイオーシス状態となるためであることが報告された.いずれの疾患もマラセチアが関与し,更にディスバイオーシスが関与している,という非常に興味深い研究報告がなされた.特に真菌と細菌の相互関係などは,今後のマイクバイオーム解析にあたって注意深く解析すべき示唆に富む報告がなされた.

以上,本誌上シンポジウムでは各々の領域で先鋭的な研究に取り組んでいる専門家をお招きし,ベーシックな細菌分類学の紹介に始まり,マイクロバイオーム解析から紐解かれた病態への関与についての最新の知見を幅広く議論し,更に新たな治療戦略として宿主特異性の高いファージを用いた治療法についても最先端の研究を探求することができたと考えている.

本誌上シンポジウムが日本薬学会会員の先生方に対してヒトのマイクロバイオームの健康と疾患についての最新の理解を深め,次世代の臨床応用を考究することにつながることを期待する.

Notes

日本薬学会第144年会シンポジウムS37序文

 
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