山口医学
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症例報告
虫垂炎保存的加療後に手術加療した虫垂goblet cell adenocarcinomaの1例
小佐々 貴博的場 勝弘中津 宏基北澤 荘平
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2022 年 71 巻 1 号 p. 29-35

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抄録

 症例は52歳男性.来院3日前からの右下腹部痛を主訴に当科を受診,造影CT検査で膿瘍形成を伴う虫垂腫大を認め,腹腔内膿瘍を伴う複雑性虫垂炎と診断した.保存的加療を行った後に待機的に虫垂切除を施行する方針とし,抗菌薬治療を開始した.治療開始後の経過は良好で,第19病日に自宅退院となった.発症6ヵ月後に待機的に腹腔鏡下虫垂切除術を施行,合併症なく経過し術後7日目に自宅退院となった.切除標本は肉眼的に軽度の粘膜浮腫を認めるのみであったが,病理組織学検査で虫垂goblet cell adenocarcinoma(以下,虫垂GCA)の診断となった.深達度T4a,リンパ管侵襲陽性でありリンパ節転移の可能性があったため,初回手術から1ヵ月後に回盲部切除(D3)を施行した.合併症なく経過し術後20日目に自宅退院となった.術後病理組織学的検査結果はpT4aN0M0 pStageⅡであった.術後18ヵ月経過した現在,再発は認めていない.本症例は複雑性虫垂炎保存的加療後の虫垂切除術後標本から偶発的に発見された虫垂GCAで,根治的に回盲部切除(D3)を施行し得た1例であった.昨今,急性虫垂炎は保存的加療が選択されることもあり,待機的に根治切除が施行されない場合もある.複雑性虫垂炎においては有意に虫垂腫瘍の合併が多いという報告もあり,虫垂GCAにおいてはリンパ節転移を伴う可能性を考え,大腸癌に準じた追加切除が必要となる.実臨床において虫垂炎保存的加療後すべてに待機的虫垂切除を行うことは難しいが,複雑性虫垂炎保存的加療後には,年齢,ADL,社会的背景を考慮した上で,虫垂GCAを含む虫垂腫瘍を合併している可能性を考慮し,待機的虫垂切除術施行を検討する必要があると考えられた.

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© 2022 山口大学医学会
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