山口医学
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ミニ・レビュー-中村賞受賞者-
再生療法での普及を目指した乾燥保存型積層線維芽細胞シートの開発
松野 祐太朗
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2025 年 74 巻 1 号 p. 3-9

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抄録

 細胞シート移植治療の普及には,同種(他家)細胞を用いてオフ・ザ・シェルフ(既製品)として量産化することで製造コストを抑えるとともに,簡便に使用できる細胞シート保存方法の開発が不可欠である.後者の保存方法に関して,細胞の生存率は治療効果を左右するため,その保存には高い細胞生存率が期待できる凍結保存法が検討されてきた.しかし,凍結・解凍時の細胞障害や凍結時に特殊な装置を必要とし,保管や輸送など含めコストや設備面に課題が残る.我々は細胞シートの新たな保存法として乾燥保存に着目し,風乾させた積層線維芽細胞シート(Dry sheet)を開発した.マウスでの基礎検討から,Dry sheetは細胞膜が損傷した死細胞であるが,細胞内に貯蔵する成長因子の放出という新たな作用機序を有し,他家細胞で作製したDry sheetは糖尿病マウス全層皮膚欠損モデルの血管新生と創傷治癒を促進することが明らかになった.Dry sheetから放出される成長因子は生理活性を有し,主にFibroblast growth factor‑2(FGF‑2/basic FGF)の作用であることがFGF‑2中和抗体を用いた阻害実験から示された.また,Dry sheetの成長因子は冷蔵保存で少なくとも1ヵ月の保存安定性を認めた.Dry sheetのヒトへの臨床応用を見据え,各種ヒト細胞での細胞内FGF‑2含有量を検討したところ,間葉系幹細胞や歯髄幹細胞,線維芽細胞の間葉系細胞に多く含まれていた.これらの細胞で作製したDry sheetの各種成長因子の放出量や生物活性は,線維芽細胞のDry sheetが最も優れた成績を示した.FGF‑2含有量が高いことに加え,細胞増殖が速く,取り扱いが容易で入手しやすく,培養コストが低いなどの点を考慮すると,ヒト線維芽細胞はDry sheetの理想的な細胞源であると考えられた.Dry sheetは操作性と保存性の点で従来の細胞シートよりも優れ,難治性皮膚潰瘍の治療や外科手術時の組織の補強材としての応用が期待される.

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