抄録
「爾も、また」は、『旅愁』で描かれた東西文化の相剋と日本人の異文化体験に内在する問題を引き継ぎつつ、固有の観点から『旅愁』の批評として機能する小説である。「爾も、また」で描かれた異文化の理解・受容・融合の不可能性を基盤とした厳格な異文化認識は、『旅愁』で描かれた包摂概念である「古神道」の論理の限界を訴え、『旅愁』が抱え込んだ東西文化の相剋に関わる葛藤を東西文化の相剋を超克することの絶対的な不可能性の認識にまで徹底化したものである。この点に「爾も、また」が『旅愁』に対して持つ批評性がある。そして、この批評性は、『旅愁』の日本主義・日本回帰の不可能性を指摘する概括的な批評言説を再考する必要性を訴える。