2011 年 20 巻 2 号 p. 169-176
マーチソン隕石の衝撃実験と熱分解実験を行い,脱ガスに伴う水素と炭素の存在度および同位体比の挙動を調べた.衝撃を被った試料の水素同位体比は,脱水素とともに出発試料の+10.6‰から+59.1‰まで上昇し,その後,-87.6‰まで低下した.この水素同位体の挙動を説明するには,異なる水素同位体比を持つ,複数の水素供給源からの脱水素を考慮すれば説明可能である.さらに,試料の炭素同位体比は脱炭素に伴って-5.2‰から-17.7‰へと単調に低下し,この挙動も異なる同位体比を示す炭素供給源からの脱炭素で説明できる.脱ガス率に対する試料の同位体比は,1回衝突実験と多重衝突実験のどちらも同様な変化を示し,衝撃による同位体比変化は脱ガス率のみに依存することが示唆された.また,衝撃実験と熱分解実験では脱水素に対する水素同位体比変化の程度が大きく異なり,これは衝撃と熱分解の反応機構の違いに起因している可能性がある.