海洋の人為汚染と関連したベントス生態の研究の中で、世界的に局地的な有機汚染と関連した汚染指標種として注目されている動物のひとつに、イトゴカイ科の小多毛類Capitella capitataがある。わが国では北森によって20年ほど前から汚染との関係が指摘されて来たが、汚染指標としてこの種が有効であるという提唱以上にその生態についての掘り下げはなされていない。近年より広域の海洋汚染に対してはCapitellaは指標として役立たずむしろヨツバネスピオPrionospio pinnataの方が指標として適切であることが強調され、このところわが国におけるCapitellaへの関心は低い。本誌前号に寄せられたエッセイの中で山本(1977)は、ごく普通な種の生態も明らかでないわが国の現状にふれ、田子の浦のCapitellaに関する観察の一端を書き記している。一方本種に関する近年の欧米における研究の進展はめざましく、Capitella capifateという1種の生態、生活史の研究を通じて、汚染指標性の有効か否かの論議にとどまらず、汚染指標性の生物学的意味、環境の異質性、時間的変動と生物側のそれに対する適応、異なる生活史戦略を持つ諸種が群集内に共存する意義、さらにむつかしい問題として同所的に存在する同胞種sibling species complexにおけるいちじるしい生活史の変異など、一般生態学の基本的課題としても注目すべき結果が明らかになって来た。詳細については文末の文献リストにより各原著に当っていただくこととし、その概略を紹介したい。
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