コンテンツツーリズム学会論文集
Online ISSN : 2435-2705
Print ISSN : 2435-2241
2 巻
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  • 安田 亘宏
    2015 年2 巻 p. 1
    発行日: 2015年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    巻頭言 「ブームで終わらせないコンテンツツーリズム研究」 安田亘宏 コンテンツツーリズム学会副会長・西武文理大学サービス経営学部教授 本学会は2011年に従来の学術目的の学会とは一線を画し、研究、調査、考察はもとより事業化も視野に入れて議論する場、情報交換の場を目指し発足し、5年目を迎える。まだまだ学術的な実績も新たな地域ツーリズムの創出、地域の文化創造と言う想いも十分に達成していないが、会員は100名を超えた。研究者、大学院生、大学生だけではなく、自治体やコンテンツ産業、旅行業、宿泊業、メディア等で実践に係わる方々、様々なコンテンツを愛好する人など予想通り幅広い会員を得られたことが今最大の成果だと感じている。 『学会論文集』もVol.2を発刊することになった。その間、研究発表大会やフィールドワークも実践し、学会メンバーによる『コンテンツツーリズム入門』も上梓した。着実に議論の輪が広がり、多様な学問領域、実践の場からの研究が進み始めてきたように思っている。 コンテンツツーリズムとは、小説・映画・テレビドラマ・マンガ・アニメ・ゲーム・音楽・絵画などの作品に興味を抱いて、その作品に登場する舞台、作者ゆかりの地域を訪れる観光現象のことで、コンテンツを通じて醸成された地域固有の「物語性」を観光資源として利活用する観光のことである。 本学会の研究発表の中でも「物語性」を創り出すコンテンツは前述のものだけではなく、各地で活躍するアイドルやキャラクター、歴史上の人物・事件、妖怪までもが研究対象となり、その広がりが実に興味深い。もう一度、コンテンツツーリズムの定義を議論する時期が来ているのかもしれない。 コンテンツツーリズムはツーリズムである以上、人々が自らの意思で楽しむ観光であり、多くの旅行者の体験を促進すること、そしてその経済的効果や社会的効果、文化的効果を地域が享受し地域が活性化することが研究の原点にある。また、地域の文化創造、コンテンツ産業創出の視点も不可欠な要素である。アニメやマンガの「聖地巡礼」が世間から注目される一方、一過性のブームで 終焉を迎えてしまった地域も決して少なくない。コンテンツツーリズムはサスティナブルツーリズム(持続可能な観光)の一角に位置しなくては意味がない。 コンテンツツーリズム研究もブームで終わらせてはならない。加速するインバウンドの中での日本固有のコンテンツ、海外での同様な観光現象、そもそもコンテンツには国境はない。そんな視座も必要である。多様な人々による様々な領域からのユニークな研究の成果を期待したい。
  • 消費者定量調査からの分析
    中村 忠司
    2015 年2 巻 p. 2-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    一般的に旅行は、メディアの影響を大きく受ける。なぜなら、行ったことのない場所に対する知識は旅行者にはないため、伝える側のメディアとの間に大きな情報格差が生まれるためである。特にテレビに代表される映像メディアは、訪れる場所の選択と評価の基礎知識さえ消費者に与えてしまう。 受入地域の側では、特に際立った観光資源のない地域においても、アニメで取り上げられたために大勢の若者が集まるアニメ聖地巡礼の事例や、毎年放送される NHK大河ドラマや朝の連続テレビ小説 の舞台地への旅行者が放送年に増加することから、積極的に番組の誘致に乗り出す自治体も現れている。しかしながら、放送翌年に一気に観光客数が減少する例もあり、一過性の観光誘致のマイナス面を指摘する声も出ている。地域にとっては「地域のファン」になって何度も訪れてもらい、地域との関係性を持続してもらうことが重要である。 本研究の目的は、コンテンツが誘発する旅行者行動がどのようなものであるかを明らかにすることである。研究手法は、一般消費者を対象にしたインターネットによる定量調査を採用した。 調査の結果、①コンテンツツーリズムには、作品と対象地域の間でのループ型の旅行者行動があること、②「能動型確認行動」「受動型確認行動」「場所型確認行動」の 3種類のタイプの観光行動があることがわかった。 得られた結果から地域に対し、「利用者のニーズに合わせた受入体制の整備」と「旅行者の観光行動タイプに合わせた PR の展開」についての提言を行った。
  • わが国における体感型歴史観光の現状と国際比較
    小松田 誠一
    2015 年2 巻 p. 13-23
    発行日: 2015年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    わが国では一部のまつりにおいて戦国時代の合戦を再現した「模擬合戦」が実施されている。それらの模擬合戦は祭礼の一部、または観光振興として実施されているが、国際的にはローマ時代からの伝統がある戦争再現( リエナクトメント )と同一カテゴリー上に位置づけられるものである。もっとも、国内でも歴史に関わる参加交流型のイベントは稀な存在であることから、模擬 合戦に参加した者の満足度は極めて高い。その中でも歴女と呼ばれる女性らの躍進は著しいものがあるが、彼女たちは合戦を体験型の観光のひとつとして捉えており、武将のキャラクター性などにはあまり関心がないことが判明した。 一方で、主催者側は合戦コンテンツを有効に活用しているとは言えず、観光施策や地域振興としての広がりには欠ける。また資金やノウハウなどが必要なため、実際に実施できている地域は少数に留まった。ただし、歴史ブランド力に劣る地域においても運営や募集、広報の工夫により、人気を集められる模擬合戦を開催できる可能性が高いことが判明した。現状として、実際の戦場ではなくても評判をよぶ模擬合戦を実施できていることは、観光資源に乏しい地域の光明となる。 さらに戦争再現の先進国であるアメリカの南北戦争を再現したイベントと比較した結果、強烈な「異日常」体験としては共通するものの、その規模や目的、参加者の意識は大きく異なることが判明した。特にわが国はアメリカのような「生きた歴史」を体験型コンテンツとして教えることができる人材に欠如している点で違いが見られた。
  • 毛利 康秀
    2015 年2 巻 p. 24-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    本稿は、コンテンツツーリズム領域における実証的データの一層の積み増しを目指して、アニメーション映画「耳をすませば 1 」のモデル 地とされる東京都多摩市聖蹟桜ヶ丘 2 を事例とし、同地を訪れたファンを対象 に行った アンケート調査を通して、モデル地訪問行動の実態ならびに他 の 作品の受容についての把握を試みた。 調査の結果、多 摩市を訪れる「耳をすませば」ファンは年間1万人以上に達すると推定される。女性が約 6 割、 30 歳以下の若い世代が 9 割近くを占めており、居住地は全国にまたがっている。全体の約 3 割が(特に男性の約 4 割が)複数回訪問するリピーターであり、異性のパートナーやグループを組んでの複数名での訪問も多い。 他の作品のモデル地も訪れてみた いと回答したのは 7 割ほどいるが、実際に訪問したことがあるのは約 3 割にとどまっており、発展の余地がある。他の作品に対する好感度では、世界観が似ていると考えられる作品への親和性が高く、作品によってファン層が大きく異なる傾向が認められる。地域振興を目指してモデル地同士が提携する場合、作品の方向性やファンの選好性に留意した取り組みの必要性を示唆している。 インターネット上のブログ や SNS 等で習慣的に情報を発信している層は、モデル地巡り、いわゆる「聖地巡礼」に対する関心も高い傾向が出た。関心が高まるほどモデル地への 訪問意欲や実際の訪問率が上昇しており、他のジャンルへの関心も高くなっている。 一層の データの蓄積が求められるところであるが、彼らのような積極的な情報発信者がコンテンツツーリズムの主要な体現者になっていくであろうと予測される。
  • 「モチーフ」から「ジャンル」への転回を見据えて
    市川 寛也
    2015 年2 巻 p. 37-45
    発行日: 2015年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    妖怪は、 時に民間伝承として、時に大衆文化の 中で 、様々に転生を繰り返しながら生きた文化として 再創造され続けてきた 。本稿は、そうした妖怪文化の現代的活用の一側面をコンテンツツーリズムの視点から明らかにすることを目的とするものである 。 本論では、事例分析のための枠組みを構築するために、「民俗文化/大衆文化」「既存のコンテンツの有無」という二つの軸を用いて 妖怪文化を活用したツーリズムの類型化 を試みた 。例えば、鳥取県境港市は水木しげる の キャラクターを活用しているという点において「大衆文化―既存のコンテンツあり 」の事例として位置付けられる。 従来の妖怪文化の活用は、大衆文化由来にせよ民俗文化由来にせよ、地域を象徴する「モチーフ」として用いられることがほとんどであった。そうしたキャラクターを消費することでツーリズムも成立していたわけだが、そこには本来の妖怪文化の担い手としての地域住民の関与はほとんどな い 。これに対して、近年では、地域住民が地域の妖怪文化を発掘、再創造するような事例が見られるようになった。そこでは、地域を解釈し、語り、楽しむための表現ジャンルとして妖怪が位置づけられている。 本論では 、 妖怪伝承の創造モデ ルを組み込んだプロジェクトとして NPO 法人千住すみだ川との協働事業として 《隅田川妖怪絵巻 PROJECT 》を構想し、その実践を通して妖怪文化の つくり手 としての地域住民の語り を引き出すプラットフォームの一つの形を提案した 。本稿の後半部では、その第一段階として 2014 年 3 月に公開したまち歩き用アプリケーション「南千住百物語」について、地域の物語が再創造されていく過程を 辿る 。 この実践の検証を通してコンテンツツーリズムのジャンルとしての妖怪に光を当てることにより、地域に根差した物語づくりの手法を開発することができると考える。
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