わが国は、①石油依存度、とくに中東依存度の低下、②准国産に位置付ける原子力の国策としての推進、③エネルギーの節約と効率の改善を重要な柱としてエネルギー安全保障政策を長年にわたって展開・保持してきた。1970年代の2回の石油危機に対してこの政策は大きな効果を発揮した。しかし、1990年のバブル崩壊以降、現在に至るまでの長期的な経済停滞の中で、これらの柱が日本で効果的に機能したかといえば、答えは「否」である。 エネルギー安全保障政策は、わが国の経済成長とも深く関連するが、本研究の分析結果からみると、石油危機後のわが国の経済成長は欧米主要国に比べると相対的に弱体化したといわざるを得ない。わが国が伝統的エネルギー安全保障政策の維持に注力してきたことが、逆にわが国の経済成長にブレーキをかけていないか懸念される。日本経済の弱体化に寄与したもう1つの要因はエネルギー消費が比較的低い国際競争力のある経済構造への移行が欧米に比べて遅れた点である。 わが国は1人当たりCO2排出量の低下でも、欧州主要国、米国(絶対水準は高いが)に遅れを取ったといわざるを得ない。最大の要因は再生可能エネルギーの拡充が遅れたことである。わが国は、①国策として原子力にこだわり過ぎていないか、②世界に冠たる高品質の電力の安定供給にこだわり過ぎていないかの2点が本研究の問題提起である。わが国が気候変動問題に対応し国際競争力を示すためには、これらの問題点を率直に検討して健全な経済の確立を目指すべきである。
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