現代英語の知覚動詞 hear は,補文主語(目的語)と共に原形不定詞や現在分詞な
どの準動詞を補文に取る構造に加えて,I have heard φ say that the moon influences the
weather.( 安藤 2008: 126)のように,補文主語を欠き,原形不定詞のみを補文にと
る用法(以降,hear φ say 型表現と表記する)が散見される。このhear φ say 型表現
は伝聞や推量,間接知覚を表す。さらに,Poutsma (19282: 206) によれば,このよう
な表現は初期近代英語では一般的であったが,現代では一部の方言にのみ見られる
という。このような構造はどのようにして発達し,衰退したのだろうか。本研究で
は,史的コーパス EEBO や各時代の英訳聖書を用いて分析を行い,hear φ say 型表
現は近代英語において,補文主語が省略されたものから,イディオム化の過程を経
て,弱い直接証拠性を表す表現として発達した可能性について調査する。そして,
その衰退要因として,第一に,hear it said that のような虚辞を伴う表現の発達により,
hear φ say 型表現が消失した可能性, そして第二に,知覚動詞の補文における原形不
定詞のアスペクトとそのアスペクトを反映した強い証拠性の確立に伴い,hear φ say
型表現が消失した可能性について議論する。
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