背景
これまでに、要介護度が高くなるにつれて医療費は減少するが、介護費は増大するとの報告がされている。医療費
と介護費は代替性があるとの報告もあり、両者を合計した費用(医療・介護費)として実態を捉えることが重要であ
る。そこで、本研究では、要介護認定発生が予測可能で、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)事業等の介護費
削減額の試算に用いられている要支援・要介護リスク評価尺度を用いて、要介護リスク評価尺度の点数(リスク点
数)とその後3 年間の累積医療・介護費との関連を解析した。
対象と方法
2016 年10 月に日本老年学的評価研究(JAGES)が愛知県武豊町で実施した要介護認定を受けていない65 歳以
上の高齢者を対象とした悉皆調査を用いた。自治体が保有するKDB システムおよび介護保険給付実績情報に基づい
て、2017 年4 月1 日から2020 年3 月31 日までの3年間の医療保険サービスおよび介護保険サービスの利用状況
を把握した。そのうち、リスク点数が算出不可であった人を除いた計5,213 人(男性2,450 人、女性2,763 人)を
分析対象とした。被説明変数は、3 年間の累積医療費、累積介護費、累積医療・介護費を用いた。説明変数は、10
項目の質問と性・年齢を基に0 ~ 48 点で評価され、点数が高いほどリスクが高いという特徴をもつ要支援・要介護
リスク評価尺度の点数を用いた。調整変数は、教育歴、所得の代理変数として介護保険料賦課段階、婚姻状況、世帯
構成、治療中の疾患の有無、認知症の有無を用いた。推定は最小二乗法(OLS)を用いて行った。
結果
線形モデルによる解析では、リスク点数が1 点高いほど、累積介護費は0.96 万円高いという先行研究の再現に加
え、新たにリスク点数が1 点高いほど、累積医療費は4.73 万円、累積医療・介護費は5.69 万円高いことが明らかとなった。非線形モデル(2 次式)による解析では、リスクスコアが44.0 点および8.6 点を境に、それぞれ累積医
療費は上に凸、累積介護費が下に凸の二次曲線的な関連が認められた。一方、リスク点数と累積医療・介護費の関連
は、非線形でなく線形がより適切であった。
結論
リスク点数が1点高いほど、その後の1 人あたりの3年間の累積医療・介護費は約5.7 万円高かった。今後、リス
ク点数は、介護費に加え、SIB 事業等における医療・介護費の財政効果の評価指標の一つとして活用されることが期
待される。
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