近年,原音を忠実に再現するデジタル技術への関心が高まっている。本研究では,原音場を精密に再現できるバイノーラル音が心理生理反応に与える影響をモノラル音と比較した。34名の大学生・大学院生が視覚2肢選択反応時間課題を行いながら,海岸の波音をバイノーラル録音した音と,その左右チャネルを平均化して作成したモノラル音を聴取した。脳波,事象関連電位(P300),心電図,呼吸運動を記録し,生理状態を評価した。その結果,バイノーラル音はモノラル音よりもより奥行きがあり,広がりがあり,柔らかいと感じられ,違和感の小さい音として選ばれることが多かった。しかし,行動・生理反応には音条件間で有意差が認められなかった。これらの結果は,バイノーラル音の心理生理学的効果を示すためには,音の違いが認識されるだけでは不十分であることを示唆している。今後の研究は,バイノーラル音の特性がより明瞭になる条件(音の種類や聴取環境など)で実施する必要があるだろう。
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