生理心理学と精神生理学
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早期公開論文
早期公開論文の5件中1~5を表示しています
  • 田原 敬, 渡辺 みさき, 井口 亜希子, 勝二 博亮
    論文ID: 2312si
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/09/09
    ジャーナル フリー 早期公開

    本研究では,聴覚障害児を対象に指文字と口形を併用した状況下での指文字単語の読み取り課題を実施し,課題中の視線を計測することで,指文字単語の読み取り方略を検討した。また,指文字の呈示位置と口との距離及び単語の意味性を操作することで視線パターンに変化がみられるのかという点も併せて検討した。その結果,口と離れた位置で指文字が呈示された条件下では,視線が手指に集中することが明らかとなった。一方で,指文字が口に近い位置で呈示される条件下では手指と顔を同程度の割合で注視する特徴がみられ,手指と口形等の非手指情報に適宜視線を移動させ,複数の手がかりを統合しながら指文字を読み取っていると考えられた。さらに,同条件下では,障害の程度が重いほど顔をよく注視する傾向が明らかとなった。聴力レベルの高い対象者は,周辺視にて手指情報を捉えることが可能であるとされるため,中心視にて口形などの非手指情報を捉えつつ,周辺視にて指文字を識別するという方略を用いたと推察された。

    聴覚障害者が用いるコミュニケーション手段のひとつとして手話が挙げられる。手話を用いてコミュニケーションを行う際は,手話単語を並べるのみでなく,「指文字」や「指差し」に加え,表情,口形,うなずき,視線といった「非手指動作」等の様々な要素を組み合わせて会話を行う(市川ら,2005)。本稿ではその中の指文字と非手指動作に着目する。

    指文字は視覚的コミュニケーション手段のひとつであり,日本語の仮名文字に対応した,手指で表される記号である。手の伸長あるいは屈曲する指の種類や本数,屈曲の角度のほか,手掌の向きや動きを組み合わせることによって,清音46文字を表出し分ける。さらに,清音のほかに濁音・半濁音・促音・拗音・長音で各々の記号が定められており,濁音の場合は横方向(体の外側)に手を移動させる等,これらの記号を清音46文字に付加して表現を行う(平,1986)。指文字の手形を順に表出することで音声言語の単語を視覚的に綴ることができる。手話と音声言語は異なる言語であるため,双方で対応する語彙がない場合も少なくない。加えて,固有名詞に代表されるように,手話のみでは表現が難しい事柄が多く存在するため,手話を用いたコミュニケーション場面では指文字によって単語が綴られる機会が多く見られる。さらに,聴覚障害児への教育場面では,単なるコミュニケーション手段としてのみではなく,日本語の獲得を促すことを目的として指文字が意図的に用いられる(井口ら,2018)。実際に,手話を併用する聾学校小学部の授業を分析した阿部(2013)は,助詞を呈示する際や,手話で呈示した語句を日本語として呈示する際,動詞の活用形を呈示する際や,漢字の読み方を呈示する際などに,指文字が意図的に活用されることを報告している。

  • 竹内 成生, 関口 浩文, 宮崎 真
    論文ID: 2308oa
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/06/29
    ジャーナル フリー 早期公開

    我々は,日常的にしばしば負の心理状態を「暗さ」に喩える。これは単なる比喩にとどまらず,抑うつ状態の悪化にともなって主観的な明るさも低下していることが心理学的研究によって報告されている。近年,パターン網膜電位 (Pattern electroretinogram: PERG) を計測した研究により,高い抑うつ状態では網膜電位の応答性が低下していることが報告されてきた。その一方で,これらの実験結果が再現されないとする報告もあり,研究手法の改善の必要性が示唆される。これらの先行研究では,主としてPERGの両眼平均と抑うつ指標との関係が評価されてきた。その一方で,非優位眼と優位眼のあいだでPERGの応答性が異なることを示唆する報告もある。そこで,本研究では,PERGと抑うつ指標との関係を両眼平均,優位眼,非優位眼ごとに評価した。その結果,非優位眼のPERGコントラストゲインでのみ,抑うつ指標のBDIスコアとのあいだに有意な負の相関が認められた。すなわち,本研究の結果から,非優位眼のPERGを計測することにより,従来手法よりも高い感度で抑うつ状態を評価できる可能性が示唆された。

  • 鈴木 浩太
    論文ID: 2311si
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/08/03
    ジャーナル フリー 早期公開

    本稿では,注意欠如・多動症(ADHD)児・者における抑制課題中の脳活動に関する文献をまとめ,その知見をADHDの異種性と反応抑制課題中の脳活動に与える要因を踏まえて解釈した。先行研究におけるメタ分析で,定型発達(TD)児・者と比較して,ADHD児・者でNogo-P3が有意に減弱する一方で,その他の指標で有意な差が認められていなかった。ADHD児・者内において,診断基準を満たす症状があることは共通しているが,原因,脳の構造・機能,心理学的特徴が異なることが示されていた。先行研究の結果から,覚醒度などのADHDに関わる要因が,Nogo-P3に影響を与えると考えられた。以上のことから,ADHD児・者におけるNogo-P3の減弱は,抑制機能の低下のみを反映しておらず,その原因はADHD個人によって異なることが示唆された。他の課題遂行に伴う脳活動の指標についても同様なことが想定され,これらの指標の臨床上の有用性は低いと推察された。他方,ADHDにおける脳活動の異種性や特徴的な行動の背景にある処理過程を検討するために,脳活動の指標が活用されていくことが期待された。

  • 渋谷 友祐, 常岡 充子, 髙橋 玲央, 小川 時洋
    論文ID: 2309tn
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/07/07
    ジャーナル フリー 早期公開
    電子付録

    自律神経系生理指標を用いた隠匿情報検査では,皮膚コンダクタンス,規準化脈波容積,心拍数,呼吸などが連続的に測定される。本研究では,これらの生理反応の時系列データを分析するための階層ベイズモデルを提案した。提案手法では,切断正規分布を持つ観測方程式と階層構造を持つ状態方程式からなる状態空間モデルを利用した。提案手法を167名の実験データに適用して,その有効性を示した。提案手法により,データの標準化を要する従来の統計分析では見過ごされていた元の測定単位での典型的な生理反応の大きさとその個人差の可視化が可能になった。本研究で構築した階層的状態空間モデルは様々な実験計画に容易に適用可能である。

  • 白川 由佳, 北 洋輔, 鈴木 浩太, 加賀 佳美, 北村 柚葵, 奥住 秀之, 稲垣 真澄
    論文ID: 2302si
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/06/24
    ジャーナル フリー 早期公開

    発達性協調運動障害(DCD)は,協調運動技能の獲得や遂行に著しい困難を示す神経発達症である。本研究では,DCDにおける協調運動障害の神経学的な機序の解明を目指し,遺伝子多型に基づく脳内DA濃度と,運動反応抑制に関わる神経活動の両者が,協調運動機能に及ぼす影響を検討した。成人97名を対象に,DA関連遺伝子多型,運動反応抑制にかかわる事象関連電位および協調運動機能を評価した。その結果,脳内DA濃度の高い場合には,協調運動機能の低下が認められなかった。一方で,脳内DA濃度の低さと運動反応抑制にかかる神経活動の低下が重畳する場合に,バランス機能の低下が認められた。これらの結果は,複数の要因が重畳した場合に,協調運動障害が顕在化する可能性を示唆するものである。

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