日本の医療は国民皆保険制度のもと、非常に公平かつ安価な医療サービスが受けられる環境が維持されており、臨床検査・体外診断薬の使用についてもこの状況は同じである。しかし、総医療費の中に占める臨床検査の比率は低く、結果的に強いコストカット圧力の元で開発、承認プロセスが進められている。しかも、体外診断薬は現行法律下では医薬品の扱いが求められており、このことが、一方で非常に安全な運用を実現するとともに、柔軟な対応が求められる現状との乖離を生み出している。
循環器病やその危険因子の多くは、遺伝し得る形質であり、その診断やリスク層別化にヒトゲノム情報が有用であることは自明である。一方で、ヒトゲノム情報はある意味での究極の個人情報であるが故にその扱いに対する慎重さ、さらには基本的な解釈の難しさという「誤解」から、広く一般診療に普及しているとはいい難い。ヒトゲノム情報は、一般的にはバリアントの頻度により疾患への影響量が異なることが重要である。本総説ではrareおよびcommonバリアントと疾患との関わりについて循環器疾患の視点から、今後の予防医学への活用について解説する。
難病の遺伝学的検査は、確定診断のために必要性があるにも関わらず、検査として運用することの採算性や技術的な課題のために以前は困難であった。しかし、次世代シーケンシング技術が汎用化されるのに伴って、こうした諸問題による臨床検査としての検査実施の課題解決も可能となってきた。そうした動きも踏まえて、かずさDNA研究所では30年間の基礎ゲノム研究で蓄積したノウハウや解析体制を活用して、2017年に登録衛生検査所を立ち上げ、次世代シーケンシングに依拠した難病の遺伝学的検査を提供してきた。本稿では、これまでの弊所での遺伝学的検査の実施状況を説明するとともに、今後の課題についても考えてみたい。
次世代シークエンサの普及により、遺伝子解析は実臨床の様々な分野に浸透してきているが、現時点における解析技術には様々なpitfall(落とし穴)が存在する。特に次世代シークエンサの疑陽性とサンガーシークエンスの偽陰性は一定頻度で生じうるという認識は重要であり、検査法によって検出しうるバリアントの種類が異なることにも留意しなくてはならない。遺伝子解析を実施する者には、可能な限りエラーの発生を防ぐための対応が必要であり、検査結果を受け取る側は結果を鵜呑みにせず、必要に応じて再検査を考慮する姿勢が必要である。
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