症例はBentall術後の50代男性.労作時の息切れやふらつきが出現し,血圧も低下傾向であったため当院を受診した.経胸壁心エコー図検査にて大動脈弁位人工弁や弁上(大動脈弁側)・弁下(左室流出路側)が不明瞭で評価困難であったが,カラードプラ法では左室流出路にモザイクシグナルを認めた.連続波ドプラ法による大動脈弁位人工弁通過血流速度(以下,人工弁通過血流速度)3.6 m/sと加速血流を認めるもドプラ波形のピークが不明瞭で再現性は得られなかった.そこで,連続波ドプラ法による僧帽弁逆流血流速度を用いて左室-左房間圧較差を推定した.僧帽弁逆流血流速度6.0 m/s, 最大圧較差144 mmHgより推定収縮期左室圧は144 mmHg+左房圧となり,検査時に上腕で測定した末梢収縮期体血圧は95 mmHgと乖離を認め,左室-大動脈間に狭窄病変の存在が示唆された.経食道心エコー図検査でも同様の結果であった.1年前と比較し,人工弁通過血流速度は上昇しており,血栓弁の可能性も否定できなかったためワーファリンの服薬量を増量したが,1カ月後の経胸壁心エコー図検査でも明らかな改善を認めなかった.血栓弁は否定的となりパンヌス形成による大動脈弁位人工弁や弁上・弁下の狭窄が考えられ,息切れや血圧低下の症状も改善されなかったことから再手術の方針となった.手術にて弁下の人工血管基部逢着部フェルトに沿ってパンヌス形成を認め,弁口面積は半分ほどになっていた.人工弁を外し,可及的にパンヌスを切除した後,大動脈弁置換術(St. Jude Medical regent19, ニ葉弁)が施行された.今回,人工弁通過血流速度が不明瞭でドプラ法やBモード法での評価が困難な大動脈弁位人工弁機能不全症例を経験した.連続波ドプラ法による僧帽弁逆流血流速度を用いて左室圧,左室-大動脈間圧較差を推定することは大動脈弁位人工弁機能不全の診断に有用である.
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