山口医学
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66 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総設
  • 永田 千鶴
    2017 年 66 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    高齢者が最期を迎える場には,自宅,医療機関,社会福祉施設,ほか,があり,全死亡者数の8割弱が医療機関で最期を迎えている.今後急増する認知症高齢者が,環境の変化によるダメージを受けることなく,穏やかに最期を迎えることができる場所の選択肢の一つに,地域密着型サービス(以下,地域密着型)が挙げられる.しかし,地域密着型のような医療機関とは異なる事業所で看取りまで対応するには,様々な困難がある.そこで,本稿では,地域密着型での看取りの現状と課題を整理し,職員と利用者家族および地域住民に対する教育プログラムの実践による介入までの一連の研究で得た知見を述べる.

     中国地方のA市(人口17万人)にある地域密着型での看取りの実施率は低く,その課題には大きく,確立していない24時間医療連携体制と人材育成の不備が挙げられた.そこで,人材育成に焦点をあて,A市の地域密着型の職員を対象とした看取りに関する研修と,地域密着型の職員と利用者家族および住民合同の「看取りの学習会」を実施した.

     2つの介入研究の結果,特に職員にとっては,看取りに関する知識を得,参加者と情報を共有することは,看取りに対する不安・恐怖を緩和し,看取りに向けた心構えの形成および促進,すなわち看取る覚悟につながることが示唆された.

     以上のことから,教育プログラムの実践による介入は,地域密着型での看取りを促進する有用な手段になり得ると考える.

ミニ・レビュー-中村賞受賞者-
  • 西田 周泰
    2017 年 66 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    【目的】頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)は進行すれば重篤な障害をもたらす.脊髄症発症のリスクとして,有効脊柱管前後径が減少するような静的圧迫が存在すると脊髄症を発症するリスクが高く,脊柱管径が広くとも椎間可動性を伴うような動的因子を伴う症例においても脊髄症が発症すると言われている.今回頸椎OPLLの静的圧迫と椎間可動性による動的圧迫を伴う頸椎OPLLに関して有限要素モデルを作成し,力学的に検討した.【方法】有限要素解析ソフトAbaqus /CAE を使用し,3次元脊髄モデルを作成した.脊髄前方に頚椎OPLLモデル,後方に頚椎椎弓モデルを設置,OPLLで脊髄に前後径10%,20%及び30%の圧迫を加えた.また,圧迫レベルでOPLLに不安定性があると想定し,OPLLを10%の圧迫を加えている状態で5°,10°及び15°屈曲方向に回旋変位を加えた.【結果】30%圧迫モデルでは,脊髄全体に応力上昇を認めたが,10,20%圧迫モデルでは脊髄内の応力上昇は軽度であった.また,軽度の静的圧迫であっても5°,10°,15°と屈曲が大きくなるにつれ脊髄内応力が上昇し,10°以上の可動性で30%圧迫モデルと同等の脊髄全体への応力上昇を示した.【考察】頸椎OPLLにおいて,静的因子と動的因子による症状発現が指摘されている.今回の解析から,脊髄径30%の圧迫で脊髄内への応力上昇を認めたことから,脊髄の静的圧迫が強くなれば症状が発現する可能性が示唆された.一方動的因子を伴う10%の静的圧迫により脊髄内応力が上昇したことから,静的因子と動的因子が症状の発現に関与することが示唆された.静的圧迫が脊髄の10%以上で10°以上の椎間可動性を伴う症例では注意深い経過観察が必要であると考えられた.

原著
  • 守田 孝恵, 磯村 聰子
    2017 年 66 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    【目的】1分単位のタイムスタディによって,保健師の日常業務の内容と時間量を明らかにする.

    【方法】市の保健師を対象に始業から終業までのタイムスタディの連続観察法を実施した.毎分0秒になった時点の保健師の行動・言動を観察記録し,「データ」とした.「データ」の内容が変化した時点で,区切り「場面」とし,その意味を表す「活動内容」を生成し時間量を明らかにした.対象者に厚生労働省保健師活動領域調査の様式に記入してもらい,問題点等を聞いた.

    【結果】業務時間は526分,場面は75であった.活動内容別時間量は,「住民との関わり」は130分で業務全体の24.7%であった.「地域への働きかけ」は,81分(15.4%),「個別ケースの評価検討」は50分(9.5%),「地域活動のための職場内の相談」は,71分(13.5%)であった.活動領域調査様式への記入は,保健福祉事業4時間,コーディネート2時間,業務連絡・事務2時間で,感覚的に振り分けられていた.

    【考察】「地域活動のための職場内の相談」「個別ケースの評価検討」は,業務の中で人に学ぶ能力開発である.それらに約2時間を費やしており,日常業務で実践力が培われている実態が浮き彫りとなった.業務の間の分単位の相談・共有・報告等の時間確保が能力開発には重要であることが明らかとなった.保健師活動量をより正確に調査をするには,職場における地域活動のための相談や個別ケースの評価検討の時間を計上できる項目が必要であると考えられた.

症例報告
  • 久保 秀文, 長岡 知里, 木村 祐太, 河岡 徹, 宮原 誠, 清水 良一, 安井 正泰, 折橋 典大, 三浦 俊郎
    2017 年 66 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは胸腔鏡による掻爬と洗浄が奏効した膿胸の3例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例1,2では胸腔鏡下による癒着の剥離,洗浄にて速やかに胸痛および炎症所見は消失した.症例3では初発症状より5週間以上経過していたため,胸腔鏡下のみでの癒着剥離処置が困難であり小開胸術が追加された.深在性や多房性の膿胸に対しては,胸腔鏡下での掻爬と洗浄処置は低侵襲で安全かつ効率よく行うことができるが,その適切な時期を見極めることが重要である.

  • 坂本 誠史, 中西 俊之, 吉村 学, 鳥海 岳, 長弘 行雄, 住浦 誠治
    2017 年 66 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    肩関節授動術に対し超音波ガイド下に持続腕神経叢ブロックを施行したことで,術後鎮痛に加え良好なリハビリテーション経過を得られた一例を経験した.

     患者は60歳代の男性,3ヵ月前に左上腕骨大結節骨折に対する観血的骨接合術を施行され,術後の肩関節拘縮に対して抜釘と観血的関節授動術を予定された.麻酔方法として全身麻酔に持続腕神経叢ブロックを併用する方針とした.神経ブロックは斜角筋間アプローチで行い,患側第5および第6頸神経根の間に0.375%レボブピバカイン15mLを単回注入し,カテーテル(Contiplex® C)を留置した.手術中の鎮痛効果は良好であった.手術終了直後から0.2%ロピバカイン6mL/hの持続注入を開始した.術後当日は肩から肘関節にかけて運動麻痺が見られたが,翌朝からは回復傾向となり以降患側上肢は徒手筋力テスト4~5で経過した.疼痛はVisual Analogue Scale(VAS)で安静時0~20mm,リハビリテーション時26~65mmで経過した.持続ブロック中の追加鎮痛薬はロキソプロフェンを1錠内服したのみであった.術後3日目にカテーテルを抜去し,以降特に問題なく経過して術後13日目に退院した.

     肩関節手術後の強い疼痛は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイドを用いてもコントロールが難しい.強い疼痛は心筋虚血や無気肺などの術後合併症の原因となるほか,リハビリテーションの妨げとなる可能性がある.そのため高い鎮痛効果をもつ持続腕神経叢ブロックが有用であるが,運動神経遮断を伴うとやはりリハビリテーションに不都合である.本症例では術翌日から筋力を維持しつつリハビリテーション時を含めた有効な疼痛コントロールを行うことができた.Contiplex? Cは単孔式の外筒を留置する形状(Catheter-Over-Needle)である.本製品は穿刺部位からの薬液漏出を防いでカテーテルの固定性を良好に保つことができ,効果的な持続留置に有用であった.

  • 鈴木 道成, 橋本 毅一郎
    2017 年 66 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    会陰部の粉瘤より発生した扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.15年前に会陰部皮膚膿瘍の切開排膿を受け,その後も小腫瘤を時々自覚していた.約半年前より腫瘤の増大を自覚,1ヵ月前より疼痛,悪臭を伴うようになり近医を受診.会陰部の腫瘤生検より扁平上皮癌と診断され当科紹介となった.会陰部に鶏卵大の皮下腫瘤を認めた.腫瘤の中央部は自潰し,辺縁の皮膚は硬く触知した.腫瘤部より約5cm背側に皮下瘻孔で連続した過去の膿瘍切開部があり,皮脂特有の悪臭を伴う白色調の分泌物を認めた.CTでは長径43mmの境界明瞭な腫瘤で,内部に変性と思われる低濃度領域,辺縁部には明瞭な造影効果を認めた.腫瘤背側に皮膚と連続する索状構造が認められた.以上より粉瘤部に生じた扁平上皮癌と診断した.遠隔転移,リンパ節腫大は認めず,全身麻酔下に腫瘍切除術を施行した.病理組織所見は高分化型扁平上皮癌で,断端は陰性,病期分類はT2 N0 M0 StageIIであった.術後3年経過した現在,再発は認めていない.

  • 佐々木 翔, 西川 潤, 永尾 未怜, 小川 亮, 五嶋 敦史, 橋本 真一, 岡本 健志, 鈴木 千衣子, 星井 嘉信, 坂井田 功
    2017 年 66 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2017/02/01
    公開日: 2018/03/27
    ジャーナル フリー

    患者は36歳,男性.心窩部痛を主訴に受診し,上部消化管内視鏡検査で,萎縮のない粘膜を背景とした胃体上部大弯に,5mm大の山田・型ポリープを認めた.Helicobacter pylori 感染は陰性であった.生検組織の病理診断は,胃型粘液形質の低異型度分化型腺癌で,腫瘍細胞はMUC5AC陽性細胞が主体であり,胃腺窩上皮型癌と診断された.後日施行した内視鏡的粘膜切除後の標本に腫瘍は認めなかったため,生検により腫瘍部は完全切除されたものと推定された.

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