マドゥスーダナ・サラスヴァティー(ca. 16th cent.)は,アドヴァイタ・ヴェーダーンタ学派の学匠であり,またヴィシュヌ神信仰者でもある.そのため,彼はアドヴァイタ教学とヴィシュヌ派教学とを統合しようとしている.
彼は,その著作Paramahaṃsapriyā(PP)において,ヴィシュヌ派の一派であるパンチャラートラ派のvyūha説をアドヴァイタ教学によって基礎づけている.その際に,vyūha説で説かれるヴィシュヌ神の四つの姿のうち,ヴァースデーヴァ神をブラフマンに,サンカルシャナ神を,ブラフマンが制約された姿である主宰神に割り当てている.一方マドゥスーダナは,PPやBhagavadgītāgūḍhārthadīpikāでは,
クリシュナ
神をヴァースデーヴァ神の化身であると述べると同時に,
クリシュナ
神を主宰神であるとも述べている.
ところで,サンカルシャナ神と
クリシュナ
神はともにヴァースデーヴァ神の変容であり,また主宰神であると説かれているが,両神は全く同じ神格なのであろうか.あるいは両神には何か違いがあるのであろうか.本稿では,マドゥスーダナのサンカルシャナ神理解と
クリシュナ
神理解を検討することにより,この両神の関係がどのようなものであるのか,ということを明らかにした.
その結果,マドゥスーダナは同一の主宰神を,三神一体説における主宰神と化身としての主宰神とに区別し,その違いと役割に応じてサンカルシャナ神と
クリシュナ
神という別々の神格として説いている,ということが導き出された.
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