越後妻有アート・トリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭など、近年、日本の各地で開催されているアート・フェスティバルを取り上げ、文化人類学におけるアートの意義を考える素材を提供する。アート・フェスティバルは2000年頃から日本で盛んになったが、地域活性化に大きく役立っているばかりか、社会・政治批判的要素が抜け落ちているといった批判があるとはいえ、難解とされる現代アートの大衆化にも多いに貢献している。
比較のため、ケルト諸語文化圏 (とりわけブリトン語圏のブレイス(ブルターニュ) とカムリー (ウェールズ)) の代表的フェスティバル、またその他で筆者の馴染みのある欧州の地域 (エウスカル・エリア (バスク) やベネチア) にも言及し、その形態等、比較検討を行う。そのなかでは、アート・フェスティバルがその意義を強調する地域貢献が本当に成しえているか、また文化人類学にとってアートとは何かが、議論の焦点となった。
ケルト諸語文化圏では、現代アートではなく、伝統的文化である音楽や舞踊を主体とした、なおかつ装いを新たにした伝統的祭りがその中心を占めているが、それも19世紀末以降の地方文化衰退の状況における再編成という側面があり、日本の地方文化の状況が類似する。日本のアート・フェスティバルの場合もそうした伝統文化との交流を意図した企画がおおいにあり、さらに現代アートもその展示が恒常化して、20年も経過すると伝統的文化的側面ももつことを強調した。
また文化人類学では、その初期からプリミティブ・アートについておおいに議論しており、さらに超現実圭義者など現代アーチストとの交流も緊密な場合があり、現代アートともそのつながりが以前から深く、現在でもそうした現代アートとつながりを持つ人類学者が少なからずいることに言及した。
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