本稿は,非大都市圏の産業集積地域における中小企業による各種のネットワークの実像に迫るとともに,それが産業集積地域の活性化に対して有する「革新性」の意義を検討した.1990年代以降,産業集積地域はイノベーション能力を高めることを求められている.その能力向上は,中小企業だけではなく,産学・産学官といった地域の構成主体を巻き込んだ相互的な学習を通じて達成されることが多くなっている.このことは,それまで生産リンケージによって優位性を発揮してきた機械関連の産業集積地域にとって,集積している有利性の再定義を意味する.この産業集積地域の再構築にあたり,これまで中小企業が育ててきた種々のネットワーク,なかでも社会的環境ネットワークの形成・展開が注目される.そこには,相互性が内包されているだけでなく,再構築に向けての新たな地域的組織,それを担う地域的主体の形成の可能性が秘められているからである.こうした関心から米沢市および北上・花巻両市におけるネットワーク展開を事例にして,上記の課題を検討した.事例の3市では,それぞれの産業集積の発展段階において独自の課題を抱えて,その課題の解決に向けた,ネットワーク展開を含む各種の取り組みが,産業集積の優位性の再構築としてなされている.ネットワーク展開は,各産業集積の発展の特質に関連して,すぐれて経路依存的である.それは同時に,けっしてブレークスルー的ではなく,むしろ中長期にわたる漸進的な試みとなっている.その際,ネットワーク展開が,地域的組織とそれを担う地域的主体の形成の有無とその程度が,「革新性」の指標であることが明らかにされた.その点からみると,3市の独自のネットワーク展開には,経路依存的であるが故に,不均等とも思える差異が見出された.
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