原子力は社会と強い関わりを持って存在している。しかしながら, 近年に発生したいくつもの事故と不祥事によって, 原子力への人々の信頼感は大きく揺らいでおり, 原子力が不安な存在に化しつつある。この実態の分析と内在する問題の把握は, 原子力に従事するものにとって重要な課題となっている。原子力が適切に社会に利用されるためには, 一般公衆および原子力発電立地におけるコミュニケーションが, 一層重要性を増しており, 実情を把握し, 問題を克服する方策を探らなければならなくなっている。そのような分析を踏まえ, 原子力事業者, 研究者, 行政者において, 役割に応じた, 原子力の社会受容性を改善する様々な取組みが提起される。原子力の将来を肯定的なものにし得るためには, 確たる技術開発はもとより, それを支える人材の育成のための教育的・倫理的課題も産・学・官で取り組む必要がある。一方, 原子力をエネルギー・環境問題解決の担い手と位置付けるかどうかについて, 国際的なコンセンサスが成立し得ない状況がある。この原因を探るとともに, 原子力の役割を再確認し, わが国において世界をリードする核燃料サイクルの確立を果たしうるために, 政策的課題についても学会, 産業界から提言すべき事項は多い。
本特集では, 社会・環境部会の活動の中から, 各グループ等による議論・検討の行われたトピックス事項を中心に紹介することを通じて, 原子力の社会的状況について学会員と認識を共有し, それが個々の役割を考える手がかりとなることを期する。
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