本論は、エドゥアルド・アントニオ・パラ(1965-)の幻想的要素を持つ三つの短篇「最後の人々」、「石と川」、「誰も彼らが去るのを見なかった」を分析する。パラは現在に至るまで「メキシコ北部文学」等の呼称でカテゴライズされてきた作家たちの中に自己を位置づけ、メキシコ北部にアイデンティティを持つ作家として発言してきた。本論は、まずパラによるメキシコ北部文学の定義を確認する。彼によれば、北部はメキシコの他の地域とは異なる生成過程を持ち、メキシコ中心部からもアメリカ合衆国からも距離をとっている。本論は、メキシコ北部の人々が、境界で、あるいは二つのものの間で生きることを意識せざるを得ない状況が非現実的描写によって表現されていることを示す。
具体的には、これら三短篇の物語とイメージを分析し、メキシコとアメリカ合衆国、過去と現在、内部と外部、生と死などが相反しつつも隣接するものとして表現され、入り混じりつつ現れていることを指摘する。この多義性を孕むメキシコ北部の現実の掌握に、幻想的な表現の介入は不可欠であったと結論づけた。
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