本研究の事例地であるJF糸島では,管内の8漁協が段階的に合併して2005年に誕生した合併漁協で,2006年に多彩な地元水産物を主力商品とする漁協自営直売所「志摩の四季」を創設した。従来,漁協自営の水産物直売所といえば漁協の買取販売だが,志摩の四季ではJAファーマーズマーケット等で既に実践されている「自己完結型方式」を導入した。漁獲から売れ残った商品の引取りまでを組合員の自己責任の下で行わなければならない,このような斬新な運営は当初,漁業界において画期的であった。
しかし,現在,志摩の四季の運営は行き詰まりをみせている。合併漁協の直売所における漁業特性や地域性の多様性が品揃えの豊富さとなる一方で,直売所に対する期待が支所ごとに異なっているため,その運営を巡りまとめ役である漁協と組合員との間にいくつかの問題が内在しているからである。また,自己完結型の販売方式では出荷先の選択権が組合員にあるため組合員による合理的行動が直売所経営を左右するからである。
本研究は,JF糸島の個別事例ではあるもののそこに視点を当てることで8支所の地域間差が漁協自営直売所の運営にどのように係ってくるのかを明らかにするため,調査分析や聞き取り調査を実施した。調査分析に当たっては,自己完結型の販売方式が各支所間でどのような差異があるのかを明らかにするため,志摩の四季に出荷する組合員へのアンケート調査も補足的に行った。
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