本論文は,イスラム世界における美術教育と宗教との関係性について,ムスリムの教師による授業実践の観察と彼らへのインタビューを通して明らかにするものである。調査中の授業実践からは宗教的要素は顕在化しなかったが,教師たちと重ねた対話から,彼らの実践する美術教育には,表現への配慮を要するという従来のイスラム世界の美術教育における消極的な認識だけではなく,宗教との関連を肯定的に捉える側面が存在するという事実が浮かび上がってきた。彼らは,一見イスラムとは無関係に思える事柄について,信仰と美術教育とのつながりを見出し,実践に価値を与えていたのである。この研究結果は,イスラム文化に即した美術教育の発展の基盤となる,新たな知見を提示するものである。
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