1983年から1986年にかけて,モルッカ諸島のセラム島・アンボン島において延べ8カ月に及ぶ日本とインドネシアの共同調査を行い,1万点をこえる植物標本を収集した。この調査は戦前のオランダ人によるものも含めたセラム島植物調査の中でも屈指の大規模な調査である。標本収集できたシダ植物は約700種であり,セラム島は世界で有数の豊かなシダ植物相をもつ島である。植物地理的には東隣のニューギニアと緊密な関係がある。本稿は収集標本に基づくセラム・アンボン両島のシダ植物相の研究論文の第1部である。ここではシダ類似植物(マツバラン科・ヒカゲノカズラ科・
イワヒバ科
・トクサ科)の36種を報告した。そのうちいくつかを紹介する。イヌナンカクラン属のTmesipteris oblanceolataは,他種が樹幹の着生種であるのに対して,蘚苔林の林床または樹幹基部ははえる。トウゲシバの中には長さ3cmになる大型の葉をもつものがある。Lycopodium platyrhizomaはアスヒカズラと近縁である。ヨウラクヒバは最も普通な種で変異も大きい。L.caudifoliumの葉長は3.5cmに達する大きさである。L. tetrastichumは葉が4列で茎は四角になる。セラム島・アンボン島のイワヒバ属のうち最大の種は,茎の直径が1cm,高さ2mに達するSelaginella caudataである。
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