法医学において,個人識別は重要な項目の1つである。個人識別法としては骨の特徴や歯型の検査,血液型,DNA解析などを行っているが手技等が煩雑である。一方,指紋の同定は簡便で確実であることから現在も汎用されている。しかし,死後の乾燥が高度に進行したミイラ化死体では指紋の採取が困難であることが多い。今回,ミイラ化死体から指紋を採取するために,高度に乾燥した指を軟化,膨潤させる目的で,3種の処理液について,経時的に指の軟化,膨潤の程度を調べ,いずれの処理液が指紋採取に適しているかを検討した。試料として死後約半年前後の著しく乾燥した死体の指を用いた。本法の特色は従来行われている表皮隆線の採取ではなく,乾燥した表皮を軟化,膨潤剥離し真皮隆線を採取することである。その結果,処理液6% TIOAR-330水溶液が最適であり,同定可能な真皮隆線が採取できた。実務面での利用が可能であると考えられたので報告する。
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