【目的】
日常生活において手関節の掌背屈、橈尺屈の組み合わされた動きが必要となり、日常生活の中でよく使われる運動がダーツスロー・モーションである。ダーツスロー・モーションとは手関節橈屈、背屈45°の肢位から、掌尺屈方向に動く運動方向のことである。またダーツスロー・モーションで日常生活にあまり不自由をきたさないといわれている。これらのことからダーツスロー・モーションは手の動きには重要であると考えられる。
よって、ダーツスロー・モーション面のROMを評価することは臨床的に重要であると考えられる。そこで、ダーツスロー・モーション面用
ゴニオメーター
を開発した。今回ダーツスロー・モーション面は前腕回内45°の肢位から矢状面上で上方への運動を橈背屈、下方への運動を掌尺屈と定義した。よって、今回の研究の目的は、ダーツスロー・モーション面のROMを測定し、測定結果に検者内信頼性があるか調査することとした。
【方法】
対象は、上肢に整形外科疾患の既往がない健常成人6名(男性3名、女性3名)であった。今回作成した
ゴニオメーター
で橈背屈と掌尺屈の最大角度の実測値を測定した。橈背屈と掌尺屈の最大角度は自動運動、他動運動にてそれぞれ3回ずつ測定した。橈背屈と掌尺屈の合計値をダーツスロー・モーションのROMとした。
ゴニオメーター
の回転軸は、手根中央関節の動きが常にダーツスロー・モーションであることから、手根中央関節の回転軸に一致するようにした。次に3次元動作解析器のマーカーを
ゴニオメーター
に貼付し、3次元動作解析器でダーツスロー・モーション面のROMを測定した。3次元動作解析器で測定した結果をダーツスロー・モーション面ROMの正解値とした。
ゴニオメーター
の回転軸、前腕、手指の部分にマーカーを貼付し、同様に自動運動、他動運動それぞれ3回ずつ測定した。統計学的解析は級内相関係数(以下ICC)を用いて、それぞれの結果の再現性を求めた。
ゴニオメーター
と3次元動作解析器のそれぞれの結果の再現性は、3回の評価結果の再現性を求めた。また
ゴニオメーター
の実測値が3次元動作解析器の正解値と相関があるかを、
ゴニオメーター
と3次元動作解析器のダーツスロー・モーションROMの平均値でICCを求めた。
【説明と同意】
被験者に対し研究の説明を行い、書面での同意を得られた者のみデータを採用した。本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認(H21-15)を得て行った。
【結果】
ゴニオメーター
での再現性は、橈背屈のICCは自動運動では0.980、他動運動で0.981であり、掌尺屈の自動運動は0.991、他動運動で0.989であった。ダーツスロー・モーション面ROMの再現性は自動運動で0.992、他動運動で0.991であった。3次元動作解析器での再現性は、橈背屈の自動運動でICCが0.909、他動運動で0.924、掌尺屈は自動運動0.937、他動運動0.969であり、ダーツスロー・モーション面のROMは自動運動0.967、他動運動0.966であった。
ゴニオメーター
と3次元動作解析器のダーツスロー・モーションROMの平均値の相関は、自動運動でICCは0.948、他動運動でICCが0.924であった。
ゴニオメーター
で測定したダーツスロー・モーション面ROMは自動運動で59.1±7.9°(mean±SEM)、他動運動で62.8±7.4°であった。3次元動作解析器で測定したダーツスロー・モーションのROMは自動運動で60.0±5.7°であり、他動運動で64.3±5.2°であった。
【考察】
今回開発した
ゴニオメーター
でダーツスロー・モーションのROMと橈背屈、掌尺屈が測定できることが示された。それぞれの結果で再現性が得られた要因として、運動方向の統一、前腕回内外による代償の防止、肘関節の固定、回転軸の統一が考えられる。
ゴニオメーター
と3次元動作解析器の間のICCが高値であったことから、
ゴニオメーター
で5°間隔で測定しても、ダーツスロー・モーション面ROMの正確な評価が可能であると示唆している。よって、開発した
ゴニオメーター
を使用することにより、ダーツスロー・モーション面のROMを臨床で簡易に評価できると考えられる。
【理学療法研究としての意義】
ダーツスロー・モーションのROMが測定できることにより、手のROMの新たな評価が可能であることを示唆している。ダーツスロー・モーションは手根中央関節の動きであり、日常生活で多く使われる動きであるために、橈骨遠位端骨折後などの評価に用いると有用であると考えられる。また橈骨遠位端骨折などの患者に対しダーツスロー・モーションのROM改善がADLやQOL向上に繋がるか調査することができると考えられる。
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