1970年前後,損害保険企業では「保険の大衆化」という言葉が飛び交っていた。本稿は,この言葉が損害保険事業においてどのような意味を持っていたか,具体的に損害保険事業にどのような変化をもたらしたのか,およびその変化は現在どのような状況にあるかについて考察したものである。この結果,その本質はそれまでの企業保険市場に重点を置いた損害保険企業の経営を個人保険市場重視に転換すること,すなわち,経営構造を転換するための挙社体制の販売キャンペーン等を含む,損害保険企業全体を巻き込んだ大きな変革のうねりであったことを論じている。次に,すべての損害保険を個人保険及び企業保険に区分し市場動向の分析を行った。特に火災保険及び自動車保険に関してはそれぞれの市場の伸び率,損害率,シェア等を検証した結果,個人保険市場が規模のみならず収益性においても企業保険市場より優位性を占めたこと,また,この個人保険市場が優位な状態は,1995年の業法改正により大きな影響を受けたものの,2010年代まで継続していたことを明らかにした。さらに,この個人保険市場優位の損害保険市場の,近年における変化および近時の損害保険企業の諸活動を考察した結果,現在は,成長セクターが個人保険市場から企業保険市場に移りつつあり,損害保険事業は既に第二の構造転換期に差し掛かっていると考えられることを論考している。
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