本パネルディスカッションのテーマは「海外における心身医学の展開」ということで,精神分析より出発した心身医学が,その後海外においてどのような展開をたどり,またどのような方向へ進もうとしているかを探るものである.そして,日本の心身医学が進むべき方向性についての議論を深めることを目的として企画された.パネリストとして海外経験の豊かな4人の先生方に登壇していただき,欧米の現状報告とともに展望を語っていただいた.岡孝和先生には,「ニューロサイエンスと心身医学」と題して,北米神経科学会の動向や心身医学の基礎的な病態理解,治療戦略におけるニューロサイエンスの果たす役割について論じていただき,またその例としてストレス性高体温の基礎的,臨床的研究についても言及していただいた.中尾睦宏先生には,ハーバード大学Mind/Body Medical Instituteでの留学経験をもとに,ハーバード大学の心身医学の教育,研究の実状やストレスマネジメントプログラムでの臨床活動を通して,行動医学,予防医学への展開および精神医学との連携の必要性についても論じていただいた.竹林直紀先生には,「もう一つの心身医療」というテーマで,米国での代替医療(Complementary and Alternative Medicine)や統合医療(Integrative Medicine)への国家的な取り組みと医療界で進行している急速なパラダイム,シフトを紹介していただき,その中でMind-Body Interventionと日本の心身医学的アプローチとの関連性についても論じていただいた.最後に,橋爪誠先生には,ドイツにおける心身医学の現状を臨床面,教育面,研究面の各分野について紹介していただき,また
サリュート
ジェネシス(健康創成論)の立場からの展望を語っていただいた.各パネリストの先生方には,それぞれの海外経験をもとに日本の心身医学の方向性について熱く語っていただき,この場を借りて感謝の意を表したい.聴衆も新たな知見に接し,将来的な展望について考えるうえで多くのものを得られたパネルディスカッションであったと考える.日本の心身医学の流れは,学会の発足当初より古典的な「心身医学」の枠組みからは大きく展開し,行動医学や統合医療へと進んでいることは衆知のことであり,世界的な動向と期を一にするものであるとの感を新たにした次第である.本パネルディスカッションの企画が,2005年の世界心身医学会議における日本から世界への情報発信の一助となれば幸甚である.
抄録全体を表示