【要旨】
1950 年代のアメリカのテレビ放送を支えたシチュエーション・コメディについては、これまで多くの社会的・文化的背景からの研究がなされてきた。しかし、本論では作品の内実に即した分析を試みるため、このジャンルの代表作である『アイ・ラブ・ルーシー』(CBS 1951-1957)で使用される「乗り物ギャグ」を取り上げ、シチュエーション・コメディというジャンルの形式とギャグの物語論的機能の関係を考察した。
一般に、ドラマはシリーズとシリアルという二つのタイプに大きく分類される。シチュエーション・コメディはシリーズ形式に属すジャンルであるが、6シーズン続いた『アイ・ラブ・ルーシー』にはシリアルの特徴を持ったエピソード群が存在する。そこでは、主人公であるルーシーたちが、目的地へと「移動」する様子が描かれており、本来シリーズであるはずの『アイ・ラブ・ルーシー』の標準形に即していない。また、そこで展開される乗り物を使ったギャグも、それまでのシーズンでは見られなかったダイナミックな特徴を持っている。しかし、一見すると標準形から逸脱したこれらの要素は、逆にこのジャンルに特有の「基本的な状況に立ち返る」という「円環的物語構造」の強制力をダイナミックに視覚化するという機能を持つことが明らかになった。
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