カニクイザルの個体の過去の月経周期の長さを指標として, 将来の月経周期の長さを的確に推定することが可能であるか否か, について検討を加えた。まず第一に, 約半年間に60頭の個体から得られた240周期の月経周期の長さについて統計学的解析をおこなった。その結果, 連続するふたつの月経周期のまえの周期の長さと, あとの周期の長さとのあいだには, 顕著な相関性は得られなかった。さらに, その後1年間に12回以上の月経を認めた20頭の個体でも, それらの周期の長さについて検討を加えたところ, いずれの場合も, 各個体の示した過去の, ある月経周期の長さから, 将来の, ある月経周期の長さを推定することは, 困難であることが明らかになった。
そこで, 月経周期の長さにとらわれず, 排卵が起こる可能性の高い時期を確定することを試みた。即ち, 血中FSH濃度を経日的に測定し, それと並行して卵巣の状態を観察した。その結果, 排卵は, 血中FSHが増加する日から, 1日もしくは2日遅れておこることが確認された。それ以前の周期の長さのいかんにかかわらず, 血中FSHの増加は, 月経初日後, 第8日目から第16日目までに認められ, しかも, FSHの増加が認められた25例のうち過半数の個体で, 第10日目と第11日目の2日間に認められた。このことから, 月経周期の長さのいかんにかかわらず, 排卵日は, 月経初日から数えて, 第10日目から第13日目前後にある可能性が高いと推測される。
個体の過去の月経周期の長さが, 将来の月経周期の長さを推測する指標とはなり得ない以上, それにとらわれることなく交配計画を立案することの方が, 現場作業の省力化のうえからも, 妥当なことであろう。
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