抄録
概日リズムとは,約24時間周期の行動的リズムの総称であり,BMAL1・CLOCK転写調節因子複合体が時計遺伝子PeriodとCryの上流領域(転写調節領域)に結合することで転写・翻訳を開始し,これらの産物であるPER・CRYタンパク質複合体が自身の発現を抑制するという分子機構(ネガティブ・フィードバック)により形成されることが,ショウジョウバエやマウスなどの分子生物学的研究から明らかにされてきている。
しかし,霊長類ではヒトを対象とした研究がほとんどであり,霊長類全体で昼行性/夜行性の多様性が観察される概日リズムのパターンが,いかなる分子機構の違いにより生じているかは不明である。そこで本研究ではパイロット実験として,ヒトでcis-elementの研究が進んでいる時計遺伝子Period 1に着目し,原猿類と真猿類で遺伝子上流領域配列の比較検討を行った。
まず,国際データベースからPeriod 1遺伝子領域を含むゲノム配列を取得し,Window Homology Analysisを行った。その結果,転写調節因子結合モチーフを複数含む領域からExon 2にかけての上流領域が非常に高い保存性を示すことが明らかとなった。
次に,この上流領域約4 kbを対象とし,真猿類(ヨザル,コモンマーモセット,チンパンジー)と原猿類(オオガラゴ,ショウガラゴ,ワオキツネザル)のゲノムDNAをテンプレートとしたPCR-直接塩基配列決定を行った。これら配列について転写調節因子結合モチーフを含む5つの領域に分け比較解析を行い,分子系統樹のトポロジーおよび塩基配列の二次構造予測が種の系統関係を反映するか,または夜行性/昼行性の特徴を反映するか検証した。
本発表では,これらの結果を報告し,霊長類の夜行性/昼行性の多様性を調べる上で,時計遺伝子のどの転写調節因子結合モチーフと領域に着目すべきか議論する。