【目的】
疼痛によって体性感覚野の狭小化が生じ, 感覚統合が困難になるとの報告がある( 平川2013). 今回, 人工股関節全置換術後
(THA) の症例に対し, 下肢の同種感覚統合を促した結果, 歩行時の足尖角と歩行能力の改善を認めたため報告する.
【説明と同意】
症例より発表の主旨を説明し同意を得た.
【症例・評価】
40 代女性で10 年前, 左変形性股関節症と診断され,H28 に後外側アプローチによる左THA を施行した. その後2 週間で退院し,現在まで1か月間週2~3回の頻度で外来リハビリを行っている.関節可動域は左股関節伸展10°,左距骨下関節回外20°,回内5°, 左
ショパール
関節は回内外40°であった. MMT は中殿筋, 大殿筋3 であった. 歩行は独歩自立だが, 左荷重応答期(LR) に左下肢外旋 ( 足尖角10°), 左距骨下関節回外, 左
ショパール
関節回内し, 足底圧中心の急激な右前方への移動がみられた. 左下肢外旋位については認識をしていなかった.左下肢の感覚検査では, 単関節では異常はないが, 感覚の統合を求める足底圧と膝関節や股関節の位置覚は5/10, 膝関節と股関節の位置覚は3/10, 足尖の位置を問う課題では3/10 と低下がみられた. 以上から, 左下肢の体性感覚の統合の困難性が左足尖角の誤認を生じさせていると考えた. その結果, 歩行時の足尖角が過大となり左LR に
ショパール
関節が回内し, 急激な足底圧中心の右前方への移動がみられると推察した.
【介入】
足底圧と膝関節, 股関節の位置覚の統合, 膝関節と股関節の位置覚の統合を促す介入を行った.40 分/ 日, 週2 ~3 回で1 か月間介入した.
【結果】
足底圧と膝関節, 股関節の位置覚は10/10, 膝関節と股関節の位置覚8/10, 足尖を問う課題では8/10 と向上した. 歩行時の左LR での足尖角は3°と改善した.10m 歩行時間は19 秒から13 秒, 片脚立位は5 秒から7 秒に向上した.
【考察】
THA 患者において, 同種感覚統合を促す介入は, 歩行時の足尖角の改善および歩行能力向上に寄与する可能性が示唆された.
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