東日本大震災後、南海トラフの巨大地震・津波に関する想定の見直しが行われ、一部の住民の間では、「諦め・絶望のムード」、「油断・慢心のムード」、「お任せ・依存のムード」が強化されている。これらの問題に対処するために、本稿では、専門家・行政と住民が「共にコトをなすこと」の重要性を指摘し、それに基づいて独自の個別訓練を提案し実施した。個別訓練は、一人ひとりの地域住民を対象とする取り組みであるが、その実施プロセスにおいては、学校の防災教育をはじめ、多様な関係者による共同的な実践がなされている。そのため、訓練参加者は自らの避難を心配・支援する存在に気づき、津波避難に対して看過していた意味を再発見することができる。津波減災における個別訓練の位置づけに関して、本稿は多様な参加者からなる実践共同体の形成と再編、および関係者のアイデンティティの形成と再編に基づいて分析を行った。さらに、個別訓練の結果をまとめた避難動画カルテの機能について、論理実証主義と社会構成主義の研究スタンスを比較し、専門家と住民のバランス、および人間科学と自然科学のバランスの2点から検討を行った。
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