C
4植物の葉はCO
2濃縮機構を持ち、特に強光や乾燥環境下で高いCO
2固定能力を維持できる。一方で、弱光環境に応答してクロロフィル量の増加や葉緑体のグラナの発達といった、光合成タンパク質の量や組成が変化する事も報告されている。しかし、これらの変化は種やサブタイプ、栽培条件によっても異なるため、現段階では弱光に対するC
4植物葉の応答機構に関して包括的理解が進んでいない。本研究では、弱光環境に対するC
4葉の生理的、形態的性質の変化が適応的なものかどうかを評価するために、窒素分配の観点からの解析を行った。さらにそれらの性質の変化が実際のC
4光合成に与える影響を定量的に調べる事により、C
4植物が弱い光をどの程度効率良く利用できているのかを把握する。
異なる光、窒素栄養条件下で栽培した
スギモリゲイトウ
(
Amaranthus cruentus L. NAD-MEタイプ)の葉を用いて実験を行った結果、弱光栽培個体においてクロロフィル量の増加、
a/b比の低下がみられ、また発達したグラナも観察された。これらの結果は、C
4植物葉が弱光に対して馴化している事を示唆している。C
4光合成酵素(PEPC、PPDK)の量は栽培光条件によって変わらず、Rubisco量は強光栽培個体で僅かに増加した程度であった。また、Rubiscoあたりの最大光合成速度は栽培光条件に関わらず、ほぼ同じ値を示した。葉組織の炭素安定同位体分別の値は、C
4光合成効率を表す指標であり、この値は光条件による影響を受け、弱光栽培個体で大きくなった(弱光栽培個体 11.5‰, 強光栽培個体 8.1‰)。この結果は、弱光下においてC
4光合成効率が低下した事を示唆するが、その原因として維管束鞘細胞からのCO
2の漏れが大きくなっている可能性が考えられる。
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