著者らは先に,回帰樹木法を適用して,日本語マニュアルの分かりやすさに関連する形態素(例えば,文節数,漢字率)情報を抽出し,その結果に基づき,マニュアルの品質を定量的に改善する手法を提示した.ただし,そこでの検討で基礎にしたデータは特定の文書集合と特定の読者集団に関するものであった.総合評価としての分かりやすさに対する,一般の,そしてテクニカルライターの認識では,分かりやすさの評価の観点や評価項目ごとの重みづけは,対象とする文書の種類(分野)および対象とする読者層によって異なる.例えば,検索の容易さが重視される言語コンパイラの文法書では,見出し語の頻度や索引項目の量に重きがおかれ,初心者向けの概説書では,専門語の割合が低いことや体裁の魅力に重きがおかれる.従って,先に回帰樹木法から得られた結果を,より一般の文書,より一般の読者に普遍化するためには,分かりやすさの評価における文書分野および読者による偏りを調査することが必要である.本論文では,この偏りの調査を目的に,文書分野として,新聞記事,マニュアル,論文,特許文,教科書,教養書をとりあげ,また読者層として,テクニカルライターと工学系大学院生をとりあげた.特に,2つの読者層において分かりやすさの評価が異なるか否か,さらにどのように異なるかを文書分野との絡みで検討した.さらに,テクニカルライター層において分かりやすさの評価が彼らの背景とどのように関係しているかを検討した.結果として,評価の偏りに関するいくつかの仮説を導出した.
抄録全体を表示