新熱帯区の森林にはティティ属(Genus Callicebus)が分布している.この属に属する3種のサル(マスクティティ Callicebus personatus,エリマキティティCallicebus torquatus,
ダスキーティティ
Callicebusmoloch)の上顎第1,第2大臼歯の形態学的形質について種内,種間変異の出現頻度,発達程度などを調べた.
種内,種間で変異のみられる形質は,第1,第2大臼歯でそれぞれ次の6個,計12個である. metaloph(=metaconule)の出現頻度.頬側歯帯,舌側歯帯の発達程度. paraconule, stylar casp の出現頻度.prehypocrista と metaloph の相対的高さ.そのうち頬側歯帯,舌側歯帯, prehypocrista と metaloph の相対的高さについては,発達程度に応じてタイプ分けし,各タイプごとに出現頻度を調べた.3種にみられる各形質は変異が大きいので,種のちがいは形質の一連の変異系列の中で,頻度曲線のちがいとしてとらえられる.
これらの形質それぞれについて,どのような状態がより原始的であるかを,現生種や化石種との比較から推定した.形質変異系列の中で,原始的変異型はもっとも高頻度にエリマキティティにあらわれ,派生的変異型はもっとも高い頻度でマスクティティに現われる.したがってティティ属の進化傾向は,エリマキティティ型→
ダスキーティティ
型→マスクティティ型という方向に,頻度曲線の移行として考えられる.いままでは
ダスキーティティ
がティティ属の祖先に最も近いといわれてきたが(HERSHKOVITZ, 1963),上顎大臼歯の形態からみると,祖型に最も近いのはエリマキティティであり,
ダスキーティティ
,マスクティティの順により派生的になる.
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