【はじめに】近年,患者ニーズの多様化に伴い,医療形態もこれまでのような医師中心に展開される形態から,より患者にあった個別性の高い目標の実現や的確な治療提供を行うため,多職種が連携をとり,それぞれの知識と情報を共有し医療を進める
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の形態となっている。理学療法士も専門職種として基本動作やADLの獲得を中心に臨床現場におけるチームの一員としての重要な役割を担っている。本学では理学療法士養成校として,
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の必要性を理解し,患者本位の医療を実践するために,チームの一員であることを自覚することを目的とし,多職種との連携の必要性,具体的な連携の取り方について1年前期に
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論を実施している。内容としてはチームを構成する各職種の役割の紹介,スポーツ関係者,看護師,理学療法士におけるチーム連携の在り方についての講義,K-J法を用いた
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に関してのグループワーク,模擬カンファレンス等を行っている。今回,
チーム医療論実施前と実施後にチーム医療
に関するアンケートを行い,学生の
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に対する考え方の変化,および,講義終了後アンケート結果における総合的特性の調査を行ったので若干の考察を含め報告する。【方法】対象は本学の理学療法学科1年生44名とした。アンケートは
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論開始前と8回の授業終了後の計2回実施した。アンケートは群馬大学にて
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に関する調査で用いられているものを使用した。内容としては
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の有用性に関する14問の設問となっており,各設問を5段階評価(賛成の度合い)で回答を求めた。アンケート回収率は初回100%,2回目95%であった。そのうち,未記入の設問のあるもの,初回と2回目の回答者が同一であることが特定できないものを除外し,最終的には29名分が本研究の対象となった。方法としてアンケートの全設問に対して
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論受講前(以下,受講前)と
チーム医療
論受講後(以下,受講後)をWilcoxon signed-ranks testにて比較した。有意水準は0.05未満を統計的有意とみなした。また,2回目のアンケートに対してPrincipal Component Analysisにより主成分を抽出した。【説明と同意】アンケート調査はその目的を対象学生全員に十分に説明し同意を得た上で行われた。匿名性に配慮し,解答者に4ケタの数字を決め記入させ,初回と2回目のアンケートの解答者がわかるように実施した。【結果】アンケートでは医療の効率化,医療ミスの防止,熱意・興味の維持,医療の質の向上,患者への的確な対応,患者家族への的確な対応,多職種理解,退院準備の効率化の計8問で有意差を認め,受講前よりも受講後において賛成への傾向が強くなった。主成分分析の結果では,第1成分として
チーム医療に費やされる時間とチーム医療
による物事の複雑化が選択され,
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における不利益要素と名付けた。第2成分としては医療判断の効率化,医療ミスの防止,医療の質の向上,患者への的確な対応,多職種理解,コミュニケーションの充実が選択され,
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における有益的要素と名付けた。第3成分としては患者への全人的対応向上,退院準備の効率化が選択され,患者利益と名付けた。抽出された3主成分に全要素の70.3%が集約された。【考察】本研究の結果より,講義前後のアンケート結果では,多数の設問において賛成の傾向が強くなった。これは,臨床現場における
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への必要性や理解が深まったことによるものと考えられ,本学における
チーム医療
教育が一定の成果を認めることを示唆した。主成分分析では
チーム医療
における不利益要素,有益要素,患者利益が抽出された。これは,
チーム医療
の知識が向上したことで,
チーム医療
の有用性が理解された結果,不利益な面,有益な面,また患者利益が明確になったことによるものと思われる。本学では1年生後期に理学療法士の役割や施設内での位置づけ等の理解を目的として5施設の病院・施設実習を行っている。本研究においても実際の臨床現場を体験したことによる
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の印象の変化を今後もアンケートを継続的に行い調査するとともに,Interprofessional Education(IPE)からInterprofessional Work(IPW)への繋がり,IPEの効果の検証を行いたい。また,本学では
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に関する講義は1年生のみであり,今後,他学年における教育方法の検討も実施していきたい。【理学療法学研究としての意義】臨床現場における
チーム医療の重要性から卒前からのチーム医療
教育の必要性が示唆されている。そのため,カリキュラム内容や評価方法の検証が現在求められており,本研究の結果はその一端に貢献できるものと考えている。
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