近年,
フィットネスクラブ
は人々の身近な運動施設として重要な役割を担っている。その起源を探ると,1970年代以降の日本の社会経済発展と国民所得の増加が,国民の健康への関心を高めたことがあげられる。地理学的な視点から見た
フィットネスクラブ
の研究では,GIS(地理情報システム)を用いた立地や集客圏の分析が行われている。ここでは,施設が立地する地域の特徴と経営状況との関連性,および立地条件やその規定要因を明らかにする必要があるとされており,これは,競合施設だけでなく,路線や道路,居住地との立地関係が商圏に大きく影響を与えるため,これらの要因を分析する必要があることを示唆している。また,既存研究では,主に総合型の
フィットネスクラブ
を着目した研究が行われてきた。しかし,近年では,従来型の
フィットネスクラブ
の定義とかけ離れた施設が増加している。これらの
フィットネスクラブ
は,「コンビニ型」の
フィットネスクラブ
と通称されているが,その明確な定義は定着していない。 そこで本研究では,近年において急展開されている「コンビニ型」
フィットネスクラブ
の立地と分布の特徴について明らかにする。方法としてまず,既存研究や業界専門誌などを参考にコンビニ型
フィットネスクラブ
について定義する。また,その定義に適合する店舗を抽出して空間データベースを構築し,その分布の特徴を明らかにする。
日本の健康や体力づくりは,1964年の東京オリンピックを契機に動き出している。当初は水泳の選手や指導者が子供向けの「スイミング指導」が
フィットネスクラブ
の原点とされている。1980年代に入ると若い女性を中心にエアロビクスがブームとなり,既存のスイミングスクールと統合し,日本で初の「
フィットネスクラブ
」が誕生した。この時に,入会費,会費を支払って利用する現在のシステムが定着した。80年代後半に入ると少子化の影響で,それまで子供をターゲットにしていたスイミングスクールの業績が低迷した。その対策として大手企業では,成人も集客できる総合
フィットネスクラブ
へと業態を転換し,フィットネスの健康や美のイメージの良さから異業種の参入も起こった。1990年代に入り,バブル経済の崩壊による景気の低迷の対策として,各
フィットネスクラブ
は,入会費などの減額を行った。それにより大手企業の
フィットネスクラブの会員数が増加した一方で変化に対応しにくいフィットネスクラブ
の経営を悪化させていった。2000年代には業界の再編が進み,各
フィットネスクラブ
の合併が起こり,客単価や入会率が上昇し,回復傾向となった。その後,マンツーマンの指導であるパーソナルトレーニングや,低体力者向けのリラクゼーション系のサービスなど個々のニーズに合わせたプログラムが増加し多様化が進んでいる。この中で,マシントレーニングの普及を背景に,伝統の総合型の
フィットネスクラブ
から脱却し,トレーニングマシンのみ設置,低価格で利用できる「コンビニ型」
フィットネスクラブ
が登場した。本研究では,この種類の
フィットネスクラブ
について、メディアや業界専門誌をもとに定義づけを行い,以下の通りとした。①入館方法がセルフ方式,②無人営業を含む営業時間が24時間,③他店舗の相互利用が可能,④定休日がない,以上の4つを条件に該当するチェーンを抽出した。
定義に該当する「コンビニ型」
フィットネスクラブ
のチェーンとして、C社、A社、J社、F社の4社を抽出し、データベースを構築して分析を行った結果、以下の通りである。全体的な立地傾向 「コンビニ型」
フィットネスクラブ
は東京都の全体に立地しているものの、特に23区は多摩地区に比べて店舗が多い傾向が見られた。しかし、23区内でも東雲などの臨海部には店舗が立地していない。東京都全体のコンビニ型
フィットネスクラブ
を対象としたカーネル密度分析を行ったところ、23区全体が密集しており、その中でも浅草橋駅周辺が特に高密度であることが明らかになった。対照的に、多摩地区はあまり密集していない結果となっている。市区町村別の店舗数では、板橋区が43店舗と最も多く、次いで大田区が41店舗であった。多摩地区では、八王子市が23店舗で最多、その後に調布市14店舗、西東京市11店舗と差が開いており、その他の立地地域は1~10店舗が大多数を占めている。また、23区から離れた奥多摩町、檜原村、瑞穂町には店舗がなく、武蔵村山市、あきる野市、日の出町は1店舗と、特に少ない状況であった。チェーン店別の空間分布を見ると、C社とA社は複数の高密度地域を持ち、一部で重複している箇所も見られた。一方、F社とJ社はC社とA社に比べて中密度地域がそれぞれ1か所ずつあるのみで、他のチェーンの高密度地域とは重複していないことから、チェーン店ごとに立地傾向が異なることが明らかになった。
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