洪水処理技術における歴史的な流れとこれからの方向性を示すとともに,21世紀に水田地帯が果たす役割ならびに水田の持つ洪水貯留機能を水資源の流域管理にどのように活用したらよいかについて述べた.まず,水田の洪水貯留機能を水田固有のポテンシャルとして評価することが重要であることを指摘し,都市近郊におけるその機能をマクロ的に評価する方法を示した.また,それを踏まえて,その機能を水資源の流域管理にどう活かすかを検討した.次に,洪水管理や氾濫原管理に関する21世紀の課題は歴史の中に見いだせることを明らかにした.すなわち,ダムと堤防による「集めて迅速に流す」方式の洪水対策は,治水と利水の両面からの流域管理へと変化しており,その目標はまさに日本の江戸初期の河川や現在の東南アジアの流域で行われている方向であることを示した.さらに,世界の各地域における水環境の違いにより個々の技術の適用方向が異なることを,オランダの排水管理,オーストラリアにおける森林伐採や草地開発による地域水資源の変化,メコン河の下流地域での氾濫と潅漑の共存などの事例を用いて論述した.
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