弘前大学では、長年に及ぶ青森県の平均寿命全国最下位(短命県)から脱却すべく、2005年から弘前市岩木地区の住民を対象に「岩木健康増進プロジェクト」と銘打った地域健康増進活動を実施している。その活動の一環として、毎年1,000名超の地域住民を対象とした大規模合同健康調査を実施し、その検査項目数は今や約2,000項目にまで及び、これまで14年間で延べ約2万人(小中学生を含む)の健常人の健康情報(健康ビッグデータ)が蓄積されている。この健康ビッグデータは、ゲノムから生理・生化学データ、個人の生活活動データ、社会経済環境データまで全身健康(機能)に関するあらゆる内容を包含する網羅的なデータ構造になっており、このようなデータは世界的にも類例がなく、当拠点の大きな特長となっている。
このような取組を基盤に、2013年には文部科学省のセンター・オブ・イノベーションプログラム(COI)に採択され、これを機に国内大手ヘルスケア企業を含む40社以上の企業をはじめ、大学や国研等を含め約50機関が本COIプロジェクトに参画し、アンダーワンルーフの名の下に、巨大コンソーシアムを形成し、蓄積した健康ビッグデータをベースに、社会問題である生活習慣病・認知症をターゲットとした疾患予兆法・予防法の研究開発などに戦略的に取り組んでいる。本演題では、「健康ビッグデータ」の解析結果と、弘前大学COI拠点が目指す“健康長寿社会”実現に向けた将来展望(基本戦略)と、社会実装に向けた本拠点の戦略的取組について紹介する。
当拠点では、まさに産・学・官・民が一体となって、真の社会イノベーション創造を目指し、地域住民の健康増進に向けた社会環境の構築にも大きな力を入れている。最終的には、生活者の健康意識と行動変容にまでつなげていくことを重要視しており、社会実装の中核的組織として「健やか力推進センター」を県医師会内に創設し、地域・職域・学域といった主要フィールドに対して、健康教育(啓発)活動等を積極的かつ多角的に展開している。
その中でも、住民のヘルスリテラシー向上に向けた戦略的取組のひとつとして、健康教育に基軸をおいた新たな行動変容プログラム(啓発型健診)の開発に取り組んでいる。これは、検査内容を「メタボ」「ロコモ」「口腔保健」「うつ病・認知症」の4つの主要分野に絞り込み、約2~3時間で検査から結果説明、健康教育までを一気通貫で完結させる、コンパクト型のプログラムパッケージである。これまでの実証試験の結果、HbA1cや内臓脂肪が有意に低下したほか、健康意識の向上など、一定の効果も認められつつある。
このような一般市民から自治体、マスコミ等をも巻き込んだ一大社会活動は、全国で最も平均寿命の短い青森県民の健康意識(ヘルスリテラシー)の改善にまで徐々につながりつつある。将来的には着実に短命県返上を達成し、そこで得た知見・ノウハウを弘前COIモデルとしてとりまとめ、国内はもとより、アジアをはじめ、広く海外にまで波及させ、世界人類の健康づくり(SDGs)に貢献していきたい。
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