目的 これまでの調査研究から,家庭における節水効果は非常に高く,節水を意識することで約60%~90%を削減できる可能性について報告してきた。さらに,小・中・高等学校の家庭科授業内では,食器洗浄指導の時間が十分に取れないこと,食器洗浄の行為そのものは,約8割が小学校の段階で発生し,約9割が親・家族から伝えられていること,大半が洗剤原液をつけたスポンジでこすり洗い後,大量の流水によってすすぐ方法を選択しており,洗剤と水の使用量や残留洗剤量は個人差が大であることなどを確認した。以上により,食器洗浄に関しては、洗剤の適量使用,適切な取扱い,衛生面を担保した洗浄手法に関して教育することで,行動に関する大きな改善が見込まれると考えた。具体的なアプローチとして、省エネ型の食器洗浄方法として,節水に関する情報をまとめたポスターを作成し、情報提供による食器洗浄時の水使用に関する意識・行動の変化を調査することとした。
方法 調査対象者は,新渡戸文化短期大学生活学科食物栄養専攻学生1年生82名とした。まず、節水に関する情報提供前の1回目の意識・行動調査を2015年7月24日に実施し、情報提供した後、11月27日~12月1日に2回目の意識・行動調査を実施した。
残留洗剤量の調査については、情報提供前の洗浄テスト内容として、3種類の食器類(ポリプロピレン、磁器、ガラス)のいずれか1種類を通常自宅で行っている方法で、洗剤使用量や水量などの指示を与えずに洗浄することとした。使用水量は愛知時計電機(株)製 瞬時・積算流量計(NW-10-DTN)を、洗浄後の食器の残留洗剤量は(有)筑波総合科学研究所製ユニメーター(UM-1)を用いて測定した。
情報提供後の洗浄(2回目)では,1回目と同じ食器を選択し、昨年度の研究結果から抽出した節水・節湯に効果的な食器洗浄方法をまとめたポスターにより、洗浄行為前に情報提供を行った。その手法にて必要となる洗いおけとしての小ボウル及び希釈洗剤を用意し,水量は蛇口から出る水の太さを鉛筆程度として使いすぎないよう指示した。
洗剤は,界面活性剤含量が14%(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)と比較的低く、その他の成分を含まない市販の台所用中性洗剤(
ミツエイ
(株)製ハーバルフレッシュ)の原液または希釈液(洗剤の使用料の目安の表示に従い原液1.5mLを水で希釈し、1Lとしたもの)を用いた。一方,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下LASと称す)1g/L溶液(1000ppm相当)を調製し,これを原液として水で希釈した0.25~2.00ppmの標準液をユニメーターで測定して、検量線を作成した。低濃度側では多少のばらつきが見られたものの、正の相関が得られたことから、これを用いて残留洗剤量(ppm)を算出した。
結果 情報提供後では、提供前に比べて、食器の材質の違いにかかわらず、水量、洗剤使用量、残留洗剤量が削減された。水使用量、洗剤使用量、残留洗剤量の削減率は、それぞれ3種平均で57.9%(1.06L→0.44L)、86.4%(1.11mL→0.15mL)、37.7%(1.46ppm→0.89ppm)となった。PP樹脂では、43.9%(1.03L →0.58L)、86.4%(1.11mL→0.15mL)
、57.3%(1.82ppm→0.78ppm)となった。磁器では、71.5%(1.29L →0.37L) 、86.1%(1.08mL→0.15mL)、32.4%(1.35ppm→0.15ppm)となった。ガラスでは、57.8%(0.91L→0.38L )、86.5%(1.11mL→0.15mL)、14.1%(1.20ppm→1.03ppm)となった。
水使用量は、情報提供後に全体的に減る傾向が認められ、表面がつるつるしていると感じる磁器やガラスは、PP樹脂と比べ、水の使用量がさらに少なくなっていた。洗剤使用量については、情報提供後に希釈洗剤を使用した結果、明らかな低減が得られた。
洗浄後の残留洗剤濃度は、原液を使用した場合に水を多量に使用しても1ppmを超えていた。一方、情報提供後の希釈洗剤を使った場合には、材質にかかわらず減少傾向が見られ、ガラス以外は1ppm未満となった。今後その点を考慮した情報提供が必要であるが、正しい洗浄方法の情報提供を行うことは節水に有効と言える結果が得られた。
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